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 「そーは?」
 「……なんだ」
 「だいじょぶなん?」
 「今更、手前が。そんな間抜けた事を聞くのか」
 丸々一晩、寝かせては貰えなかった。
 御神槌殿の付き合いで、十日ほど村の外へ出ていただけだというのに、この仕打ち。
 「だってー。久しぶりのそーはやったんだもん。無茶せんように、やりすぎんように気をつけ
  たったんだけど……」
 「この、様か」
 村の中の戦闘派と呼ばれる一部の人間の中でも、トップクラスの腕と常日頃からの鍛錬を
誇る自信はある。
 だがしかし。
 その腕も鍛錬も、男と抱き合う為のものではない。
 普通では使わない筋肉や、無駄な緊張。
 そして暴挙ともいえるこの男の蹂躙によって、寝返りを打つにも苦痛が走った。
 「だって、一週間も離れたん。初めてやったろ」
 「……そういえば、そうだな」
 二人きりでしか使えない技もある。
 何より俺の体質や気質を、笑い飛ばすくらいの度量がある男だ。
 一緒にいるのが気楽なのを見抜かれて、九角殿からの頼まれ事も二人一緒が多かった。
 「わいも、一緒に行きたかってん」
 「仕方ないだろう。お前は、白炎殿に会いに行かねばならない用があった」
 「せやけど……」
 「俺の用は他の人間でもできた。しかしお前の用はお前しかできないだろう?」
 白炎とは、数百年を生きる妖狐だ。
 天狗に育てられた們天丸は、異形の者との親交が深い。
 闇に生きる者にとって、異形との交信は欠かせぬもの。
 ましてや名指しで請われれば、断る術などないのだと奴もわかっているはずなのだが。
 「わかっとるけど、わいは。霜葉と一緒に行きたかったんよ」
 「……一緒に行っていたら、こんな暴挙は許さなかったがな」
 「へへへ」
 「笑い事じゃないぞ。今日の昼は御神槌殿と一緒に昼飯を食べに母屋へ来るように、桔梗殿
  に呼ばれている」
 「それ、わいも呼ばれとるわ」
 「だろうな」
 旅に出ていた俺達を労って宴会を催してくれるのだ。
 們天丸は一人大喜びをしそうだが、御神槌殿も俺も余り人前で出るのは好かない。
 御神槌は日々説法に立っていらっしゃるが、俺は日中のほとんどは山に篭ってしまうし、
村人とのやり取りは皆無。
 龍斗や們天丸などを中心に、宿星の仲間の内、幾人かとの交友があるが所詮は限られた
物に過ぎない。
 九角殿はその辺りも心配して下さっているのだ。
 無碍にはできない。
 ましてや、こんな理由で宴席を欠席するなど、己が許せなかった。
 「按摩するさかい。そないに怒らんといてや」
 「按摩で直らなかったら……覚悟しておけ?」
 こういった事に疎い九角殿はさて置き、破壊層の九桐殿や龍斗にからかわれるのは、ほと
ほと疲れるのだ。
 「ほないしたら、早速しよか」
 「ああ」
 運良くというべきか、悪くというべきか、衣類は纏っていない。
 うつ伏せに横になれば、奴の身体が太股の辺りに乗ってくる。

 いぃいん。

 不意に、部屋の片隅で村正が鍔鳴りを起こし始めた。
 俺の体に圧し掛かる格好になった、們天丸を威嚇しているのだ。
 「そーはぁ」
 このまま頂けない行為に及ぼうとしているのなら、引き寄せもするが、昼飯の為にも、
今はこいつの按摩を受けねばならない。
 「大丈夫だ。村正」
 呼べば不服そうに一度、つぃん、と大きな音をさせて後、沈黙を守る。
 「本当に、忠犬やなぁ」
 「そんな物言いをすると、今度こそ切られるぞ」
 「わかっとるがな、はぁ」
 人どころか、異形にも好かれ体質の恋人を持つと、苦労してまうなぁ、と独り言には聞こえ
ない大きな声を出した們天丸は、慣れた手付きで俺の腰を揉みだした。
 
 「お痛い所はございませんか〜」
 「下肢全部。上半身も強張ってる感じだ」
 「あーね。霜葉って、何時も余計な力入るかんなぁ」
 「お前が、ヘタなのだろう?」
 「また!そないな!男の沽券に関わるような事、言わんといてや」
 太股の内側を、ぐいっと指圧されて、つい身体を硬直させてしまう。
 普段自分が触れない箇所に触れる指は、愛撫の指だと、身体が覚えこまされてしまっている
証に、自然。
 眉根が寄る。
 「はいはい。力抜いてや。くらげになるとええよ。ふにょーんと」
 「それは、何か。俺に骨抜きになれという事か」
 ただの言い回しに、ここまで拘ってしまうのは、もう、俺自身。
 こいつを自分の懐深くまで入れてしまってる自覚が、十分にあるからだ。
 「ああ。ええなぁ。霜葉がわいに骨抜きになんか、なってくれたら、伝説の抜か八をご披露して
  まうわ」
 「ぬかはち?」
 「んー。霜葉の中に入ったまま。八回射精するまで抜かないって事や」
 「ぶっつ!」
 噴出してしまった俺を、責めないで欲しい。
 元々人並み外れた濃い性行為を好む男だ。
 本当に、実行出来得てしまいそうな所が恐ろしい。
 「実際に試した事はないんやけどな。霜葉が相手ならご披露できると思うで」
 「謹んで辞退申し上げる。ん?つつっつ」
 「ああ。ここかいな。うん。かったいもんなぁ」
 太股の内側のそれもちょうど付け根の部分に、触られるとわかるしこりのようなモノがある。
 これが、こりの塊らしい。
 丹念に解すとなくなってしまうのだから不思議なものだ。
 「じゃ、ちょっと。気合入れて揉まして貰うで?」
 「ああ、頼む」
 会釈をすれば、何がそんなに嬉しいのだろう。
 奴の顔が、にへらあっと笑みに崩れた。




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