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 足を押さえられ、剥き出しの尻を奴の前の前に晒している体勢を続けて強いられる間。
 們天丸は虚空から、小さな壺のような物を受け取った。
 初めて見た時は驚いたが、今では慣れた物。
 こいつは人ではない友人を使って、日常で、この手の事をしてみせる。
 今だ嘗てない、強迫観念に駆られて、拘束から逃れようと頑張ったが無駄だった。
 「ひっつ!」
 顎で俺の足を固定させた們天丸は、指で広げた場所に壺の中身をとろとろと垂らす。
 「よせっつ!」
 暴れればきつく、足首に歯を立てられる。
 血が流れるくらいの強さに、抵抗を忘れれば。
 滴った粘液質な物は、まるで生き物のように蕾の中へと入りこんで行った。
 「們天丸! 貴様っつ! 何をしたっつ」
 「んんー? わいの可愛い霜葉が、素直になる薬を入れたん」
 「薬って、何か。生き物みたいだったぞ!」
 「それは、霜葉の気のせいなんよ。これはただの薬。作ったのは多分、人じゃないけどな」
 「どこが、普通なん、だ?」
 奴の手が今までの拘束の強さが嘘のように、呆気なく離されたので僅かでも逃げを打とうと、
まずは体勢の建て直しを図ったのだが。
 身体が、全く動かない。
 「們?」
 「身体、全然動かないんやろ?」
 「なん、だ。これ?」
 「薬の効果。副作用は全然ないから、安心したって」
 「と、言われ、て。安心、できっつ、る、かっつ!」
 動かないだけなら、まだ良い。
 今まで経験したこともあるから、対応のしようもある。
 だが、身体の中からまるで、湧き水でも湧いて来るように溢れ出た熱の処理方法は、検討
もつかなかった。
 「大丈夫。すぐに、安心できるようになるって」
 言いながら、奴は私の性器を持った。
 「な!」
 途端。
 何の前触れもなく、射精をしてしまう。
 「ええ眺めやね」
 「ど、して」
 「これも、薬のせいや。だから霜葉? 我を忘れて……楽しみや」
 初めて見る。
 や。
 何度も見た事があったが。
その、眼差しが己に注がれたのは初めて見た。
 背筋が凍りつきそうな、残酷な目つきのまま、們天丸は霜葉の蕾を押し開き何かを収めて
しまった。
 「ああっつ!」
 また、精液が飛び散る。
 こんなに連続した射精は初めてで、瞼の裏が赤い光で満たされた。
 「張り方を入れたんよ。霜葉のイイとこにあたるようにしたん。好きなだけ、楽しみや?」
 優しく優しく髪の毛を撫ぜられて、射精したのか。
 蕾が収縮したせいで張り方が、中を刺激したのかはわからない。
 ただ、霜葉は。
 慣れない手法で体力気力をごっそり奪われて、自分でも意図しない甘い嬌声を上げた。

