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 卒がないよなぁ。
 そーゆートコ、大佐もたまらんのだろうと思う。
 あの人、面倒臭がりだし。
 「どした?」
 「や。大佐って面号臭がりですよねって話」
 「あーなー。昔はそうでもなかったんだ。家庭環境が複雑だったらしくって。士官学校の頃は、
  何でも自分でやってたぜ」
 「すんごい意外です」
 飲みのメニューっていうよりは、外走り回ってた俺のエネルギー補給重視したようなメニュー
の中。
 鳥のから揚げビネガー漬し、なんてーのをもぐもぐと咀嚼しながら、相槌を打つ。
 「だろ?けどさぁ。不器用なのは昔っからな訳よ。で、今よりずうっとベビーフェイスだったし
  さぁ。なんてーかこう。不憫でな?俺も含めて皆して、甘やかしまくっちまったんだよなぁ」
 やり過ぎちゃったのよねん……と、肩を竦める中佐。
 もし、大佐が中佐の言うとおりの性格だったんだとしたら、どれだけ甘やかしたんだろうって、
感じ。
 「で、甘やかすついでに、あっちの方も?」
 「……抜け出しはしてたんだけど。やっぱ溜まるんだよ。若いし。お前さんなんかも、随分
  やったんじゃねーの?」
 「……や。なんか、俺。モノホンさんに狙われるタイプだったらしくって。逃げてる内に、
  男相手は勘弁って気分になっちまったんですよ」
 「ああ……確かに」
 中佐の顔に憐れみが浮ぶ。
 あの若い盛りに自家発電三昧ってーのは、確かに空しくはあったけど。
 自分が追っかけられまくってたから、誰かを犯っちまおうってー気分には、とてもじゃない
けれどなれなかった。
 「で、誘ったんわ。どっちで?」
 「んー。あいつ」
 「ですよねー」
 若い頃から、あんな妖艶だったとは思えないけれど。
 若さ故の良さってあるよな。
 俺も、噂のでこっぱちな大佐が見たかった。
 「性欲自体は強くなかったんだけど、好奇心だけはすげーから」
 「納得」
 「上下は、最初から?」
 「俺が上じゃなきゃ、やんねーっつった」
 「さあすがぁ」
 大佐が王様気質なのは、なんてーかこう当たり前だけど。
 時々中佐もすんげぇ王様気質よね。
 奥さんお子さんの前では絶対せんとは思うけれど。
 相手限定で、君臨してみせるってーのが、できる男。
 それが、マース・ヒューズって男。

 「で、まぁ。やったらこれがまた」
 「嵌った、と」
 「正直、女の方がいいと思ってたんだよ。やる前までは」
 「……もしかして、女とのアナルSEXとか経験済でした?」
 今となっちゃあ、俺も。
 風俗のお姉さんと、致しちゃった事、数回だけどね?
 士官学校時代にすませてるとなりゃあ、結構なモンだろうが。
 「おうよ。俺、意外とマニアなお姉さんに好かれるのよ」
 「大佐にも好かれてますしねぇ」
 「お前、アレはお姉さんじゃねーぞ。失礼な奴」
 「マニア部分はスルーっすか」
 「当然。あ、これお前好きだと思う」
 フォークで差された皿は、これまた肉。
 「……おお! 何です? この味付け」
 「牛肉の生姜黒糖ワイン煮」
 「……ワインしかわかんねーっすよ」
 「さもありなん。生姜ってーのはジンジャーの事」
 「ほぉ」
 ジンジャーは、普通お菓子作りにしか使わないんだけど。
 こういう使い方もするんだな。
 「で、黒糖ってーのは極東島国特有の砂糖」
 「最近、多いっすね。極東島国仕様の味付け」
 このねっとりとした甘さと、ジンジャーのすっきり感、ワインによるまろみの出し方は、本当鮮や
かだと思う。
 「そっちの人間の出入りも激しいからな。商魂逞しいだけかもしんねーけど」
 「これなら安ワインも上手に消化できそうです」
 「ああ、ロイん家の?」
 「そうっす。あん人。飲みきれない癖に安ワイン好きじゃないですか」
 「最初の一杯だけ。チープな感じがいいんだとさ」
 「チープねぇ……」
 駆け足の出世のせいか、割合と豪奢な印象の強い人だけど。
 案外と簡素な物を好む一部もあった。
 基本的には、高級品嗜好なんだけどね。
 付き合いであれば、そんなん食べるんだ? 飲んじゃうんだ! と思ったりするケースは少な
くない。
 「で、アレですね。奥さんお子さんいようが、あん人に嵌って抜けられないと、そーゆーコトで
  すね?」
 「グレイシアもさぁ。生粋の軍人一家の娘だからね。なんかこう。死線を越えた男の関係に、
  物凄く寛容なんですよ」
 「そりゃまた、凄い」
 普通は、頭でわかっていても嫉妬しちゃったりするもんなんだけどね。
 「エリシアが出来てから更に、その傾向は強いね。絶対口には出さないけど、俺等の関係知っ
  てると思うし」
 「奥さん公認かぁ」
 「や。正確には黙認。エリシアも懐いてるし。グレイシア自身、ロイは好みのタイプだしな」
 「中佐の方が妬いちゃう?」
 「や。それはねーよ。だってロイとグレイシアってーと、女友達のノリだぜ」
 「うわー」
 ある種、理想なのかもしれないが。
 嫉妬して欲しいよねん、どちらからも。
 ってーのが、我侭な男の欲望だったりもする。
 「俺もねー。そーゆートコに甘えてきたってーのは認めないじゃないけど。ロイの暴走っぷりは、
  さすがにやばいだろうよ」
 「あーもしかして、大佐。中佐に置けるグレイシアさんとエリシアちゃんを求めてるんです?」
 「たぶんな。本人微妙に自覚がある分始末に悪い」
 するってーと、俺が光栄にも中佐の立ち位置で。
 エリシアちゃんは、タイプは違うけど中尉だろう。
 あれで、居て。
 中尉を溺愛してるし。
 長い付き合いってのもあるけど、中尉も無防備に大佐を信用してるしね。





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