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 前なら腹立たしいばかりのやりとりも、今日は普通めいてとても、嬉しい。
 「何か、エド。今日は子供みたいだね」
 「……ったく。何時までもガキ扱いすんなよ」
 「どれだけ君が大人になっても、年齢差ばかりは縮まないからねぇ」
 肩口で、ほふっとばかりに溜息なんかをつくので、キスで塞いでやる。
 瞬間怯えた舌は、すぐさま俺の舌をそろそろと探り出す。
 俺は、その緩慢なじれったさが堪らなくなって、つい激しくロイの舌を啜り上げた。

 「……んぅ……馬鹿っつ。苦しい、よ……まぁす」
 心臓を、鷲掴みにされる気分というのは、今の状況にこそ相応しい表現だ。
 ロイは、今。
 俺を、誰と、呼んだ?
 「……まぁす?」
 欲情に爛れた甘ったるい瞳。
 真っ黒い部分を覗き込めば確かに、俺が映っているというのに。
 「……頼むよ、ちっくしょう!!」
 「何を、怒ってるんだ。まーす」
 「俺はマースじゃねぇよ。奴はもうアンタの側には永遠にいない。今ここに居るのは、エドワード・
  エルリック!俺なんだ!」
 「えどわーど・えるりっく?何だ。いきなり。お前の尊敬する人の名前か何かか?」
 まぁ、別にそんな風に呼んで欲しいなら呼んでやるけど?
 と、困った風情で瞼にキス。
 もしかして、ロイの瞳には俺が、まぁす、としか映っていないんだろうか。
 「よく、見ろ。見てくれよ!アンタのマースは。黒髪に翠の目だろう?俺のように金髪に金目
  じゃあ、ないだろう?」
 「はは。本当だ。どうしたんだ。いきなり?イメチェンか。お前金髪嫌いって言ってなかったっ
  け。俺は好きだから、別にそのままでもいいけどな」
 ちょっと、待て。
 今、自分を『俺』って言わなかったか?
 「ふぅん?長髪ねぇ」
 さらっと髪の毛が梳かれる。
 何時も俺の髪を撫ぜる優しさはなく、しかし手馴れた親しさがあった。
 「本当。好み変わったんじゃないのか。脱色に髪まで伸ばしたとあっては、先生方に
  叱られるぞ」
 先生?
 「ほら……明日は朝一番で模擬戦だろう?するならちゃっちゃとして、体力の温存に努め
  ないと……」
 模擬せっつ!
 もしかして、今。
 ロイの記憶は士官学校時代辺りに退行しているのか?
 「……マース。しないのか?」
 首に腕が回されて、瞳を覗き込まれる。
 俺を見詰める瞳の中。
 まるで、中佐が映っているようで、背筋が怖気立った。
 「……いや。するよ。しよう。明日も早いから、ちゃっちゃと、な?」
 「……自分で言っておいてアレだが、デリカシーのない物言いだよな」
 くすくすと笑うロイの笑顔も、気持ち幼い。

 ああ、そうだな。
 別に。
 ロイが俺を誰と思っていても、俺が抱くのはロイで、ロイが抱かれるのは俺なんだから、
どうでもいいか。

 そんな風に、無理矢理になら何とか。
 思い込める笑顔だった。
 俺は何が大丈夫なのか自分でもわからないが、胸の内。
 大丈夫、大丈夫と何度も呪文のように囁いて、ロイの胸に唇を寄せる。
 「まーす?そんなトコ。くすぐったいだけだぞ?」
 「……嘘付け。好きじゃないか、ココ」
 「え?本当に、くすぐったいだけだけど……」
 「冗談。ロイ。ここ、弄られただけでイけるじゃんか」
 唇で、きゅっと勃起した小さな乳首を締め付けてやる。
 反射的にびくびくっと震えた太股に満足した俺だったが、ロイの顔を見て愕然とした。
 「……なぁ?マース。俺を誰と間違えているんだ?俺は女じゃないぞ!そんなトコに触られ
  て、よがると思っているのかっつ!」
 待て待て待て。
 どーゆうこと?
 アンタらさぁ、SEXしてたんじゃねーのかよ。
 「お前にっつ。グレイシアが居るのはわかってるっつから!あの人を抱くように、俺を抱く
  なっつ!」
 んーと、んーと。
 士官学校時代は、ロイが中佐にムリムリねだってやってたって事?
 「……お前こそ。ナニを勘違いしてるんだよ?俺は何時でもこうして、お前を抱いてきたぜ。
  ほら、身体は覚えてる……こっちも勃起してきたな」
 この手の身体機能はいかれなかったらしいのは、俺的に喜ぶべきなんだろう。
 ロイのナニは、いい感じに勃起しつつあった。
 「……え?」
 「アンタは、俺に女のように抱かれて。何時だってあんあん、善がってただろう」
 乳首を食みながら、アレの根元をぎゅっと絞り込んでやる。
 「いやだっつ」
 「ろぉい?嫌だ、じゃなくて。もっと、してじゃないのか」
 「嫌だ!こんな風にするなんて、マースじゃないっつ!マースじゃないっつ!」
 「だーかーら!先刻から、俺は中佐じゃないって言ってるじゃん」
 いい加減疲れたなぁと思いつつ。
 とことんやるしかねーんだよなぁとも思いつつ。
 俺は何度も同じセリフを繰り返す。
 「俺は、エドワード・エルリック。今の、アンタの、恋人だ!」

 「先刻から、何の冗談なんっつ。ああっつ。それっつ、やあっつ」
 れろれろっと。
 舌全体を使ってロイの乳首を責めてやる。
 俺が知る限りホントこの愛撫に弱くって、これまでは俺を興奮させるためだけの僅かな抵抗
も也を顰めたものだ。
 今もまた。
 本気の抵抗にすら有効で、くにゃくにゃと崩れてゆく。
 「やっつ、めっつ」
 目の端に涙を浮かべたって、そんな甘ったるい声での嫌、なんて。
 男を興奮させるだけだってな。
 その頃の、ヒューズさんは教えてくんなかったの?
 完全に勃起した乳首の、根元ばかりをなぞるように舐め上げる。

                       


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