ベルトはバックルまでもが、上等な皮で出来ていた。
差し込む針までもが、獣の骨でできているという。
それこそ、SとMのプレイなんかに雪崩れ込んで、ぴしぴしと奴の身体を打ってやるには、
ベストなアイテム。
時々。
嗜虐嗜好が見え隠れするマスタングを掌ではなく、道具で打つのは私の役目だった。
掌でならば、ヒューズ坊や嬢ちゃんがいたからな。
っと。
ヒューズ坊や嬢ちゃんが、まさかこいつのM心を満たしてやる為に叩くとは思えんから、
この場合持ち出すのは間違ってるか。
失敬失敬。
俺が一人、間抜けた思考をめぐらしているとは思いもしないマスタングは、ズボン越しに
とはいえ実にイヤラシく太股やアレ、足の指先までをもベルトで丁寧になぞった。
日常ではそんな事もないのだが、こいつは一度SEXを楽しもうという思考に切り替わると、
全身性感帯の持ち主になってしまう。
びっくりするほど、呆気なく乱れる様を面白いとは思えど嫌だとは考えもしないので、
いいのだが。
何時見てもその変化は鮮やかな物だ。
勿論今も、十分にその気なのだろう。
何より激しく上下する胸と、離れた場所にいる俺の耳元で紡がれているようなリアルな呼吸
と、紅潮しきった顔、濡れた瞳。
言葉になどしなくとも、幾らでも見て取れた。
せんせ?
唇が俺を呼ぶ。
脱がして欲しいと、濡れた瞳が謳っている。
そろそろ、いいかな?とも思ったが。
今回はせっかくの、すとりっぷしょう、だ。
全裸になるまで、頑張って貰おうか。
口の端を、にいっと吊り上げて、顎をしゃくる。
暴君にでもなった心持だ。
瞳の端に、僅か。
落胆の色を乗せたが、それも極々短な時間。
意を決するまでもなく、ズボンのボタンに指がかかった。
綺麗なシルバーのボタンが、ぷつりぷつりと外れる。
ジーとファスナーが下ろされる、音。
静かだからな、んな、些細な音でも良く響く。
腰をくいくいと捻って、計算しつくされた緩慢な動きで、ズボンを下ろした。
太股、膝小僧、足の甲から指先が晒される。
見事な、白さ。
あらぁきっと、ビキニパンツっていうんだろう、体のラインを露骨に見せる下着を穿いてやが
る。
色は淡いブルー。
黒だの白だのじゃねぇって、トコがまた。
あざといやな。
見事に勃起しているアレの形も、いやらしく。
俺はふと、親父だなぁ、おい!と我ながら突っ込みを入れたくなる妄想に走った。
や、妄想だけで収めるにはあまりにも惜しい。
「おい?」
「はい?」
「こっち向いたままで、四つん這いになれや」
獣の体勢を強いても、マスタングの表情は揺れない。
微かに新しい歓びの色すら見せながら、上目遣いのままで、それはもう綺麗に四つん這い
の体勢を取った。
予想通りの、イイ眺めだ。
小さな下着を持ち上げているアレが、この位置からなら丸見えだったのだ。
既に先走りで濡れて、小さな口をぱくぱくさせてやがる。
俺に、舐めて欲しいってな?
目線に気がついたのだろう。
マスタングは腰を突き出すようにして、立ち上がり、下着に指をかける。
これまたシルクだろう、下着はあっけないほど簡単に、奴の体から滑り落ちた。
後には、もう。
一糸纏わぬマスタングの姿がある。
「……どうでした?私のストリップは」
「……てめぇの目で、確かめてみろや?」
近付く事を許せば、らしくもなくいそいそと近寄ってきて、ベッドの下にひざまづく。
こいつの部下が見たら、驚くだろうなぁ。
従順さも、淫猥さにも。
バスローブの上から、そっと股間を撫ぜられた。
「んなんで、わかるんかよ?」
「熱はね。わかります。凄く、熱いですね。せんせ。興奮してくれたみたいで嬉しいです」
「脱がせて見ろよ?もっと、いい具合だぜ」
「ええ、無論」
期待に咽喉がこくっと蠢くのを、俺は見逃しちゃあいねぇぜ?
自分がやったストリップと手順に則って、ゆっくりとした手付きでバスローブを肌蹴られた。
途端。
股間に鼻を埋められる。
「おいおい……んなに、我慢が出来んかったのかよ?」
無言で、すんすんと匂いを嗅ぐ様に、そう簡単には勃起しないはずのナニが、ぐんと角度を
上げた気がする。
「だって、せんせ。いい匂い、ですよ」
「ああ。そういやお前さん。匂いフェチなんだっけ」
気質は猫の癖に、体質は犬って訳じゃねーけど、こいつは、昔から異様に鼻が利く。
昼に人から貰った、たった一本の貰い煙草の香りを、夜に嗅ぎ分けるのだ。
先生、どなたからか、煙草貰ったんですか?と。
あの、イシュヴァール時にも、そういう意味だけでなく鼻が利いたので、純粋に勘が良いのか
と思ったりもするのだが。
「ここも、ちゃんとにシャボンで洗ったんですね。良い、香り」
「やる時のマナーだろうが。念入りじゃねーぞ」
「それも、好みです」
俺を見上げて、いちいち目線を合わせてくる。
そうすると、俺が、自分が興奮するのを重々承知しているから。
「お陰様で、すぐに銜えられますし」
気がつけば下着も、膝辺りまでずり下げられていた。
嬉しそうな顔が、一部の躊躇もなく、ぱくんとナニを飲み込む。
一息に、奴の唇に俺の下毛が届くほど、深く銜え込まれる。
何ともツボな温かさと柔らかさに包み込まれる、肉体的な快楽よりも、
そこまで俺を欲しがって止まない、精神的な愉悦が勝った。
「旨そうに、喰うな?」