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 しかも、両側。
 「やああっつ」
 強烈な快楽と、一瞬の墜落感。
 入り口から、ねっとりした液体を押し出すようにして、小水が溢れ出る、そのぎりぎり手前。
 「ジャクっつ!」
 ジャクリーンは、ひょいっと私の膝の下に腕を入れた。
 と思ったらそのまま、幼児が小水を促される格好を取らされた。
 ベッドの上でなく、フローリングの床の上にしろと、暗に促されて。
 私は。
 そうと認めたくはないが、安心して、放尿してしまった。
 しゃぱぱぱっという、水の滴り落ちる派手な音に、幾度も首を振る。
 「アンタ、は。ほんとうに。かーいいですね」
 よく出来ましたと、目の端にキスが届く。
 滲んだ涙は一瞬で全て、吸い取られた。
 「はい。最後まで。出して?」
 尻を振らすようにぶんぶんと、揺らされて、入り口部分に残っていた僅かな水滴が、ぴ、
ぴっと床の上に飛んだ。
 「……早く、拭け」
 「ロイさんを?床を?」
 「床に決ってる!馬鹿っつ!」
 「はいはい。でも、自分の。拭いちゃ駄目ですよ。俺が片付け終わるまで、そのまんま。
  できなければ、もっと恥ずかしいコト、しちゃいます」
 「これ以上恥ずかしい事なんてあるのか?」
 「……幾らでも?」
 また、にいっと、口の端を上げる例の笑いをやられて、私は自分の始末をする事を諦め
た。
 「じゃ、いい子で、ね」
 額に、極々軽いキスをして、奴は真っ裸のままで雑巾かモップを取りに行った。
 私は、あまりにも恥ずかしい床から目線を外して、天井を見詰める。
 時折ハウスクリーニングを頼むので、煙草の色もついていない。
 綺麗な木目の天井だ。
 「何見てるんです?」
 さっさと続きがしたいらしい、ジャクリーンはモップと雑巾を持ってきた。
 「特に、何を見てる訳ではないさ。強いて言えば、天井の木目?」
 「ああ。綺麗な木目っすよね。左端の木目、ちょっと火蜥蜴に見えますよ?」

 奴が指差す場所を目で追う。
 「ああ、アレか」
 確かにそこには、火蜥蜴に似た模様が浮き上がっていた。
 シンプルなラインを描くそれは、私がモチーフとする火蜥蜴に良く似ている。
 「そういえば、ロイさん。刺青、しないですよね」
 「……なんだ、いきなり」
 丁寧に床を拭きながらも、奴の口は止まらない。
 濯いだ雑巾をきゅうっと絞り上げて、私と目を合わせてくる。
 「火蜥蜴の刺青。錬金術師の人にも多いって聞いたよ」
 「……ああ、そういう奴もいたな」
 自分のトレードマークのようなモノを模して、それを身体に刻み付ける奴は、数多。
 己の技を誇示したいというのもあるのだろうが、何より。
 戦場で死んだ時、自分が誰だとわかるように。
 死して尚、自分の名前が残るように。
 陰惨な術式を展開してきた奴ほど、そういった傾向が強かったように思う。
 呪われた術者として死後、細切れにされた輩も多かった。
 死んだ時、それが自分の遺体なのだと、せめて。
 大切な人にその、一部が届けばいいと。
 そんな風に思った術者もいたかもしれない。

 私は、思わなかったが。

 自分が死ぬ時は。
 その身体を髪の毛一筋残さず、焼いてしまおうと思う性質だったから。

 「ロイさん、怖い顔。嫌な、話だったね」
 「別に。そういうお前こそ。好きな女の名前とか刻みそうなタイプだよな」
 実際ジャンの部下には、何人もいる。
 こっそり、ジャンの名前を紋章化して入れている奴ですら、知っていた。
 「ロイさんの名前なら、刻んでもいいけど?」
 「勘弁してくれ」
 肩を竦めて見せれば、静かに笑われた。
 許可したら、本当にやるんだろうな、と思わせる微笑だった。
 「はい。床は終了しました。ちょっと手洗ってきますから、もう少し我慢してて」
 言われるまで、自分の身体の惨状を忘れていて、一人絶句。
 間抜けた顔をしていたのだろう。
 ジャクリーンが、口の端を上げる。
 睨み付ければ、はいはいとあっさり背中を向けて洗面所へ行ってしまった。
 床の上は、綺麗に拭き清められているので、もう見ても大丈夫。
 今だ幾らか濡れているのも、その内に乾いて跡形もなくなってしまうのだ。
 今までが、そうだったように。
 「お待たせしました」
 奴は、ほこほこと温かそうな湯気の立つタオルを手にしている。
 それで、拭いてくれるつもりなのだろう。
 目線をそらして、股を広げる。
 恥ずかしさよりも、始末の優先が頭にあった。
 ……不覚では、あった。
 目の端で、タオルではなく、奴の頭が股間に近寄ってきた。
 「ジャク!待て!」
 当然、私の制止など聞くはずもない。
 ジャクリーンは、今だ雫の残る私のアレの先端をちゅうと、音立てて吸い上げた。
 「お前っつ!馬鹿だろっつ!」
 
 「美味しいですけど?塩気効いてて」
 塩気…塩気……確かそうなのかもしれない。
 や、だからそういう問題ではなく。
 私はジャクリーンに飲尿健康法なんか、試して欲しくはない。
 ……しかも、私の尿で。
 「全く。そんな悲しい顔しないで?そこまで嫌でした?」
 「嫌に決まってるだろう!」
 「ロイさん、意外に普通のプレイ好きだからなぁ。縛りは平気なのにね」
 「全然違うだろう!」
 「そっかなぁ」
 どっちもSMのカテゴリに入るんじゃないです?とか、首を傾げている。
 マニアなプレイには変わりないと思うが、SMのカテゴリに入るかどうかは……だから!




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