 「う、あっつ。も、んっつ」
 「ええなぁ。悶えるそーはは、想像してたよりごっつぅええわぁ」
 「何時も、それなりには、反応、してたではないかっつ」
 霜葉に取っては、それでも十分すぎるほどの羞恥と屈辱感を味わっていたと言うのに、まだ
足りないとでも言うつもりか。
 「そやね。それなりには、反応してくれてた……けどな?」
 們天丸はにっこりと笑って眼帯を取る。
 もしかして、初めて見たかもしれない、目のあるはずの場所に、何かが存在しているのだが、
それが何かが、認識できない。
 「わいはなぁ、そーは。それなり、以上のものが欲しいんや」
 気になる露になった彼の目に釘付けになっている間にも、張り方をいやらしく蠢かされる
 「う、わ、ああっつ。よ、せ。も、てっつ」
 「霜葉がもっともっと、わいに狂ってくれたら、すぐでも張り方でもない奴、入れたるよ、ほら!」
 びたびたを頬にあてられたのは、着物を肌蹴て剥き出しにされた性器。
 そういえば、こんな真近で見るのは初めてだ。
 交接の様子をわざとらしく見せ付けたりする們天丸だし、霜葉の性器は毎回飽きもせず好ん
で口にしていたが、自分にも同じことをしろと、強要することは一度だってなかった。
 「も、ん」
 「んー。なんや。えっらい蕩けた眼ぇして……もしかして、わいのこれ。根元までお口で銜え
  てみたくなったんか?」
 「お前が、銜えて欲しいのでは、ないのか」
 「欲しい、言うたら、してくれはるん?」 
 「して、やる」
 「嘘っつ!」
 信じられない、と言う風に見開く奴の顔が面白くて、大口を開けた霜葉は、何の頓着もなく、
  知識も持たずに們天丸の大きくて太い性器を根元まで飲み込んだ。
 「ま! そりゃ、無茶や!」
 奴の叫び声と、霜葉が噎せ返るのは同時だった。
 「気持ちは嬉しいけどなぁ。いっぺん全部は無理だ」
 「そ、い、う?」
 「ものだ。初心者なんだから、先っぽれろれろ舐めてくれるだけで、十分やで」
 呼吸を整えて唾液だらけの唇を腕で拭う。
 はぁ、と口の中の息をすっかり吐き出してから、們天丸の性器の、根元をぐっと握った。
 「や。そないしにしっかり掴まんでも、すぐに出したりはせぇへんよ」
 「この、方が。し、やすそうだから、だ。黙ってろ」
 霜葉は、まじまじと天を仰ぐ赤黒く肉々しい性器を見詰めてから、その先端を舐め上げた。
 「塩、辛い?」
 「何時もだったら、甘くなくて堪忍なぁ、って突っ込むとこやけど。霜葉は塩辛いの好きやった
  から、ちょうどええなぁ」
 「……們天」
 「なんやのん」
 「何時も、とは。どういうコトだ」
 「……えーと」
 「何時も、付き合ってくれる相手がいるなら、そちらを当たってくれ」
 どう考えたって、普通は女性のが良いに決まっている。
 もしてや、們天丸は驚くほど女性に人気がある性質だった。
 「違う! あれは、ただの処理だし」
 「これも、処理だろう」
 「そーはっつ!」
 体が今だ、熱く重い熱に犯されているのを振り払おうと、村正に手を伸ばそうとする側から、
きつく抱き締められる。
 「わいの、言い方が悪かってん。霜葉と処理の女を同列に出来る訳ないんや!」
 「でも、したな?」
 「つい! 霜葉に妬いて欲しかってん」
 「だから、他を! か! はっつ!」
 これ以上何も言うなとでも脅すように、深い場所へ張り方が押し込まれる。
 根元まで入ってしまっては、出すのも一苦労に違いない、と霞む思考でぼんやりとどうでも
良いことを思った。
 「許したって? なぁ、霜葉。わいが、みーんな悪い。やから、許してぇな」
 「俺が、許そうと、許すまいと……お前は好きにするだろう」
 「っつ!」
 「……ああ、今。何刻だ? いい加減に、時間、が、き……て……」
 また、新たな熱が体の奥底から湧き上がってきた。
 滝にでも打たれれば少しは、熱が引くだろうか。
 己の身体を抱え、ぶるりと大きく身体を震わせれば、們天丸が我に返ったように、霜葉の
瞳を覗き込み、一気に根元まで収まっていた張り方を抜き取った。
 「…………!」
 衝撃は声にならなかった。
 ただ、喉の奥でひゅうひゅうと耳障りな呼気が音を立てる。
 「すぐ、熱……引かしたるからな。待っときや!」
 そして、抜き出した張り方の代わりに、己の性器を押し入れてくる。
 体内に燻った熱よりも、更に体温が高い、灼熱の棒とでも表現できそうな性器に犯されて、
無駄な、コトを。
 と、滑り行く意識の先で無様な己と奴を嘲笑った。

 「っつ!」
 魘されて飛び起きる。
 どんな夢を見ていたのかは覚えていないが、悪夢には間違いない。
 全身が汗でべたついていた。
 は、は、と荒い呼気を紡いでから、ようやっとこんな時にはうるさいくらいの們天丸がいない。
 抱き合った後は、絶対側にいて霜葉の寝顔を飽きもせず見ているような男だから珍しいこと
だ。
 力の入らない身体を起こして首を廻らせれば文机の上に、一枚の半紙が置かれている。

 龍に呼ばれた!
 すぐ戻れるはずや。
 良い子で待ったって!

 と余程急いだのだろう、乱れて筆致が残っていた。

 こんなに急いで出かけるということは、何かがあったのだろう。
 きっと霜葉も呼れたはずだ。
 「行かないと、な」
 枕元に置いてあった村正が、早く行こう、と封印の鎖をがちゃがちゃ鳴らす。
 「そう、急くな。身体が動かないのだ」
 宥めるように言えば、村正は静かになった。
 霜葉が滅多なことで弱音を吐かないのは良く知っているからだろう。
 「これでは……無理か」
 立ち上がろうと浮かせた尻の重さは溜め息にしかでない。
 「もしかして、們天丸はこれを知っていたのか?」
 天狗に育てられるうちに身についた力は様々だ。
 その中に、予知能力というものもある。
 比良坂にもあるという特殊能力だが、これまた稀有な力を奴が保持しているのは不自然な
気もするし、これ以上はないほど自然な気もした。
 不意に訪れるのだという閃きにも似た們天丸の予知能力は、龍斗と霜葉に関わることに
頻度高く発揮される。
 これまで幾度も災難を避けることが出来たので、信頼はしている、けれど。
 「俺にだけ言わず、こんな身体にまでして、縛っておくのがな」
 どうにも、納得がいかない。
 常にはない行動の中に、奴の焦りを感じた。
 酷い難事なのだろう。
 それこそ、霜葉が行けば死ぬほどの。
 「理解はできる……しかし」
 だからこそ、頼って欲しかった。
 こんな、ぼろぼろの身体にしなくとも、奴が、龍斗が真摯に言うのなら、共に出ることはな
かったと思う。
 「本当に、信頼されてはいないのだと。女のように扱われているのではないかと思えば……
  虚しい」
 疲れた身体は、病んだ思考を併発する。
 志を失った霜葉の精神は滓のようなものしか残っていない。
 これで、身体までもが崩されてしまうのだとしたら。

 どこまでも歪んでいく思考に、霜葉は一人静かに笑んだ。

 「そうして消え失せるのも、悪くないかもしれないな……」
 
 本心から、そう思いながら。




                                       
          END



 *もそっと続くような気もしたのですが、この辺で。
   伝説のぬか八は、やっぱり難しいなぁ。      2010/09/11





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