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 今まで自分がしてきた性体験の中でも、こんなに甘ったるい溺れきった吐息を零した女性は
いただろうか?
 ……いなかった気もする。
 と思い至れば、私は一体どこまで『女』という生き物に近付いているのだろうと、考えてぞっと
してしまう。
 「…ロイ?」
 怯える風に跳ねてしまった指が、ヒューズの顎をぺちっと叩く。
 「どしたん?」
 伏せている瞳の中の、見っとも無い感情を暴くようにして、見詰められる。
 居た堪れなさに、きつく瞼を閉じれば、その上に唇が触れてきた。
 「……ろーい?言ってくんないと、わっかんねぇよ?」
 耳朶を噛まれる感触に、また熱が走る。
 ヒューズが与えてくる熱さに、眩暈を起こしている頭の中、自分を押さえ込む箍が外れて、ぽ
しょっと呟く。
 「女……みたいで、嫌だな…って」
 「へ?」
 間の抜けた返事があった。
 私が何を言い出したのか、全く理解できていないようだ。
 滅多にはない反応に、ヒューズの目には私が女として映ってないのだと知って、少しだけ安堵
する。
 「や、そのな。お前の手で、いいようにされて、こんなに溺れるなんて。女みたいだな、と」
 「どこが?」
 「え?」
 今度は私が間抜けた返事をしてしまう番だった。
 「ロイはロイだろ?どんなに、イイ風に鳴いたってそれは変わらないだろうが」
 「でも、男に抱かれて悶える、なんて……」
 「そりゃ、お前。そういう身体の造りなだけだって。体質の一つだよ。ロイの身体は男にってー
  か、俺に抱かれてイイと思えちまう体質なの!でもって、俺をめろめろにする体質なの!」
 「体質?」
 詭弁でしかない気もするが、確かにそう考えれば、仕方ないよなぁと思えてしまう。
 「後な。俺はお前の身体にいいようにされてるぞ?これから先絶対俺以外の誰にも抱かせた
  くないんじゃあ!とか思うし。できるなら、ずっといちゃいちゃしててぇとか、思う。んな、べっ
  たりな思考の方が余程『女』じみてるんじゃねーの?」
 「私だって、思うぞ。ずっとしてたいって……」
 「おお!惚れた相手と思考パターンが一緒ってーのは、何となしに嬉しいもんだ。ま、結局何
  が言いたいのかってーとな。ロイは、何をどうしたってロイだってこった。お前の言う『女』に
  は一生涯ならねーだろうよ。安心しろって、俺が保証するからさ」
 気が付けば目を見開いて、ヒューズの表情を食い入る様に見詰めていた額に、唇が押し当て
られる。
 濡れて、ふよっとした、心地良い感触。


 「納得したトコで。再開してもいいか?なんてーか。もう、ほら。ロイたんが可愛いコトばっか
  言うから、こんなんなっちまってさぁ」
 にやっと笑いながら私の手首を掴み、いきり立った肉塊にズボン越し、押し当ててくる。
 「お前……なぁ。本当、即物的な奴」
 「とか言って?ロイもいい感じになってるんじゃねーの?」
 伸ばされた指先を慌てて抑える。
 ずばり。
 図星だったから。
 「ヒューズほどじゃないさ。そこまで盛られると私がきついからな、一度抜いてやるよ」
 「へ?何ロイたん。もしかして情熱のフェラチオですか!」
 「……情熱かどうかは、お前次第だ」
 顎に噛み付くような口付けを一つ。
 そのまま滑って、シャツのボタンを一つだけ噛み切って。
 覗いた肌の途中凹んだ窪みに、ふっと息を吹きかけると、鼻先でジッパーを探り出す。
 鼻の頭がヒューズの肉塊にあたって、何時の間にか私の髪中に潜り込んでいた、ヒューズ
の指がひくっと引き攣った。
 歯の先端にジッパーを引っ掛けると、ゆっくりと引き下ろした。
 ズボンがぱんぱんになっているので、それだけの作業でも指を使わないとなると一苦労だ。
 犬のように鼻を鳴らして、ヒューズの下着に顔を突っ込む。
 むわ、と蒸れた肉の匂いがした。
 先走りこそ滲んではいないが、しっかりと立ち上がっている。
 下着から覗く先端を舌先で、ちょんとつつくと、耐えかねたように、ヒューズがズボンと下着
を脱ぎ捨てた。
 ぽぽーんと足先で投げる様は、見事なほどだ。
 「何だ。私が脱がせるまで、我慢できなかったのか」
 「いんや?下着が邪魔でロイたんが上手に銜えられないかな?って思っただけさ」

 「……言うなぁ」
 口が達者な方だと思うが、ヒューズには負ける。
 口数の多さも、注意されて後味が悪くならない辺りも。
 「本当は俺がして欲しくって仕方ないって。ストレートに言った方が興奮するんか?」
 「お前の、好きなように」
 私では決して言えない。
 や、言えない訳でもないのだが、こんな簡単には口にできないのだ。
 素直なヒューズが、小憎らしくもあり。
 イトオシクもあり。
 ……全く、恋愛は何時だって不思議で。
 新しい感情を巻き起こしてくれる代物だよ。
 肩を竦めて、見た目呆れた風に見せかけて、ヒューズの肉塊に舌を這わせる。
 正直、童顔と言われる面立ちで。
 軍人の中では小さめの部類に入る体格のせいか、こんな傍若無人と自分でも自覚のある性
格でも、言寄ってくる男には事欠かなかった。
 全く以ってノーマル嗜好だった自分には、吐き気すら催せど、受け入れるなんて、頭の中ど
こを探したって欠片もなくて。
 今振り返ってみれば、あれはちょっとやりすぎたよな。
 絶対トラウマになったよなーとか、思ってしまう反撃で相手の思いを撥ね付けてきた。
 まさか、こんな風に。
 自分から進んで、男のナニを銜える日がこようとは、夢にも思わなかったのだ。
 ヒューズの肉塊は、いい感じに使い込んでいて浅黒く、形も良い。
 何より、でかい……なんてのは、本人に言うとにやにやして困るので、言わないが、根元まで
もを口に含めるのは、まだ項垂れた状態の時くらいだ。
 今日なんかは既に興奮してしまっているので、もう根元まで銜えるのは無理。
 でも、奥の奥まで含まれる心地良さを、同じ男として知ってはいるので、出来る限りの挑戦は
試みる。
 大きく息を吸い込んでから、喉の奥までを使ってナニを銜えた。
 衝撃で、どんなに覚悟を決めていても生理的に受け付けず、涙がほろほろと溢れて吐き出し
かける勢いのまま、背中が丸くなってしまう。
 「ロイたーん?嬉しいけど、無理すんなよ」
 丸くなった背中を宥めるように、幾度も温かくて大きな掌が上下左右に往復する。
 目の端に溜まった涙も、伸びてきた指の先に掬われた。
 「すっげー気持ち良いけど……お前を泣かせてまで、したかなーからさ」
 「鳴かせるのは…ふき、な……くせ……に」
 銜えているので、時折妙な発音になってしまうが、ヒューズの耳には問題なく変換されて届く。




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