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  百花繚乱


 
 「で、結局全員来れるんだって?」
 俺の傍でぴょこらぴょこらと跳ねるようにして歩く、桜井に話し掛ける。
 「うん。きょーいち。頑張ってたもん!」
 「確かに。あれぐらい勉強も頑張れば、補習どころか、成績上位者に食
い込めるんじゃないかってぐらいには、な」
 「醍醐君―!それを言っちゃあおしまいだよ」
 桜井が苦労症の醍醐の肩をほてほてと叩いてやっている。
 面倒見の良い醍醐のことだ、花見の為にと走り回る京一のフォローをできる
限りやっていたのだろう。何となく嬉しくなさそうに見えても仕方ないかもしれな
い。
 「蓬莱寺君も、きっと醍醐君の有り難味わかっているわよ」
 ふわふわっと、見るものが見れば聖母の微笑みって奴で、ごまかしながら訳
知り顔で頷くのは美里。
 全く京一の性格を、わかってないんなら、黙ってろってなもんだ。
 醍醐の有り難味がわかったなら、それは京一じゃない。
 有り難味なんざわからなくたって、見捨てられないのが京一のカリスマだ。
 自分に無い良いものを認めたくない癖は、傍目から見ていていいもんじゃあ
ない。
 答え様がなくて苦笑するしかない醍醐のフォローは俺の役目ってなもんだろ
う。
 「場所取りは誰がやってんだ?」
 「えーと?劉と雨紋と霧島……かな?」
 「あ、結局後輩達に押し付けたんだ」
 「龍麻、押し付けたなんて、良くないいいかたよ」
 だーかーら!
 俺を龍麻、なんて呼ぶんじゃねーよ、ブス!
 と、美里が聞いたならぶっ倒れるだろう突込みを心の中で入れながら、さら
りと無視して続ける。
 「あの三人で無事やれんのかなー」
 「確か、お酒担当・劉君、食べ物担当・雨紋君、その他担当・霧島君…
  って言っていた気がするなー」
 口の端に指先をあて『はて?』と小首を傾げるなんてーのは、今時桜井でもな
いと許されないベタなしぐさだろう。
 ……個人的にはミサと舞子も許すけど。
 「あーそりゃ、上手い配分だ」

 酒担当・劉。
 高校生の身分だったはずなのに、妙に酒豪が多いメンツの中でもトップクラス
の酒飲み。
 特に二本&中国の古酒に強いのだが、最近は麻雀で卓を囲む村雨の影響
で洋酒にも知識の幅を広げている。
 村雨もあの髭面で『何がワインだ!』と鼻で笑ってやりたいが、御門や薫ちゃ
んとつるんでいれば詳しくなるのも必然。
 劉が引き受けたからといっても、弱い所
はちゃんと村雨がフォローを入れるだろう。
 劉も格安の酒を見つけてくるのが上手いが、村雨は何故かただで手に入れ
てくるケースが多い。
 旨い酒を飲めるんだから、生真面目なことをいうつもりはないが、出所が気
になるのは、まー愛嬌って奴?
 
 食べ物担当・雨紋。
 奴を良く知らない人間は、スナック菓子やコンビニ飯の帝王だと思っている
かもしれないが、むしろこれは逆。
 おばあちゃん子だったらしく、意外にも年寄りめいた和食に強い。
 ましてや大好きな如月の肥えた舌に鍛えられれば、惣菜なんかに詳しくなっ
ていくのも然り。
 如月骨董店での雨紋のリクエストは、夕食なんかになってくると『ほうれん草
の胡麻和えと、高野豆腐の煮漬しに、肉じゃがと銀鰆の味噌風味』ってなもん
で。
 『自分で作れ!』と如月に怒鳴られることしばし。
 今日もきっと如月に懐いて、和食中心の重を用意しているのが目に浮かぶ。

 その他担当・霧島。
 恐らくは菓子&デザートなどの嗜好品と余興の準備を受け持ったのだろう。
 舞園と一緒にいて、結構な部分でマネジメントめいたものをまかされているせ
いもあって、企画事はなかなか無難にまとめてくる。
 これでもか!ダンボールで届く舞園への差し入れのチエックも霧島の担当だ
から、流行の菓子&デザート。
 はては可愛らしいキャラクタ−グッズにまで通じているのだから、驚かされた。
 何より生真面目な性分だ。
 大きい宴会には、まず必要な人材だろう。

 ほてほてと歩きながら、三人の顔を思い浮かべつつ下を向いていた俺の背
中が、足をつんのめらせる勢いで押された。
 「ダーリン?もうはじめてるのかと思ったー♪」
 舞子。
 可愛い奴なんだが。
 天性の看護婦だと思う、本当、弱者に優しい娘なんだが。
 仕事から離れると、キングオブ天然なので、困る。
 だいたい舞子の攻撃技に、ニトロがあるのがおかしいだろ?
 患者さんに、ニトロを化け物にぶちまける姿を見せてやりたい。
 ショックのあまり速攻昇天だと思う。
 「舞ちゃん〜駄目じゃな〜い?龍麻〜驚いてるよ〜」
 そう、舞子とつるんでいると、醍醐が大の苦手にしているミサが極々普通に
見えてくるから不思議だ。
 「んー、考え事してたから。ちょっとなー」
 ミサが抱いている人形の鼻をふにゅと押してやりながら、苦笑する。
 いつも抱えている人形が、気が付くと衣装替えをするようになったのは、俺と
ミサしか知らない事実。
 今日は花見にあわせたのだろう、桜の花びらが散っているワンピースが着せ
てあった。
 「随分、おめかしだな?」
 「んふふふ〜。やっぱり〜わかる〜?紅葉ちゃんの新作〜」
 そう。
 ミサの人形が着ている服は、最近はほとんど紅葉手製による。
 部活で切れ端が余るので、パッチワークのワンピースを作ってやったのが最
初らしい。
 無言で喜びまくるミサの様子が、嬉しかったのだろう。
 俺を通じての、洋服定期便に近いものがあるくらいにマメマメしい。
 「そういえば〜紅葉ちゃんは〜?」



 
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