「んああ。軽く浴びるわ」
「私は?ご一緒しますか」
「や。ベッドで大人しくしてろ。せっかくだからストリップ所望なんで、一人で脱ぐなよ?」
「……オヤジですね。先生」
「俺はまさしく親父だ。今更イチイチ指摘されるほどでもないな」
まだ、何か言いたがるマスタングを目線一つで制し、バスルームへと足を踏み入れる。
付随する洗面台の引き出しを開けば、大人のおもちゃやローションといったものが、綺麗に
並べられていた。
ひょいっとバスルームを覗けば、噂のスケベイスもある。
「……普通のビジホだと思って入ったら驚くだろうな?」
商売している女性をつい、呼びたくなってしまうかもしれない。
その辺もオーナーの考える所なのだろうか。
「って、俺には関係の無い話だが」
せっかくなので、スケベイスの上に座って、後でマスタングに奉仕させるのも悪くないと思い
ながら、簡単に汗を流す。
一応シャボンも使った。
すっきりさっぱりして、意外にも清潔そうにぱりっとノリのきいたバスローブを羽織ってバス
ルームを出る。
迷ったが、下着はつけた。
バスローブの下、まっぱーってーのも悪くないが、やる気満々な気がするからなぁ。
ベッドの上には、入ってきた状態の格好のマスタングがちょこんと座っていた。
何だか、親の言いつけをきちんと聞いて待っている子供のような風情に、思わず微笑が浮
かぶ。
「せんせ?」
首を傾げるマスタングに、俺はのんびりと放置プレイを実行する事にした。
ベッドの上に所在なさげに座る奴の、ちょうど目線に真っ直ぐの位置にソファが設えてあるの
は、計算ずくなのか。
俺は膝を組んでよっこらせっと深く座る。
これまた成金趣味かよ?と疑りたくなるぴかぴかに輝く金色の灰皿を渋々引き寄せて、煙草
に火をつけた。
ふうっと天井に向かって煙を吐いてから、マスタングを凝視する。
「……すとりっぷ、しますか?」
おう、とも。
いや、とも返事をせずに、目を細めてやる。
マスタングの喉、が。
ごくんと唾を飲み込むのが見て取れた。
一瞬だけ目を伏せたマスタングは、すぐさま気持ちを切り替えたようだ。
こいつは、ホント。
色事に長けている。
放置プレイを楽しむ心境になったというか、切り替えたのだろう。
俺の目を濡れた目で射抜きながら、首に手をかける。
すぐにボタンを外さずに、するりと襟元を直す仕草がこれまた艶っぽい。
普段は元気になることがない息子も、バスローブの下で熱くなってしまって参った。
ほぅっと大きく息を吐き出しながら首から滑り落ちた指先が、一つ、一つとボタンを外してゆく。
よくよく見ればいちいち、ボタンを撫ぜ回しているのがわかった。
俺のナニの先端や、自分の乳首をなぞる指の動きにそっくりなのは、偶然でもないのだろう。
一番下のボタンまで外しきっても、すぐ肌を肌蹴たりはしない。
数回深呼吸をしてみせる。
筋肉質という訳でもないが、そこそこに鍛えられている胸がなだらかな隆起を繰り返した。
見え隠れする乳首は既に完全に勃起していた。
全く、見られるだけで感じてやがる。
とんだ淫乱ぷりに、内心舌舐めずりする、俺も俺。
不意に、片袖だけを脱いだ。
脱いだ部分も手首に巻きつける、何ともチラリズムを理解してやがる風情に、俺は鼻から
煙草の煙を吐き出す。
そんな俺に奴は目線を外して、足をぶらぶらっとさせて。
また、真っ直ぐに視線を合わせてきた。
続き、して欲しいです?
何とも生意気な挑発する眼差しに、俺も負けてはいない。
足だけを組み替えて、煙草を口に含み深く吸い込む。
その仕草を承諾と取ったのか、奴は身震いだけで残りの袖を落とした。
するっという、ワイシャツが肌を滑る音が聞こえてきそうな自然さ。
軍人にしては珍しくアンダーシャツを着ない奴の肌が、鮮やかに晒された。
もっと焦らしてきやがるかと思ったが、奴も案外、切羽詰っているのかもしれない。
若い奴ならこの辺りで、全裸になってベッドの海に飛び込んでいる所だろうさ。
眼鏡を外してしまえば、見えなかっただろう。
奴の肌にはうっすらと赤い烙印の跡が残っている。
俺に、跡を残す趣味はない。
そうなるとやはり、エドワード兄の仕業だろう。
見咎める視線に勘付いたのか、マスタングの指先がつい、つい、と跡に触れている。
奴が施したのであろう愛撫かと思ったが、そんなに優しいものでもあるまい。
本当は、そんな風に触って欲しいというマスタングの自己主張といったところか。
まぁ確かに。
ガキにこの身体は過ぎるだろうからな。
嵌って溺れて、あっぷあっぷ。
マスタングの身体を満足させる前に、自分の欲望に負けるのが関の山さ。
ワイシャツのボタンをきっちりと止めなければ見えてしまうのだろう、危ない位置から、鎖骨
や肋骨の上、キスマークをつけにくい位置までびっしりと。
年齢を考えると、何とも将来恐ろしいキスマークの嵐よりも、そこまでしてもマスタングが、
自分のモノだと思い込めもしないエドワード兄の、苦悩に口元がニヤついた。
マスタングの唯一が、自分ではなくて、他の誰かである事を承知してやまないのだろう。
認めたくなくとも、マスタング本人がきっと隠しもせずに晒しているに決っているから。
俺への執着と恋情を。
名前だけは出さずに、エドワード兄が自分に溺れすぎて、本来やるべき事を見失わないよう
に。
エドワード兄の為にと言うのならば、綺麗に切って捨ててやるのが一番なのだが、それを
しないのはマスタングがそれなり以上に奴を気に入っているからだ。
お互い温度の差はあれど欲しがっているものが似ているのを見て浮かぶの言葉は、極々
単純。
手離したくない。
の、一言につきた。
……エドワード兄と弟が再び放浪するならば、その後はもう少し、マスタングを構ってやる
つもりではいる。
俺から距離を縮めなければ、手も届かない位置で、マスタングのストリップショウは続いて
いた。
散々上半身を弄り倒した奴の、錬金術を操る時とこーゆー時限定で器用な奴の指が、
ズボンに掛かった。
最初は、俺ですら名前は知っている老舗で誂えてもらったという、やわらかな質感の皮の
ベルトを、しゅるっと抜く。