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 無意識の内に背をのけぞらせて、避けようとすると。
 「逃げるな」
 断定的な言葉が下りてくる。
 怒っている風にも聞こえるそれは、村雨さんがいきつく証で、僕は堪え切れな
い涙を浮かべながら、胸の中ゆるい安堵を覚えた。
 「ん……あ!」
 口から剛直が抜けて、僕の顔に容赦なく精液が降り注ぐ。
 「だから、逃げるな、と言ったんだがな」
 口の端に苦笑を浮かべた村雨さんが、ティッシュボックスから、二、三枚取り
出して顔を拭ってくれる。
 「普通のティッシュだと、顔が、パリパリになりますから」
 舌に残された村雨さんの精液を飲み込んでから後ろ手に、かって知ったる何と
やらで、ダッシュボードの中に入っている濡れティッシュを取り出すと、眦につい
ている液体を丁寧に拭い取った。
 「さて、と。綺麗なお顔になったところで、本番といきますか?」
 顔を上げた僕の瞼の上、大きく腰を屈めた村雨さんの茶化すような口付けが
届いた。
 「上で頑張って頂けますかね?それとも、下で、にゃあにゃあ、鳴いてみっか?」
 「誰がっ!!にゃあにゃあ、鳴くんですか!」
 「お前さん以外に誰がいるんだ?いいじゃねーか。可愛いんだから」
 ひょっと脇の下に手を入れられて抱き上げてくるので、膝の上に乗せられて
の騎乗位かと思ったら、横抱きに抱え込まれた身体はシートの上にあおむけ
で寝かしつけられる。
 「にゃあんと、鳴いて貰おうか?たーんと鳴かせたい気分だわ」
 笑っている瞳に、微か、剣呑な色が混じる。
 本気で僕を犯したいと思った時に見せる、瞳の中に浮かぶささやかな、影。
 折っていた膝頭を撫ぜながら滑った掌が、ぐっと足首を掴む。
 爪跡がつくような強さに眉を顰めれば、慈しむような触れるだけの唇が瞼に
下りてきた。
 「怖かねーぞ?」
 村雨さんとのSEX以外には、かなり経験の少ない僕にとって、何より怖いの
は限界を超えた激しさから伺える、僕への執着。
 時折、僕は。
 僕だけが、愛されているんじゃないかと。
 思い込まされそうで怖い。
 「ええ、怖くなんか、ないですよ?」
 行為そのものは別に。
 くにゃくにゃにされるのも、悪くない。
 恥ずかしいのだけは、何時になっても変わらないけれども。
 「いいねー。そういう、かたくななトコ。好きだぜ」
 くくっと喉で笑った村雨さんの肉塊が、僕の秘所へあたる。
 既に収縮を繰り返しているのが、肉塊への微妙な触れ方でわかってしまうの
が、とにかく気恥ずかしい。
 いっそ早く入れて欲しいところだけど。
 村雨さんは、ここからが長い。
 わかりきっているのに、不意の衝撃に耐える為。
 ついつい接合部分を見つめてしまう。
 足首がシートに押し付けられている無茶な体勢のお陰で、嫌になるほど丸見
え。
 脈打つ血管も雄々しい肉塊は、いやらしく蠢いている僕の秘所に先端で触れ
ているだけの状態。
 くびれの所まででも入っていてくれれば、まだやりようもあるのに。
 これじゃあ、僕から欲しがるしか入れようがない。
 思い切って、ついっと腰を突き出すと、そのまま村雨さんの腰が引かれて、肉
塊は秘所に触れたままで逃げられてしまう。
 「村雨、さん!」
 「んー?焦らすなってか。いっつもこれぐらいは我慢できるだろうが。
  それとも何か、今日は堪え性がないのか?まー確かに久しぶりだもんな。
  カーSEX」
 こんな場所で、するのが好きなのだと指摘されて、かっと頭に血が上る。
 図星をさされなくとも、あんまりな物言いにはストレートに腹が立つものだ。
 「僕が、車でするの、好きだと思いますっ?」
 「いんや。思わんがな。俺とするのは、どこででも、好きだろう?」
 「……自信過剰なんじゃないです?」
 「それは、誰よりも。お前さんがよく知ってるさあ」
 つぷっという粘液質な絡みと共に、極々先端だけが僕の中へ潜り込んで来
る。
 「ん。あ」
 待ってましたとばかりに鼻から抜ける甘えたなおねだり。
 「うわ……先っちょだけで、もってかれそうだ」
 「天下の、村雨さんが……よく、言いますねぇ」
 ちゅ、くちゅん、と括れの所までの出し入れは、じれったいだけ。
 「早くっつ」
 「焦れるなよ」
 「焦れもしますっ!いい加減、奥まで、ください!」
 言い切った側から体温が上がる。
 何度肌を重ねたって。
 どれほどの嬌態を見せたって、恥ずかしいものは恥ずかしい。
 「そんな風に、言うがな?ここまでしか入れない状態のピストンでもいけるだ
  ろ」
 「いけ、ませんっ!」
 「じゃ、試してみような」
 「やあっ!!」
 一番過敏だとされる個所で、そんな激しい腰使いをされた日には、涙目にも
なってしまう。
 「あ……は…んんっ……ああ……んう…」
 奥底の、鈍い部分で感じるからこそゆるやかな安堵と快楽を覚えるのだ。
 こんなに強すぎる交接では、泣き叫びたくなる悦楽しか見出せない。
 「い……駄目…も、もう……村、雨……さあ…んっ」
 「ほら……いけるじゃ、ねえか?……こんなにおつゆ垂らして、紅葉のここ、
  ぱくぱくいってるぜ」
 「や、そんなに、開かない、でっつ!!」
 もう白い物が混じった肉塊を握られながら、腰の動きは激しさを増す。
 ナニが気持ちいいのか、中が良いのか、もうわからない。
 身体から緊張と羞恥が抜け出てしまったように木偶の坊になり、甘っるい声
がひっきりなしに喉の奥から上がった。
 堪えようとすれば、余計に苦しくなって鼻にかかった喘ぎが溢れる。
 まだ奔放に声を散らした方がましな気がするのだから始末におえない。
 「いい……な……中、うねってる」
 「だから、そういう、こと、は……言わないで…って」
 



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