自分でもイヤになるほど自覚しているのだ。
快楽に爛れきっていても、自分がどれほど欲しがっているのかまでを忘れ
きるのは難しい。
村雨さんのが大きすぎて、ちょっと動いただけでも中のどこかに当って締め
付けてしまうから…かもしれない。
「も、奥まで……入って!」
自ら銜え込むには難しい体勢だ。
僕は必死の思いで身体を起こして、村雨さんの唇を噛むように口付けた。
「すぐ、いくなよ?」
固い肉体がずずっと僕の欲しがるところまで入り込んでくる。
この圧迫感と満たされる感じ。
下腹の辺りに緊張が走って、太ももと銜え込んでいる個所が、ひくっと震
えた。
「ん?ああ、よしよし。よく堪えたな」
はっはっと口で息をしながら衝撃に耐えてはみたものの。
今すぐにでもいきたい。
「……突い、て?」
「……言われなくとも」
ぐちゅぐちゅんと激しい交接音が頭の中で木霊するようだ。
村雨さんの攻めはここまできても、自分の快楽よりも僕の心地良さを優先
する。
触れられただけで、蜜が溢れ出る個所にがんがんと肉塊がぶつかってき
た。
「あああ。い、いっつ……」
頭がくらくらする抜き差しを更にねだって、村雨さんの口の端に唇をつけ
る。
こうすると繋がりがより深くなって、たまらない場所に触れた。
僕の唇の端が、ふっふっつと荒い息遣いでくすぐられる。
「さめ、さあ?」
村雨、さん。
「ん?」
「っと」
もっと。
「これ以上すると、壊れちまうぞ」
閉じたままの瞼に触れてくる優しい舌先。
「ても……壊れ、て…も…いい、から…し、てえ」
優しくなくていいから。
壊してくれていいから。
もう、いっそのこと。
貴方が与えてくれる肉の快楽で、あの人を忘れさせて?
「馬鹿、壊れたらもともこもねぇぞ?俺らは壊れない為に、こうしてるんだ」
冷静であるように。
蓬莱寺さんへの思いを、龍麻への思いを忘れないように。
いつか、叶うかと、夢を見続けて?
「や。もう……やあ……壊れて……忘れる」
「……駄々を、こねるな」
「や、そこ、やあっつ!」
刺激が強すぎる個所を抉られて、本気の悲鳴が上がる。
「壊れる…なんて……忘れる……なんて、言うなよ?」
「僕は……むらさ、め…さんが、いれば、もお……いい」
どんなに思ったところで、蓬莱寺さんは龍麻のもの。
告白したって玉砕は目に見えている。
どころか、二人に余計な気を使わせてしまうのだってわかりきっていた。
もういっそ。
「……貴方が……いイ……し、こ…うっ…」
焼き切れそうな思考の中、自分で口にした言葉に涙が溢れる。
優しい、貴方に。
みっともなくすがって。
女のように、無茶をねだる。
「貴方じゃ……なきゃ……」
「それ以上、言うな」
唇が塞がれたままで、奥の奥前犯し尽くされる。
吐き出した感情も、あえやかな喘ぎも全て飲み込まれて。
「あ、いく……」
新鮮な空気を求めて離れた唇からついて出たのは、そんな言葉。
腰を中心に体中を派手に震わせて、中でいってしまった。
「……紅葉っつ……」
びくつく中に、村雨さんの精液がどっぷりと注ぎ込まれた。
「ん…あ……出て、る?」
肩を揺らして最後の一滴までを孕ませられる。
全身で息をつきながら、ねぎらいの口付けを、と頬に唇を寄せた。
その時。
村雨さんの頬が濡れているのに、気がついた。
「え?し、こう?」
驚いて表情を伺おうと覗き込んだら、厚い胸板に押さえつけられるように抱
き締められた。
「お前が、泣くからだ」
「……もらい泣きって奴です?」
僕とて、泣き止んだわけではない。
すんと鼻を鳴らして、村雨さんの背中を抱き返す。
優しくて、暖かくて、力強い抱擁は。
もうこれ以上何も望めないと、思わせる激しさと切なさで僕を包み込む。
「馬鹿が……幾ら俺のコレがいいからって。泣きながら俺じゃなきゃ嫌だな
んて言うな」
自分の感情がもう限界まできていたのは知っていた。
追い詰められた人間が漏らす喘ぎに、真実味がないだってわかっている。
でも。
「泣かなければいいですか?」
だって、どんなに思っても蓬莱寺さんは、僕を抱き締めてなんてくれない。
「貴方じゃなきゃ、嫌だって。言っても。いいですか?」
疲れ果てて、逃げて、辿り着いた貴方の存在は、僕の心に馴染みすぎた。
「紅葉……」
もう、涙は伝ってはいなかったが、明らかに泣いたとわかる充血した瞳が僕を、
真っ直ぐ見つめてくる。
「今更お前を手放せるほど、俺は。強かねーよ」
濡れた唇が瞼に触れて、唇を塞ぐ。
「いいんだな。お前じゃないと、駄目なんだって。言ってもよ?」
時折掠めるようにして見せた真摯なまなざしが、目の前にあった。
「ええ」
例えばすぐに。
蓬莱寺さんを忘れられるかといえば、それは無理だ。
でもきっと。
貴方が側にいてくれるなら、胸が締め付けられる痛みもいつか。
切ないだけでもない、想い出に変わってくれるだろう。
END
*村雨×壬生
テーマは一時流行った歌、一青 窈氏の『もらい泣き』です。
『優しいのは そう 君です』で村雨じゃあ!と(笑)
後は、泣く村雨ってのを書きたかったんです。
攻め様の泣き顔っていいんですよねー。
今度は犬神でも泣かせてみようかしらん。