ここまで姫だっこという奴で運んできたのだが、全く疲れないほどに軽いロイ君の身体も、
ふかふかの羽布団の上、すうっと沈み込む。
「…このまま、寝入ってしまいそうな肌に心地良い感触ですね」
「素肌にも、気持ち良いよ?」
「まさか、裸で寝ていらっしゃるですか?」
「君もきっと、癖になるだろう……さて、私はシャワーを浴びてこよう」
汚れてはいないが、少し汗を掻いている。
「一緒に浴びましょうか?」
「いや。君の香りを堪能したいからね。そのままで」
「……凄い口説き文句ですね」
「普通だろう」
髪の毛を掻き上げて、首筋に唇を寄せれば、花の芳香に似た甘さが唇の上で蕩ける。
「ぴかぴかに磨き上げていたい所だが、烏の行水だろうねぇ」
このまま押し倒したいのを堪えるのに、必死だ。
未だ嘗て、こんなに何かに急いたことはない。
「……閣下の、よろしいように」
はんなりと薄い微笑を浮かべたロイ君は、頬を枕に埋めた。
横顔で、上目遣いに見られるのも、これまたそそられると。
背筋がぞくぞくするのを耐えながら、シャワールームへと向かった。
全身をしゃぼんで擦りたて、情けない事にならないようにと、既に完全に勃起していたアレを、
ロイ君の媚態なぞを想像しながら、何とも人間らしく自慰をして。
我ながら、さっぱりした!という顔で、寝室へと足を早める。
教えた訳でもないのに、部屋の電飾は綺麗に落とされていて。
ベッドの真上に設えたシャンデリアが月の光を吸って輝く銀色の鈍い光だけが、ベッドに降り
注いでいた。
「……閣下?」
少し寝ていたのかもしれない。
舌足らずな声音。
「待たせてしまったね」
「あまりにも心地良いスプリングなので、転寝をしてしまいました」
ヴェールの向こう側にいるロイ君は、既に衣服を下着から全て脱いでしまったようだ。
ゆっくりと起き上がれば、布を隔てていても、見事に括れたウエストと豊満という表現が似合
いそうな乳房が見て取れた。
「服、脱いでしまったんだね」
「素肌で寝ると気持ちいいと言われれば、誰だって試したくもなるでしょう?それとも……
脱がしたかったですか」
ヴェールを持ち上げれば、ロイ君は私に両腕を差し出してくる。
華奢な腕を背中に回させて、距離を縮めると。
「君だって、元は男だ。綺麗な女性の服を脱がす楽しみを知らない訳じゃないだろう?」
唇の上、触れ合わないぎりぎりの位置で囁く。
「……それも、そうですね。では、次は着ておく事にしましょう」
二度目は無理なのだと。
壊せないくらいに、愛しいのだと。
伝わらないのは、寂しいが。
先もあるのだから、ゆっくり。
ゆっくりと教えてゆけばいい。
長い髪の毛に指を潜らせて、艶やかなその感触を楽しみながら、丸い肩に口付ける。
「そんな場所に、キスをして。面白いですか?」
「楽しいよ。君にするキスなら。君がしてくれるキスならば。どこでも。楽しいし、嬉しいね」
どこに口付けても甘くて、やわらかな感触が残るのは試さなくてもわかりきっていた。
「何だか、調子が狂います……」
君はきっと、わかりやすい陵辱を望んでいるのだろう。
応えるのは、さして難しくは無いのだけれど。
私が、悲しい、から。
できない。
「その内には、慣れるさ……先は、長い」
「……そうかもしれませんね」
肩口で話を続ける私の髪の毛を、そっと撫ぜてくるぎこちない指の動き。
私に対して、まるで恋人にでもするように優しい仕草をする日が来るなんて、君は、考えた事
も無かっただろうね?
それが、実行されただけでも、私は十分なくらいだ。
顎に力を入れて、くっと肩を押せば、抵抗する気のない身体は簡単に、シーツの上に投げ
出された。
「ああ、流れない。素晴らしいね」
私の為に投げ出された無防備な肢体を視姦しながら、私はうっとりと溜息をつく。
「流れない?」
「乳房だよ。ほら」
たゆんと掌に優しい肉の塊を、中央に寄せ集めるようにして持ち上げる。
「普通は横になると、乳房の形が崩れてしまうものだ。しかし君のは全く崩れない。弾力性に
富んでいるせいなのかな」
蠢かす指先の形のまま、姿を変える乳房の吸い付いてくる感触が堪らない。
もっと、触って!と自己主張している風合いが、何よりも。
「こんなに大きいのにね」
「……誤算、でした」
「ああ、ヒューズ君の好みではなかった?」
「ココまで大きいのは。たぶん」
「いいではないか、私の好みなのだから」
「…そう言って頂けると嬉しいです」
可哀想なヒューズ君。
この乳房を見る機会はあったかもしれないが、話の流れからして堪能する時間はなかった
だろう。
指先だけでも触れていたのならば、奥方も子も捨てて、この身体に溺れたに決まっている。
自分の嗜好なんか二の次だ。
それほどに、この身体は堪らなく蠱惑的。
「この乳房を覆い隠す下着は必須だね」
「おや。ずっとこのまま、服を着ない生活を送らせてくれるんじゃないんですか」
「この部屋にいる時は、いいけど。やっぱり皆に自慢したいよ。私は。君が私だけのモノになっ
たのだと。君だってそれを望むだろう?」
事情を知る人間の前で。
そこには勿論ヒューズ君もいて。
私に愛されて、愛している風に見せかける様を見せ付けたいだろう。
「閣下は、私の思いも寄らぬ欲を見つけて下さいますね」
「何。君も今は混乱しているだけだ。落ち着けばそのぐらいの計算は容易かろうよ」
目の前に、自分の望むとおり形を変える乳房が何とも卑猥で。
まだまだ掌と指先だけで感触を楽しむつもりだったのを、止めて。
ひたりと唇を寄せた。
「ん、あん」