我知らずうちに慣らされていた体はそれだけの行為に
も過敏に反応してしまう。
 みっともなさに唇を噛み締める僕の耳に、絶対君主の
言葉が注ぎ込まれる。
 「唇…切れてるぜ、紅葉。薄くて綺麗な形をしている
  んだから、何も自分で傷つけることないだろうが」
 喉の奥でくくっと笑った後、耳元で遊んでいた唇が、
僕の唇の上に戻ってきた。 
 強く噛んだために歯が唇を傷つけてしまったのだろう。
 鉄の味がする唇を、龍麻の舌先が癒すように嘗め上げ
てくる。
 「紅葉の血の味ってたまんないよな。こうやって紅葉
  を抱きながら、血の匂いを嗅いでいると"我を忘れ
  て貪りてー"って感情と"できうる限り優しくして 
 やんなきゃな"ってな感情がそれはもう凄まじく交
  差するんだわ」
 確かに行為の最中で、龍麻の動揺を感じることは少な
くなかった。
 いつまでもいつまでもイかせてもらえない苦しさに涙
が滲む状態に追い込まれることも多々あるし、揺さぶら
れ続け枯れ果てた声で龍麻の名を呼ぶことを強要された
ことも一度や二度の話ではない。
 かと思えば逆に、一晩中僕の顔を見つめながら、労り
の優しさだけを込めて仕事で疲れ切った足の筋肉をマッ
サージしてくれることもあった。
 「まー今日に関しては、紅葉を追い込むのが前提だか
  ら、いわずもがなってもんだけどさ…」
 ぐっと胸に体重をかけながら覆いかぶさってくる龍麻
の指先が、太ももの肉をほぐしつつ僕の体の緊張を解い
てゆく。
 「なんでこんなに太もも、堅いんだろうな?準備運動
  もろくにしない状態で全力疾走五十メートルを三十
  本やったのと変わらないぐらいって、とこか」
 僕の中でまずは一度、たっぷりと吐き出した龍麻は、
萎えもしない肉棒を抜き出すこともせずに、僕に腰を振
ることを促した。
 しかも体の奥底まで銜え込んでしまう騎乗位の態勢で。
 さんざん思う様突き上げるのに合わせ急かされるよう
に、幾度もいかされた。
 常日頃から丹念な習練を重ねる僕ですら息があがるほ
ど、激しい行為を繰り返された日には、鍛え上げた太も
もだって筋肉疲労ぐらいは起こす。
 今もまた、龍麻の指が食い込むにまかせて、僕の意思
とは関係なくびくびくっと太ももから神経の通った足先
までもが震えた。
 「そうさねー。仕事なんかできない程度には狂っても
  らいたいやな。さて、どんな体位がいいかねぇ。何
  か、リクエストでもあれば応じますけれども?」
 言いざま大股を開きの格好をとらされる。
 「龍麻!」
 「何?今更恥ずかしいってわけでもないっしょ。紅葉
  のナニもあれだけ出したのに、もうこんなに滴って
  るじゃん。高校生の性欲なんてこれっぽっちも自分
  の思う通りにならないんだから、洒落になんないよ
  な…」
 しみじみと人の体の上でとんでもないセリフを吐いて、
至極楽しそうに僕を見つめる龍斗の指が、持ち上げられ
て隠すこともできない無防備な足の付根を探り出す。
 下から上に向かってきゅきゅっと扱き上げられれば、
自然と腰が揺れて淫らな動きでうねった。
 「この反応がさーいっつも楽しいんだよな。へたな女
  どころか、どんな女より紅葉とするのが気持ち良い
  ってんだから、俺も終わってるとは思うが」
 「………僕も龍麻……とが、いいよ?」
 本当に心の底から思っているのかと問われれば難しい
が、少なくとも僕が龍麻に犯されるしかない状況を作っ
て甘んじている時点で、特別なのだと思う。
 他の相手なんてとてもじゃないが考えられないし、考
える気もない。
 「そりゃそうじゃないと困るって。紅葉さんのために
  こんなに頑張ってるんだぜ。たーんと狂っていただ
  かないとさ。いよ、っと!」
 シーツの上に投げ出していたもう片方の足も"よっこら
しょっ"との掛け声と共に龍麻の肩の上に担ぎあげられて
しまう。
 慌てて浮き上がった腰と肩を両手でバランスと取りな
がら支えたけれど、腰はゆらゆらとまるで誘っているよ
うに揺らめいて止まらなかった。
 「そんなに、欲しいんだ?」
 積極的に欲しいことはないのだが、そう見えるのだろ
う。

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