「ずっと隠してた理由なんです?」
「そうだ」
真っ直ぐに私を見詰めるハボックの目は真摯だ。
初めてみるかもしれない。
その瞳が、怒りに変わってゆくのを私は見守るつもりだった……のに。
ハボックは、やわらかく。
穏やかに眦を撓ませた。
「アンタ。頭すっごく良いのに。時々救いようのないお馬鹿ですよねぇ」
「はぼっつ!」
きゅう、と喉が鳴るほど強く抱き締められる。
「俺がアンタを捨てる日なんて、永遠に来ませんよ。アンタが俺を捨てる日は……俺がアンタ
を殺す日だしね」
物騒な愛の告白は、自分でも驚くくらいに胸に染み入った。
「でもまぁ。嬉しいです。すっごく。俺の事、俺が思っているよりずっと大事に思ってくれている
のがわかって」
「……なら、良かった」
「理由もね。聞けて良かったです。そういう理由なら、覆せると思いますから」
「そうなのか?」
随分と簡単に、言う。
今までの生理的な拒否反応を、数知れず経験してきているというのに。
「はい。俺ブレさんほどじゃあないですけど、洗脳得意っすから」
「洗脳って」
「表現は悪いかもしれんですけど。それが一番近いですね。新しく強い暗示をトラウマの上
から被せるんです」
「しかし……」
トラウマというものは本人自覚する事無く深い。
重ねの暗示掛けでも侵食できえないほどには。
どんな手を使っても完全に払拭できない。
それが、心的外傷と呼ばれる所以。
「……完全に治らなくても良いんですよ。トラウマから与えられる衝撃を和らげて、一生付き
合っていければ、それで」
「一生、か」
「俺が側にいるんです。辛いと思う時もあるでしょうが、大丈夫でしょう?」
「……うん」
「んじゃ。早速始めましょうか」
「へぇ?」
「そんなに素っ頓狂な顔をせんで下さい。可愛すぎて困りますよ」
随分と間抜けな表情を晒している自覚はある。
今自分がしている表情を頭に浮かべて、それを可愛いと言ってのけるハボックの目は、
見事な恋愛フィルターがかかっているんだなぁと、苦笑することしきり。
「まずは、軽くちゅうから行きましょう。アンタちゅうは、随分と平気になりましたよね」
「お前のお陰だ」
「俺以外の誰かのお陰じゃなくて、嬉しいです」
「そういうものか?」
「一般的にも多いんじゃないです?俺の場合はアンタ限定ですけどね」
言いながら、頬にキス。
これはまぁ、親しい友人でもするレベルだからしつこくされなければ問題ない。
リザには昔から、よくされているのというのもある。
「アンタからもしてね?」
「ああ」
頷いて、ハボックの頬にそっと触れる。
唇か近いせいか、ほわんと煙草の匂いがした。
きつい煙草の香りが最初の頃は苦手だったが、一緒に居る時間が長くなるにつれて、それは
イトオシイ体臭の一部になっている。
今は苦手意識もない。
「もっと、ちゃんとです。教えてあげたでしょう?恋人ちゅう」
「でも……」
「頑張って。俺からじゃなくて。アンタからした方が絶対に抵抗も少ないから」
ね?と、大好きな空色の瞳で覗き込まれれば、嫌とは言い切れない自分がいる。
私は薄く開いた奴の唇に、舌を滑り込ませた。
奴から積極的に仕掛けてくる気はないらしく、果敢に挑んでくる舌も今は大人しいまま。
そろそろと舌を根元まで入れて、奴の舌に絡める。
極々軽く噛み付けば、一瞬。
ちゅううっと、凄い力で吸われた。
「はぼっつ!」
慌てて離れようとするが、腕の拘束は解けず。
ゆるく、しかし完璧な抱擁からは逃れられない。
「ごめんなさい。ちょっと、じれただけです」
鼻先をぺろんと舐められれば、犬を構っているような気分になった。
こういう甘えられる仕草が、私は大好きなのだ。
好きな男に甘える楽しさよりも私は、甘えられる楽しさを好む。
「いー子にしてますから、続き」
「……良い子にしてろ?」
「あい」
こくんと頷く唇の端にキス。
そして、またその口腔に潜り込む。
入り口付近で待機していた舌を絡めて、甘く啜る。
ディープキスなんて、今までの自分では考えられなかったが、確かに自分からすると抵抗を
感じない。
ハボックが蕩けそうに、顔を緩ませているというのが一番大きいと思うが。
舌を噛みながら絡めては、吸う。
つうっと滑った唾液は、奴の指先が拾ってくれる。
私は心置きなく、無抵抗な奴とのキスを楽しんだ。
歯の裏までも、丁寧になぞり上げれば、背中に回されている指先が緊張に引き攣った。
攻め立てたいのを必死に堪える様もまた、愛らしい。
私にしてはかなり大胆に、奴の唇を吸い上げて。
当面のキスを切り上げた。
「どです?へーきっしょ」
「ん。だいじょうぶ。どころか楽しい」
「……俺的には、気持ち良い、の方がいいんスけどね」
ま。
時間はかけますよ?
と、眦にキス。
「さ。じゃあ。次は俺の服でも剥いで貰いましょう。そして貴女が良いと思うように、俺を弄って?」
露骨な物言いに、喉がごくりと鳴ってしまう。
自分が興奮している事に驚かされた。
まずは、シャツ越し。
奴の厚い胸板をなぞる。
そんなはずはないと断言できるが、黒い長袖シャツは妙に奴をストイックに見せた。
シャツの裾に手をかけて、一気に捲り上げる。
男性もここが感じるのだと聞いていたが、ハボックはどうだろう。
自分が快楽を得るのは抵抗があるが、ハボックが感じている様にはかなりの興味をそそられる。
試しに唇を寄せて、周りよりは色素の濃いそこへキスをした。
「ちょ!」
驚く声に背中を押されて、赤子のようにちゅうちゅうと乳首を吸い上げる。
小さな先端が硬くなるのを、舌先で感じた。
「くすぐったいですって!」
照れた口調だが零れた吐息は熱かった。
ちょっとぐらいは感じてくれているのだろうか。
「どーせなら、大佐。もっと、硬くて大きなトコ。弄って欲しいんですけど」
咎めるほどでもない手が伸びてきて、私の手首を掴む。
嫌な感じはしない。
そのままジーンズの生地越しに、ハボックのアレを触らせられた。
「えっつ?」
布地越しでも熱くて硬いソレについ、びっくりして慌てて手を離してしまった。
「直に触ると、もっと熱くて硬いですよ。触るの駄目でも。見て、みませんか?」