そう、意を決して言えば。
『私は軽く食べているからね……ホットミルクでも飲むとしよう』
くすくすと笑われた。
『……あんなん。人間の飲む飲みモンじゃねーよ』
それでは、遠慮なくと優に二人分はたっぷりあるクラブハウスサンドを攻略している最中に、
大佐は服を脱ぎ、シャワーを浴びて。
俺の目の前で、ふーふーとホットミルクを飲みだした。
これが、また美味そうに飲むから参った。
毎日目の前で大佐にミルクを飲まれたら、何時か『俺も飲んでみようかなー』なんて言いそ
うな勢いだ。
『さて……食事は、もうすんだかな?』
『んにゃ。メインディッシュがこれから』
『おや、やっぱり足りなかったかな?』
『そうじゃなくってさぁ!』
俺はテーブルの上大きく身を乗り出して、大佐の鼻先をぺろりと舐め上げた。
『これ。メインディッシュ』
『……デザートくらいに、さらっと流して貰えると嬉しいけど』
『ウィンリィ曰く。デザートが駄目なコース料理は、結局駄目な料理って評価されるらしい
ぜ?』
『ウィンリィ嬢……』
ふう、と溜息をつくバスローブ姿の大佐は、艶っぽかった。
俺のおかず、ベスト三に入る格好だ。
ちなみに、三位バスローブ姿。
二位、軍服姿。
あのストイック姿が、たまらんのだよ。
一位、全裸。
ほんとまー、真っ白い肌なんだ。
歴戦の猛者ともいえる、傷をあちこちに残す体。
大佐は、汚いだろうって言うけれど。
最中に盛り上がってくると、傷跡が、赤く浮き上がってきてさ。
白い肌によく映えるんだ。
何時だって、俺はうっとりと魅入ってしまう。
『やっぱり耳年間なのかねー女の子は』
『ウィンリィは確かに、その口だろうよ。ごっつい親父に囲まれてたっけさ』
『まさか、セクハラを?』
『ピナコばっちゃんがいたからなー。ウィンリィが本心で望まないことはできなかったと思
うが?』
『それならばいいが』
ったく、俺に抱かれようって男が、相手の幼馴染の心配してどーすんよ。
フェミニストめ!
まーそんな所もひっくるめて、好きだけど。
めろめろだけど!
辛抱たまらなくなって、指先を大佐の顎の下に滑り込ませようとすれば、すいっと距離を取ら
れる。
『テーブルの上が褥なんて、御免だよ。寝室は、こっち』
掌で示されてしまえば。
『お、おう』
頷くしか出来ない。
『では、早速?』
すたすたと歩き出す大佐を呼び止めて。
テーブルの上、食べ散らかしたあれこれを簡単に片付ける。
ゴミはゴミ箱へ。
汚れた食器はシンクの中へ。
キッチンから大急ぎで戻ってくれば、楽しそうな表情の大佐が壁に背を預けている。
『ナニ?』
『いや。アルフォンス君によく躾けられてるなぁと思っただけさ』
『……普通さ。俺がアルを躾けるって、なるんじゃねーの』
『でも、アル君の躾だろう?』
重ねて言ってくる辺りが確信犯。
『わかってるんなら、聞くなってーの!』
手首を引っつかんで、寝室のドアをべいんと開ける。
くすくす笑いは、寝室へ入っても続いていた。
『そんなに笑わなくてもいいじゃんさ』
ベッドの側に立って、俺の見下ろす大佐は実に楽しそうで。
心の狭い俺は、何より身長差が気に入らなくて、とんっと軽く大佐の胸を掌で突く。
機械義手の方で。
大佐は天井を眺めながら、ぱったりと糊の利いているシーツの上へと倒れ込んだ。
自分の事に関しては結構ずぼらなこの男が、シーツに糊なんて上等なことをするはずが
ない。
家政婦さんとか、入れてるんかな?
『ん?どうした』
『や。糊の利いたシーツって気持ちいいよな』
合鍵、家政婦さんは持ってるんだよなー。
当たり前だよなーと女々しい言葉は口にしない。
『一番気持ち良いのは、陽光に晒したシーツなんだけどね。そこまではさすがに』
『朝、干して置いてやろうか?どうせ、汚れるんだし……何で、そこで赤くなんの?』
押し倒される格好に羞恥を覚えているわけではないらしい、色事に離れているはずの年上
の男を見下ろす。
『…素なんだよね?本当君は、侮れないよ』
『褒め言葉として受け取っておいてやるよ』
これ以上主導権を握られては御免だと、達者すぎる唇を塞ぐ。
少し薄い唇は、強く食めば壊れそうな気がして最初は、そっと触れる。
でもその感触は、自分の唇に堪らなく優しくて。
すぐに気遣いなんか忘れて、夢中になった。
薄く開いた唇から舌を差し入れてくるのは、大佐。
絡め取ったのは、俺。
啜り上げ、甘噛み合うのはお互いに。
歯以外は、どこもかしこも柔らかい。
舌は弾力があって絡め応えがあるし、口腔はどこまでもやわやわと俺の舌の侵入を許した。
『んんっつ。ふうっつ』
なるべく息を殺そうと頑張る俺に対して、大佐は奔放だ。
乱れる息を隠そうともしない。
それを聞いて俺がより興奮すると知っているからだろう。
鼻からでは追いつかなくて、タイミングを見計らってする呼吸ですら息苦しくて、唇を離せば
つうっと透明の糸が引いた。
「んだああ!畜生!ヤリタイっつ」
思い出せば出すほど、本人に会いたくなる。
直接触れたくなる。
飽きる事無く繰り返した、数少ない経験のビジュアルは何時だって我ながら、どうよ!って
くらいに詳細に渡ってリアルなんだけれども。