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 それが不思議と切なくて、唇を離すと頭を抱え込んで髪の毛に口付けた。
 「全く、恋は盲目とはよくいったものですね。…こんなにも、愛しい」
 決して私の瞳を見ようとはしない…見たとしてもそれは私の瞳を通して龍麻
の瞳に焦がれているだけの話…紅葉の首が、私の言葉を否定して小さく振ら
れる。
 冷め切った表情でされた所で、何がどうなるものでもなかったが、心の隅が
しくりと痛む。
 「……くだ…さ?」
 とぎれとぎれの息の中、紅葉が掠れた声をたてるので口に耳を寄せた。
 「何かいいましたか、紅葉」
 額に唇を寄せて目を開かせる。
 至近距離で見ないとわからない程度に濡れた瞳が数回瞬いた。
 「記憶…消してください…」
 「……そんなにも私と抱き合った事実を、なかったことにしてしまいたいので
  すか」
 そうでなければ、再び同じフィールドに立てないのはわかっているだけに、今
だけは。
 せめて私の腕の中だけは。
 「龍麻は半身ですから…迷惑をかけても…お互い…わかっているから…」
 龍麻の名など聞きたくもなくて、髪を引きのけ反らせた顎に歯をたてた。
 「わかっていますけど…他…方や…御門、さん…は」
 目を開いたままの額に、痛みを堪える皺が行く筋も刻まれる。
 「僕ではない…半身が…いる…はず…です、から」
 「…あれだけの修羅場をくぐり抜けて、どうしてそこまで甘やかな考えを持て
  るのでしょう。それも龍麻の教育の賜物ですか」
 黄龍は人の皮をかぶった思念体だという事実は、遥か昔の文献にも書か
れていた違えようがない現実だ。
 最も龍麻は歴史の中では初めて、その思念体を食って黄龍の持つ力だけを
継承してしまった強の者。
 まして力をほぼ百パーセント操れるとなっては人の介入できる余地はないに
等しい。
 「教育…の?」
 「わからなければ結構。龍麻も貴方がそれを知ることを望みはしないでしょう
  から」
 「望み…」
 「龍麻の望みは適いますよ。それは貴方という半身を手に入れたことからも
  わかります。龍麻の力に抗うつもりはありません…ですが、どうか…」
 紅葉のうなだれた肉塊に指を絡めると、体が枕の方へとずりあがった。
 力の入らないだろう両手で、私の胸のあたりを懸命に押している。
 肉に絡めた指はこすり立てるように動かしながら、紅葉の両手を頭の上で一
纏めにしてシーツに縫い付けた。
 「全ての人間が、半身を持ち得ているなどとは思わないで下さい。課せられた
  運命により初めから…半身がいない人間もあるのですよ」
 私と同等の力を持つ西の陰陽頭は、天地がひっくり返っても相入れない存在
だし、妙齢まで育てば私の生涯の伴侶となるはずだった少女は、わずか五歳
で呪い殺された。
 体中から血を流した少女が苦悶のうちに果てたのをまざまざと見たのは、私
が十の年。
 それも運命と割り切って、伴侶などなくても半身を持たなくても生きていこうと
決めた。
 類いまれなる力を更に完璧なものにるすためには、血の滲む努力が要求さ
れたが、失う辛さよりは何百倍も楽だった。
 でも、見つけてしまったのだ。
 血にまみれても死なない存在を。
 村雨も運の良さから死なない存在だが、違う。
 龍麻は黄龍そのものなので、私の観念からゆくと既に人ではない。
 他の宿星の仲間の中で、他に同じ印象を抱いた相手は弦月と骨董屋を営
む忍者。
 弦月には傍目から見ていても初々しいくらいに、大切にしている黒崎君とい
う存在があったし、骨董屋の主人は私と立場が同じ…闇に生きる意味を次世
代へと繋ぐ役目を担っているものだ。
 お互い進む道がある以上歩み寄りはしても、決して交わりはしない。
 最も時に酷く似通った質を感じる彼を、私が特別な存在に思えるかといえば、
無理な話だと、首を振るだろう。 
 その点、紅葉は龍麻に溺れるわけでもなく必要以上に…恐らくは大切にすら
思えず、自分一代限りの枷にのみ捕らわれている。
 何も継ぎ残すことがないという事実は人をより淡泊に、潔い者へと育てあげ
てゆくのだ。
 やはり人は自分には決して持ち得ない物を、持っている者にこそ恋い焦が
れるのだろう。

 「…ん…ん…御、門…さ…」
 「いいですよ?晴明と、呼んでくださっても。貴方の声になら…そそられます
 からね」         
 耳朶を甘噛みしながら舌を差し入れる。
 嘗め上げる音がリアルに響くのが嫌なのか必死に顔が背けられた。  
 「耳が嫌なら…どこがいいんですか…やはり…こちらですか」                    
 己の長い髪をかきあげて耳にかけると、頬のラインを舌先で辿り顎を伝って
胸へ。
 薄赤く濡れたように光る突起をひと嘗した後、爪でひっかけて押しつぶして
から親指と中指と人差し指の三本を使って、より立ち上がるよう愛撫を施す。
 「…と…め…ん…く…っ…つ…」 
 しばし喉につまる声を楽しんでから、指は横腹を舌先は真っ直ぐ臍のあたり
を滑らせて、ぷっくりと透明の滴を頭に乗せる肉塊に触れる。
 うなだれていた肉塊がすっかり勃ち上がり、ぬるりとした蜜が滴り指をまんべ
んなく濡らした。
 派手に揺れる腰を両手でしっかりと固定してから、丸い滴を掬い取るようにし
て嘗めあげて口腔で暖めるように静かに、奥まで銜え込んだ。

 初めて紅葉の体を犯した時に、随分と慣らされているのを知っても腹は立た
なかった。
 むしろ誰かに躾られた紅葉に別の癖を仕込む方が楽しいとすら思う。
 愛しい人間の手ではないのに感じてしまい、乱れ狂うのを恥に思いながらも
とまれない…そんな目に見える葛藤を楽しむくらいの余裕ならどんな時でもあ
った。  
 「…!…み…か…」 
 「先程から言っているでしょう?晴明と、呼んでいい ですよ…と」           
 「頼む、…か…ら、もう…で…んんっ!…」     
 親指と人差し指で作った輪を肉塊の根元で締め上げる。
 「いやだ!…はる、あっ…きぃ…」

 

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