前のページへメニューに戻る次のページへ




 無論、自分が大切にしている人形にすら優しい紅葉を、ミサが大事にしない
わけがない。
 男どころか友人ですら、興味がないんじゃあ?と思わせる日々の態度の中
で。
 紅葉への態度は、破格だ。
 何もかもを見通せる癖に、こうやって。
 紅葉の様子を聞いてみせる辺りがとても。
 「ちょっと、遅くなるみたいだ」
 『ごめんねーダーリン!』と首に抱きついてくる、舞子を軽くあやしながら返
事をする。
 俺の愛しいハニーは、こんな宴会日和の晴天下に、人殺しだ。
 「そっか〜遅いのは残念だけど〜?一緒に楽しめるのは〜嬉しいね〜」
 「そうさね」
 意外にも前向き発言をするミサに目を細めて答えれば。

 今度は、更に騒々しい軍団がやってきた。

 「コスモレンジャー参上!」
 こいつらの何が凄いって、この度を越したノリの良さに尽きるだろう。
 幼稚園児や小学生ならいざ知らず、高校生にもなって真剣に正義を語りな
がら、戦隊もののヒーローなんかをやってのける辺りが、生ぬるい笑いを誘う。
 三人ともが一芸に秀でているんだ。
 こんな突拍子もないことをしでかさなければ、それなりにモテたりもするんだ
ろうに。
 びしっと、登場シーンの決めポーズなんかまで堂に入っている。
 鼻で笑ってもいいんだが、ま。
 これから宴会に身を投じる人間としては……。
 「うむ。任務ご苦労」
 背筋をびっと伸ばし、後ろに手を組んで偉そうにふんぞり返って言ってみた。
 ミサがそっと俺の手に仕込杖らしきものを握らせてくる。
 や……ミサ、そこまでしなくてもいいんだぜ?
 確かに杖を握って、こつこつと地面を叩いた日には、おえらいさんの役に嵌
りきれるってーもんだけど。
 「遅くなってごめんな!龍麻。迷子を案内所まで連れて行っていたんだ!」
 せめて、ノリにあわせた俺の態度に突っ込みを入れて欲しいんだが。
 熱血野郎の赤井にそんな常識?は通用しない。
 「正義の味方は困っている子供を助けるのが義務だから」
 や?困っている子供を助けるのは、大人の義務だろう?
 なんて突っ込みも無駄なだけなんで言いやしないけど。
 赤井も桃香も、もそっとこー何とかならないのか。
 「とにかく、花見が始まる前に合流できて良かった」
 一番のほほーんとしている……本人は全くそんな風に思ってはいないだろ
うけれども……隼人がまとめ役ってーのが、もう終わってる感じ。
 誰が見たって『馬鹿丸出し』の彼らを、嫌いなわけじゃあ、ないんだけどな?
 「宴会芸にコレモレンジャーショーはねーよな?」
 「龍麻が希望するなら、やるけど」
 だから、真剣に眼鏡を押し上げるな、隼人。
 「希望しない。全く以ってしない」
 「じゃあ、やらないよ」
 眼鏡の下のたれ目が、ふよ、と細められる。
 サッカー留学なんてかませる奴なのに。
 やわらかく微笑まれたら、結構な美人さんなのに。
 根本はコスモレンジャー気質なのがおしい。
 まーそこもひっくるめて隼人たる所以なのだろうが。
 仲良しこよしのコスモレンジャーの中で、俺が特に隼人を好む理由は、日本
という狭い世界から軽く出て行ける実力を持っているからだろう。
 「そ、ここは宴会を準備した三人組に譲ってやってくださいよ」
 隼人の首をめがけて、軽いタックルをかましかければ、今度は。

 「えーコスモレンジャーショーないノ?」
 「せっかく衣装を用意してきたノニ!!」
 コスモレンジャーに勝るとも劣らないオーバージャスチャーで現われたのは、
異国コンビ。
 アランの腕にぶらさがるようにして、騒いでいたマリィが、とてとてと俺の側ま
で走ってくる。
 どん、とタックルをかまされても、小さい体が与えてくる衝撃は小さなものだ。
 「ねぇ?龍麻。コスモレンジャーショーやらないノ?マリィ、アランが活躍して
  るトコ。見てミタイのに」
 ワイシャツの裾をくいくいと引っ張って、上目遣いに青い透き通った瞳で見つ
められれば、俺の心も動かないでもないのだが。
 常識的に考えて、ショーは難しい。
 花見の会場に選んだ、織部神社は知る人ぞ、知るといった地味な桜スポット
ではない。
 近所の人間は無論。
 わざわざ電車を乗り継いで、駐車場の過酷な争奪戦に打ち勝つ手間を惜し
まない人が押し寄せてくる。
 混雑が目に見える神社で、コスモレンジャーショーなんてやったら迷惑極ま
りない。
 雪乃も雛乃も優しい奴だから、俺が『やりたい!』一言言えば、会場にでき
る場所を押さえるぐらいやってくれるが、どの道無謀な話だ。
 「花見の会場がすっごく混むんだ。そんな場所で人がたくさん集まるコスモ
  レンジャーショーなんかやったらパニックが起こって雪乃や雛乃に迷惑が
  かかってしまうんだ。わかるか?それにな。アランの活躍はいつでも見れ
  るだろう?」
 「雪乃お姉ちゃんや雛乃お姉ちゃんに迷惑がかかるの?」
 「ああ、そうだ」
 「わかった。じゃあ、諦めル」
 「よしよし、いい子だ」
 俺はしょんぼりと項垂れるマリィの身体を抱き上げて、あやしてやる。
 「ってな訳だから、格好良いところ、見せてやれよ、アラン?」
 ノリの良さは宿星の中でもトップクラスを誇るアランの対応は、いつで
も素早い。
 「もちろんネ!コスモレンジャーショーとはいわず、格好良いトコロお見せす
  るヨ!」
 少し落ち込みから回復したマリィの身体を俺の手から、奪うようにシテ抱き
上げてひょいっと肩車をする。
 体が小さいとはいえ、肩車をするとしでもないと思うのだが、マリィがすっご
く嬉しそうにアランの髪の毛を掴んでいるので、良しとしよう。
                                                    
                   


                                      前のページへメニューに戻る次のページへ
                                           
                                          ホームに戻る