甘い、声。
わざとらしくでもなく、かといって隠すでもなく。
絶妙な零れ具合。
唇に触れてくる乳房は、やはりどこまでもやわらかく、その癖弾力性に富んでいる。
何時までも、あむあむと歯を立てずに食べ続けたいくらいだ。
「閣下」
今度はねろーりと舌を這わせてみれば。
「そんなに、焦らさないで下さい」
熱い吐息は、耳朶を噛まれながら注ぎ込まれた。
「焦らす、うちに入らないだろうに」
「だって、そんな。胸、ばっかりなんて」
「駄目だよ。夜は長い。陽光の下で君の身体を隅々まで堪能するんだから」
「……それって、夜どころか、朝までなんじゃないです?」
「そう言われてみれば、そうだね。何にせよ、君の体力が持つまでになるとは思うよ」
ホムンクルスである私に、疲れや体力の限界は存在しない。
「女性になって、どれほど体力が落ちているかは想像もつきませんが。閣下が満足されるま
で、抱き合っていたいですね」
「全く……困った子だねぇ」
やれやれと肩を竦めてみせる。
この子と一緒にいると昔からつい、オーバーリアクションになってしまう。
自分でも気が付かぬ所で、そうすれば己の感情が容易く相手に伝わる。
少しでも分かってもらえると、そんな風に考えての行動なのだろう。
もう、意識しなくとも身に付いていた。
「本心ですよ?心の底からの」
「それはわかるけれど、ね」
「あんっつ」
まだ沈んでいる乳首の部分に軽く息を吹きかけただけで、腰が跳ね上がる。
もそもそっと、まるで永い眠りから起こされた風情でゆっくりと、まじまじ見ていなければわか
らないローペースでも、乳首が起立してゆく。
「こんなに敏感では、体力の限界よりも先に愉悦で失神かもしれないよ」
言っている側からも、ゆっくりゆっくり立ち上がってゆく。
小さな乳輪は綺麗な赤色だったが、こちらは紅色といった方がいいだろうか。
どちらにせよ、男をそそる色には間違いない。
「……そ…したら、無理にでも…起こして…して下さい」
「ふふ。出来るわけないと、何度言ったら分かってもらえるのかな?」
「……出来ますよ。閣下になら。心の底から、欠片の偽りもなしに、愛を囁きながら首を絞め
られる……アナタは、そういう、お人」
謳うように言い切った瞳は、濡れているが正気を差している。
壊れているが、真摯だ。
「それでも、私に君は、君だけは…そういう風に壊せないよ」
彼女の言葉は正しい。
この先、ここまで私の言葉を欠片も信じないのは彼女だけだろうと思う。
どんなに時間をかけて、心も身体も甘やかしたのだとしても、彼女の全てが私に向くことはな
い。
だからこそ、ここまで焦がれるのだ。
「ああ、でも。そうやって私の最後の望みを叶えてくれないのはとっても、閣下らしいです」
「そうかもしれないね。望みは自分で叶えるものだ」
「……はい」
目の端で彼女の瞳を、中央では乳首の変化を観察しながら、更にはロイ君の目線を受けつ
つ、とろとろとした会話を紡ぐ。
「凄いね、ロイ君の乳首。息を吹きかけただけで勃起しちゃったよ。ほら、見てご覧」
左の乳房を根元から持ち上げて、囁く。
首を伸ばして、興味深そうな色を乗せて覗き込んだ彼女は、眉根を寄せた。
「本当だ」
「嫌そうな顔をする必要はないだろうに。何しろ私が嬉しい」
「……閣下が喜んでくださるのは、私も嬉しいですが……女性の身体はここまで自分の思
うとおりにならないものなのですか?」
「君なら思うとおりにできると思うよ?」
「…頑張りますけど。この調子では先が長そうです」
ふうっと、深い溜息を絡め取るような口付けをして。
「いいじゃないか。私がずっと見守っている」
今度は右側の乳首にも息を吹きかける。
先程よりは早く起立してゆくのを、眺めながら、左側の乳首を口の中に収めた。
「やんっつ!閣下ぁ」
ああ、甘い声だ。
「何だね」
乳首を口に含んだままでも、正常な発音は可能だ。
ただし、正常であればあるほど、彼女の乳首にかかる負荷は大きくなってしまうのだが。
「そこ、あんまりしないで…下さい」
「まだまだ、これからだと言っているだろうに……」
完全に起立した乳首を口の中でころころと転がす。
舌に絡まる硬さが何とも絶妙で、ついつい歯をたてたくなってしまい、早速実行してみる。
「……っつ!」
荒い呼気が途切れて、詰まった。
「痛いかな?」
「……い、え」
「気持ち良い?」
「……かもしれません」
「わからないのかい。自分の身体なのに」
「どうにも、男性だった時とは、勝手が違うようで」
耳元に唇を寄せられて。
「立場も、違いますしね」
言われて、ぞくんと己のナニが震えるのを感じる。
これほど、男を動かされる言葉があるだろうか。
攻める立場。
それも、かなり巧みに相手を翻弄してきた相手に強いる受身の従順。
ぞくぞくぞくっと走った喜悦は、どんな表情となったのか。
「凄い、お顔ですよ」
びっくりした彼女の声が物語っていた。
「君の方が、イイ顔をしているよ」
「そうです?」
「ああ」
宗教に興味はないが、例えば信じるモノが目の前にいる彼女のような風貌をしていたら、
それだけで盲目的に信心できるかもしれない。
ロイ君の瞳の中には、何かを達観してしまったもの特有の凪いだ光がある。
どうにもそれが、私のように歪な存在には堪らないらしい。
「やっつ。だめっつ」
「痛くないのなら、いいだろうに」