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 「はぼ……」
 「……ああ、なんか。このまんま。アンタを抱っこして寝たい気分」
 彼の感動に水を差すのは、可哀想な気もするのだが、私をぐっと拳を握り締めた。
 「でも! せっかくここまで来れたんだから! 私はするぞ。挿入まで!」
 「うんうん。なんかもう、いっそその情緒のなさ加減もタマリマセンよ」
 「褒められている気がしないぞ」
 「でも、愛は伝わるでしょ」
 「うんざりするほどな」
 にっこり笑って髪の毛を顎の下に摺り寄せてくるので、遠慮なく顎を頭の上に乗せてやる。
 「……そうすると、どうしたらいいんだ? ローションか?」
 「焦らないで? 身体が解れてないのに無茶して入れるのは、よくないから」
 「じゃあ……んーと?」
 「マスタベがいいっしょ」
 「はぁ?」
 「俺にしゃぶりつくされるのと、自分で解すのと。選ぶまでもないでしょう?」
 「でも……」
 ほとんどしないけれど、それでも。
 時々どうしてもしたくなる時は、罪悪感に塗れながらした、それを。
 ハボックの前で見せるのは抵抗がある。
 幾ら心を許した相手の前でも。
 や、心を許した相手だからこそ、か。
 「俺だって、ね。間抜けな所たくさん晒してる。ロイさん。恋愛の長続きの秘訣はね。等価
  交換」
 「う!」
 「見せて? ロイさんは、恥ずかしくて仕方ないと思うけど。俺は舌なめずりしちゃうくらい嬉
  しいから」
 「む!」
 そんな馬鹿な! と言いかけて。
 先程の状況を思い出す。
 どうせ、覚悟を決めたのだから。
 うん。
 思い切って、やろう。
 これ以上、この大事な恋人に切ない思いをさせたくもない。
 「……あまり、じろじろ、見るなよ?」
 「それは、無理」
 「じゃ! じゃあ! 感想とか、言うな」
 「ええ? んー。勿体無いですが、わかりました。言葉攻めはまたの機会に」
 「言葉攻め……」
 それは、私の専売特許ではなかったのかと、一瞬眩暈がした。
 が、すぐに立ち直る。
 「よし! 頑張るぞ!」
 「はぁい」
 気合を入れた私と、少し距離を取ってハボックはベッドの上に寝そべった。
 
 「おい!」
 それでも、私の太股の間に顔を固定しているのには変わりない。
 電気が煌々とついたままの状態では、私の恥ずかしい場所など丸見えだ。
 「なんです?」
 「もっと、離れるとか。場所、ずれるとか!」
 「譲れませんって。離れても、ずれても。アンタの可愛いトコ見えないじゃないです?」
 見なくていい! と言いたかったのだが、確かにそれでは全く意味がない。
 承知した以上ここは潔く奴に、自慰を見せるしかないとわかっていても恥ずかしい物は
恥ずかしいのだ。
 「はいはい。パンツ脱いでー」
 「阿呆な事言ってるんじゃない!」
 どう考えてもSEXの雰囲気ではないと思いつつ、逆にこんな感じの方が肩の力も抜けて
良いんじゃないかと、自分に言い聞かせつつストッキングをしゅるりと脱ぎ取る。
 「ああ!」
 「……何だ」
 「ストッキング、伝線しちゃいましたよ」
 「そうか……それじゃあ、新しいのを買ってくれ」
 大きな声を出すから何かと構えれば、そんな事。
 返す声が素っ気無くなるのも仕方ない。
 しかし、ハボックはめげもせず、じゃあ、どんな素敵ストッキングを贈ろうかなー。
 網タイツプレイとかしてくれます? とか間抜けな質問を重ねてきた。
 「どうせ、脱がすのにプレイも何もないだろう」
 「いえいえ。俺。結構好きですよ。ストッキングびりびりってするの。自分で買ってやったん
  でも怒られるんで、早々できんプレイですけどね」
 「……お前な!」
 「すんません。こういう時に他の女の影なんか。過去話でもごめんですよねー。さぁ。黙って
  ますので、続きをどうぞ?」
 「……!!!」
 全く見当違いの返答があって、絶句する。
 突っ込みどころが満載だったのだが、もしかしてこいつなりに浮かれているのかもしれない
と思い直して、唇を噛み締めつつ頷いた。
 下着に手をかけるのは、勇気がいったが何とか足首までずり下ろす、と。
 脱いだ下着はハボックの指に絡め取られてしまった。
 「……ねぇ、ロイさん。今度下着プレゼントしたらつけてくれる?」
 「……そういえば、お前に下着を貰った事はなかったな」
 付き合って半年。
 世間で言うイベント事はなく、せいぜいハボックの誕生日ぐらいだったのだが、よく物を
貰った。
 手作りのお菓子から、シンプルだが高価なリングまで。
 ハボックの誕生日だって、何故か私もプレゼントを貰ったのだ。
 ヒールの華奢な淡い真珠色のパンプス。
  恋人には物をくれたがる性質なのかと思って、あまり気にしなかったのだが、ブレダに、
あんなに貢ぐハボは初めてっすよ? と言われて、自分がどこまでも特別扱いなのを
知らされた。
 「や。もしかしたら気持ち悪いかもしれねーと思ってね。プレゼントできんかったんです」
 「いいさ。喜んでつけるよ」
 「ひゃっほ! サイズはばっちりなんで任せといて下さい」
 またしても、私にプレゼントする下着の選択妄想に走ってしまったハボックの前、そおっと
太股を閉じようとしたのだが。
 「駄目ですよ?」
 膝頭を掴まれて、ぐいっと、大きく開かされてしまう。
 「ちゃんと、見せてくれなきゃあ」
 そうして、膝頭にキスをされた。
 ちゅ、という濡れた音が凄まじくリアルだ。




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