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 見てもいられなくて、大人しく枕に顎の乗せて、床の間に飾られた花瓶を見るともなしに、見
やる。
 そう言えば、部屋に飾られる花は、皆。
 們天丸が生けている。
 大変意外だが、これを育てた天狗の一人に華道に長けた者があったらしい。
 人間と暮らす事になった時に、きっと役立つはずだ、と教えてくれたという。
 確かに華道は日本人に置いては、品の良さを現わす習い事のような感覚がある。
 どんな見目形をしていても、またどんな頓狂な性格をしていても、華道が出来ると言えば、
何故か受け入れて貰えるという不可思議な現象が罷り通っていた。
 俺は頭が固いので、そういった物の見方は好きでもないのだが、花に罪はない。
 們天丸の手によって生けられた一輪の寒椿は、赤も鮮やかに大変美しかった。
 「んーどないしたん?」
 「何がだ?」
 「ほにゃーっとしてるやろ」
 「……床の間の椿を鑑賞していただけだが?」
 「ほんま!」
 そんなに嬉しかったのだろうか、揉む手に力が入る。
 滑って、今は項垂れている性器に指先が触れた。
 「っつ!」
 痛みはないが、想像していなかった刺激に、自然声が漏れる。
 「わ!堪忍堪忍」
 慌てて指先が退いて、ほぉと溜息をつく。
 気がつけば、随分こりも解れてきているようだ。
 「霜葉が、わいを褒めてくれることなんて。滅多にないもんやさかい。なんやこう。嬉しゅうて!」
 「……俺は椿を褒めただけだが?」
 「そないに釣れない事言わんでもええやん!花生けたんは、わいやで!」
 「確かにそうなんだが……」
 どうにも正面切って褒める事が苦手だ。
 昔から随分と誤解をされ、先頃まで滅多に褒めない日常だったのだが。
 こちらの村へ住むようになって、随分変わった。
 「まぁ、霜葉が照れ屋さんなのは、よう知っとるから。ええけどな」
 「……」
 「足の方は、どや?」
 「お陰様で、だいぶ良くなった」
 「やろ!」
 「……ありがとう」
 「っつ!」
 先程の詫びも兼ねて素直に感謝の意を示せば、們天丸がいきなり固まってしまった。

 柄にもない自覚はあったので、しばし黙ってみる。
 だが、あんまりにも長く身体を硬直させているので、溜息をつきながら、その名前を呼んだ。
 「們天丸!」
 「……」
 返事がない。
 もう随分と経つのに瞬きすらしないが、大丈夫だろうか?
 「もーんーてーんーまるっつ!」
 我ながら間抜けだと思ったが、幼子や女性がするように伸ばし伸ばしその名前を叫ぶ。
 「……」
 一向に返事がない。
 息も殺しているようだが、一体何時まで息継ぎをしないつもりなのか。
 自分もそれなりに鍛錬を重ねているから、多少息を殺せもするが、ここまでは無理だ。
 「も、もんちゃん?」
 龍斗を真似て気安く呼ぼうとしたが、さすがに声が上擦ってしまった。
 これで、返事がないのなら一体どうすれば、良いのか……。
 奴の様子を慎重に伺っていたから、予測できた。
 們天丸が、すううっと大きく息を吸い込んだ。
 「……そうはぁ。っと! 勘弁してやぁ」
 「は? 何を勘弁するというのだ? 大体、貴様っつ! んっつ?」
 吸い込んだ息をそのまま注ぎ込む勢いで、接吻がされる。
 目を白黒したのは、唐突さと激しさが原因だろう。
 唇を解放されて、大きく胸を打たせる頃には、按摩で着崩れてしまった着物を綺麗に剥がされ
て、全裸にされている。
 「もんちゃん、て。ナニ? もぅ、無茶苦茶、かわいくてかわいくて、どうしていいかわからんよっ
  つ!」
 口調の強さは、そのまま顔中に降り注ぐ接吻の雨に成り代わった。
 唾液でぐしょ濡れにされるのは、いい加減、どうにかして欲しいのだが。
 そこまで。
 それこそ、嘗め尽くされるのではないかと思えば、下肢が怪しくざわめいてしまう。
 この身体は、驚くほど奴の手に慣らされているのだ。
 「うわ! 待て! よさないかっつ! 們天丸っつ」
 いきなり太股を抱え上げられて、尻を引き寄せられる。
 性器も袋の下、にやりと人も悪く笑う奴が、これからナニをしようとしているかなんて、解りきっ
ている。
 「また、もんちゃん、って呼んでくれたら、やめてもええで?」
 「誰がっつ!」
 「そう言うと思ったで?」
 くすくすと笑う唇が、蕾に触れてきた。
 皺を広げられる何とも言えない感触は、どうにも苦手で、思わず必死に声を上げてしまう。
 「阿呆がっつ! やめないかっつ! もんてんっつ!」
 「んーん? やめへんよ。先刻まで繋がってから何時もよりは解れとるけど、入れるのには
  まだまだ硬いさかいねぇ。我慢しいや」
 「何故、こんな事をっつ。我慢せねばならんっつ」
 大きな声でも出していなければ、鼻の奥から甘く蕩けた嬌声が突き抜けそうだった。
 だが、それも時間の問題かもしれない。
 奴の指が蕾を広げ、舌が中へと入り込んできたのだ。
 「ひ! うっつ!」
 体内を舐めまくられる感覚。
 容赦ない接吻よりも、更なる羞恥と愉悦を呼び覚ます愛撫。
 「うわ……すごっつ、ええよ? 中が舌に吸い付いてくる。たまらんねぇ」
 よく回る舌は、愛技を繰り出す最中も回転を緩めない。
 言葉攻めというのが、あるのだと教えて貰った。
 これが、恐らくそうなのだろうと思わざる得ない。

 「欲しい、欲しい。もっと、わいが欲しいって。蠢いてくれてるんよ」
 「知るか!」
 「……ふーん。そんなコト、言わはるのん? いいよ。別に。大変なんは、霜葉やから」
 気配には敏感な自分だが、色事のあれこれにはとんと疎い。
 しかし、その自分であってさえも感じた不遜な気配に、奴の髪の毛をがっきと掴んだが、
奴はそれを軽い首の一振りで振り払った。
 決して獲物は逃さないはずの俺の腕から、簡単に逃げおおせる事が出来るこいつが、
実は人外なのだと思う瞬間の一つ。




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