囁くのと同時に紅葉の腰を引き寄せれば、ぺたりと太ももの上に引き締まっ
た尻が落ち着いた。
 「自分で入れてくれるね?」
 「僕が……上だと、きつくないですか?何だか怪我に悪そうな気がしますけ
  ど」
 照れているのか、困った顔をする紅葉の腰を軽く叩いて先を促す。
 「大丈夫だよ」
 「……最初はいいですけど、最後は責任持てませんよ……」
 それは、僕の体に、それ、に。
 溺れてしまうと言っているのに他ならず、僕は紅葉の首を抱き寄せて唇を貪
った。
 いつ、口付ても甘いとしか思えないのだ。
 お互い甘い物を好んでは口にしない、唇同士でも。
 散々弾力に富んだ舌の感触を堪能した唇で、息苦しさのためか目の縁にう
っすら涙を浮かべた紅葉の、目の端に唇で触れ、震える瞼をそっとなぞる。
 「よいしょっと」
 僕を迎え入れようとする紅葉の腰に手をあてながら、空いた手で電気のコー
ドを引く。
 壁にあるスイッチをいちいち消しに行く時間が惜しくて、身体を横たえても届
く位置までコードを伸ばしたのは正解だったと、こんな時に思う。
 「如月さん!」
 「翡翠」
 「……翡翠さん……なんでこの状態で明るくするんですか!」
 やっぱり慣れない風に僕の名を呼んで、声を荒げて抗議して寄越す様も乙。
 「え?せっかくだから見たいなーと、思っただけだよ?」
 両腕で紅葉の腰を抱え、僕の肉塊の上にと固定させる。
 「紅葉が僕を、銜え込むところを」
 「……悪趣味っ!」
 一体誰が紅葉の、こんな顔を想像するだろう。
 真っ赤に頬を染めたままでの、幼い膨れっ面。
 顔の赤さも多分に残したままきゅっと目を閉じて侵入の衝撃に堪えるべく、
晒す喉もとの白さに目を奪われながら、抱えていた腰を強く引きずり下ろす。
 「……ふっ……」
 喉が引き攣れたような、微かな苦叫。
 「辛い?」
 右手を伸ばして、眦に溜まっている水を指先で払う。
 「いいえ?思いの外、その……」
 「僕のが元気だった、と」
 「………そういうこと、です」
 この世に存在する何よりも大切な者が自分の手の内にあるのだ
 興奮しない方が、おかしい。
 紅葉を思って一人でする時よりも、ずっとずっと堅い肉塊はたぶん。
 僕の喜びのためというよりは、紅葉の悦びのため。
 きっと飽きるほどしても、きつく僕を締め付けてくる中の心地良さは変わらない
だろう。
 今日もまた僕の肉塊が好きで好きでしょうがないんじゃないか?と問い詰めた
くなるほど、貪欲に締め付け何もかもを吸い上げるように蠢く。
 「凄いよね。僕全然動いてないのに、紅葉の中。きゅうきゅう動くんだから」
 「……そ、いうことを。言う人だとは思いませんでした」
 「え?だって好きだろ?言葉攻めって奴が」
 言った途端、中がびくっと痙攣する。
 「ほら、ね」
 「違います!翡翠さんが、突然変な事を言う、から!」
 確かに、言葉攻めで盛り上がるというよりは、単純に羞恥心が煽られるといっ
たところだろうけれど。
 こんな風に、一生懸命に否定された日には。
 どうしたって追い詰めたくなる。
 「そう?なら、黙ってしようか。こうやって」
 両の手で紅葉の腰を指の跡が残るくらいに掴んで、ぐっと自分の肉塊に押し
付ける。
 「つ、あああ」
 肉塊の形を中で感じるのも許さないリズムで、持ち上げて引きずり落とす。
 「んっ?翡翠、さ?」
 無口になった僕を、不安そうな瞳で見下ろしてくる。
 黙ってやるのも悪いもんじゃない。
 こんなに可愛らしい瞳で、見つめられるのなら。
 わざとらしく手を離して、ぽんぽんと紅葉の腰を叩いて動いてくれと促す。
 もっと欲しがって欲しくて、僕は自分の両腕を頭の下、枕にした。
 恥ずかしいのだろう、しばし戸惑っていた紅葉の腰がゆったりと動き出す。
前後左右上下と自在に。
 僕の快楽を引きずり出すように。
 自分の快楽よりも相手のそれを引きずり出す事にだけ、手馴れたSEX。
 集中して感じていれば、どちらが抱いているのかわからないほど僕の息は荒
くなってゆく。
 たまには、己の快楽を突き詰めてみればいいのにと笑えば。
 できないんですよ、と寂しそうに微笑まれた。
 自らの快楽を全て封じる代わりに、お母さんの無事を祈ってきた紅葉に、そ
れを求めるのは酷なことかもしれない。
 けれど僕は、どうしても快楽に溺れる紅葉が見たくて。
 紅葉が許容するぎりぎりの、行為を強いる。
 目の前にある立ち上がった先端に滲む液を擦りつけるようにして、扱き上げ
れば、紅葉の腰の動きが止まる。
 言葉にはせず、微笑んで、続けて?と首を傾げれば。
 先程よりぎこちなく、腰を振る。
 「んんん、ふうっ…っつ」
 後ろから前からと容赦なく打ち寄せているのだろう悦楽の波に、紅葉の瞳が
良く見なければ潤み出す。
 「あは……はっ…ん」
 息だけが堪えきれずに、触れればひたすらに心地良い唇から絶え間なく零れ
落ち、苦しそうに首が大きく振られた。
 自分で制御しているとはいっても、いかないようにしているせいだろう。
 快楽に堪えかねた太ももがびくびくっと大きく震えた。
 「……ふ、あ…?…」
 僕の胸にきつく爪をたてていることに不意に気がついた紅葉が、慌てて胸か
ら掌を離して、どこに置いたらいいのかわからないままに、まるで祈るかのよう
に指を合わせて。
その内の中指を、きし、と骨を噛む音がしたのかと思う強さで噛み締める。
 「…ひす、い、さん。駄目で、す……また、痕が、つ……く。か、ら」




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