めっきり大所帯になってしまった、団体様ご一行もようやっと、メインの桜並木
の下に着いた。
「随分とごゆっくりだったね?」
甘ったるい猫なで声で俺の後ろに立ったのは、誰かといえば。
以外にもやわらかなフルーラル系の可愛らしいコロンを使っている亜里沙。
「大所帯になっちまったかんな。どうにも捌きにくかったわ。悪りィ」
素直に謝罪すれば、あっけらかんと許してくれるのが亜里沙の亜里沙た
る所以。
派手な外見に似合わず、耳元で息を吹きかけるように謝った俺の腕の中、
軽く頬何か染めている。
なんてーかこー。
萌だな。
「駄目ですよ、龍麻先輩。藤咲さんが困ってるじゃないですか」
「諸羽、か。準備お疲れさん。随分様になってるな」
「だな。よくやった、諸羽」
するりと亜里沙に抜け出されてしまった腕を持て余して、霧島の肩なんかを
叩いてやる。
真似して京一までもが同じことをするもんだから、霧島の奴。
頬を染めて喜んでやがる。
男としては、な?
京一じゃなくて、舞園に照れろよ。
愛しいさやかちゃんによ?
「ってーか、さやかちゃんは来れるんか?」
俺の隣に位置した京一が『これが聞きたかったんだ』とばかりの勢いのよさ
で、諸羽に伺いを立てた。
「はい。後2、30分で来れるそうです。今こちらへ向かって移動中だと携帯
にメールがありました」
一線級のアイドルとして活躍している舞園は、その有名っぷりを鼻にかけ
ない、この世の中では大変珍しいだろう、腰の低いアイドルだ。
霧島同様良い子ちゃんぶりが、鼻についた時期もあったのだが、この二人の
場合は、それが素。
天然良い子ちゃんを虐げる趣味は俺にはない。
「そっか。無理はさせたくねーけど。京一筆頭に舞園を楽しみにしてる輩は多
いからな……特に男子一同?」
『おー!!』
とばかりに、拳を振り上げた中に、既に日本酒に手をつけている村雨の姿
があった。
「俺様のよりも早く一杯引っ掛けるなんて、随分偉くなったもんだな?ええ
え?」
首根っこを捕まえて、ぐいぐいと揺さぶってやる。
目を白黒させる村雨を冷ややかに見つめるのは、決まって二人。
「だから待っていたほうが良いと、言ったんですよ」
やれやれと、いつでも呆れた風な口調の御門。
「申し訳ありません。龍麻殿。御門様と諌めたのですが、聞く耳も持たず
に……」
御門の趣味か、式神とはそういうものなのか。
古風な口調でしょんぼりと方を落とすのは、芙蓉。
御門同様、俺に対しては従順なので、可愛くてしょうがない。
「気にするなって。村雨に酒を我慢しろってのが無理なんだから」
だからここは鷹揚に笑い飛ばしながら、村雨の首を離してやる、噎せ返
って涙目で何かを言いかけるのには、知らん振りしてやった。
何はともあれ、芙蓉を落ち込ませるような真似をするんじゃないって。
「劉と雷人が一緒に飲んでいたってーのは、まあいいとしよう?たーんと働い
たんだろうからな?しっかし如月が釣られたのと、紫暮が便乗したのと、雪
乃と雛乃が酔っ払ってるのが解せん!!」
「すまなかったよ、龍麻」
ぷりぷりと怒って見せたのに、説明というか、釈明を買って出たのは、勿論
如月。
っつーか、それ以外のメンバーはいっちゃってて、厳しいだろう。
「まず村雨に釣られて、劉と雷人が飲みだして、止めようとしたそれぞれの彼
女達が巻き込まれて、更に止めようとした僕と紫暮が……」
「調子に乗ってしまった、と?」
「面目ない」
まあ、それだけ一生懸命準備をしてくれたんだろうってのは、よくわか
ってるから、怒るわけにもいくまいが、拗ねるぐらいは許されるだろう。
いつも涼しげな顔を崩さない如月の赤ら顔ってーのも、楽しい。
緑亀ってーのはよく聞くが、赤亀ってーのはいたか?
「龍麻。皆今日を楽しみにしていたんだから、そう、咎めるものじゃないよ?」
「え?」
待ち焦がれた声が背後でして、がばっと振り返る。
「遅くなってすまなかったね」
「紅葉!!」
黒のタートルネックに、これまた黒のジーンズと闇夜にいつでも溶け込
めそうないでだちの紅葉が立っていた。
「舞園さんが、途中で僕を見つけてね。拾ってくれたおかげで、随分早く来れ
たんだよ」
「舞園えらい!」
ひらひらんと手を振ってねぎらえば、アイドル笑顔で返した舞園もちゃっかり
霧島の側に腰を下ろした。
「んじゃあ、紅葉。早速だけど、注いで?」
「はいはい」
俺の側に腰を下ろした紅葉が、すぐさま俺が差し出した杯を満たしてく
れる。
「うらー!!全員集合だっ!酔っ払い連中も改めて何か注ぎやがれ!!」
上げた奇声に近い俺の言葉に、あちこちではしゃいだ声が上がった。
「おー?皆渡ったかー」
まだー、とか誰かが叫んだようだが、そんなことはお構いなしに。
「花見大会を開始するぞっ!準備した連中に感謝しながら、乾杯だ。
かんぱーい!!」
声だけは高らかに、肝心の乾杯は紅葉のグラスと軽くぶつけ合う程度で。
「かんぱーい!」
景気もよくはもった、乾杯の声を機に怒涛の宴会へと突入する。
「あ、そうだ。紅葉?」
酔っ払わないうちに、これだけは言っとかないとな。
「ん?なんだい」
「今夜は俺ん家泊まりで、ノンストップでゴーゴーだから?」
「はい?」
「一晩やりまくるから、飲みすぎるなってこと」
ビールを噴出しかける紅葉の背中をとんとん、と叩いてやった俺は、微笑な
んかを浮かべながら、他の奴の酌に答え始めた。
END
*主&壬生
……途中で飽きてきたなんて口が裂けてもいえない。
登場人物は多くてもメイン4〜5名ほど、希望。
もしでてこないキャラがいたらご指摘なんぞを。
っていうか、名前を囁かれただけの人も……。
普段書かないキャラをも少し書けばよかったかのう。