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 遠く離れてる

 俺達兄弟は、もしかしたら近すぎるんじゃないかって。
 誰に指摘されるまでもなく、自覚はあった。
 だから俺が、大佐に溺れたのは結果として良かったんじゃないかと、最近はそんな風にも思
う。
 ホモで近親相姦より、ただのホモの方がマシだろう?
 五十歩百歩って気がしないでもないが。
 俺、という存在を抜かしたのなら、アルの特別はウィンリィだ。
 ちょっとばっかし気が強いが、ウィンリィはいい女だから。
 アルを任せるには足りる。
 そんなコトをアルに告げたのなら怒るだろうが、俺はウィンリィよりもアルの方が比べ物にな
らないくらいに大切だから。
 例えウィンリィが、誰よりもアルよりも俺が好きだと言っても、俺は彼女を受け入れられない。
 前は、アルにお似合いだから。
 二人幸せになって欲しいから。
 なんつって、思ってたんだけど。
 大佐に惚れてからは、結構その辺りもどうでもよくなって我ながらびっくりだ。
 
 恋愛って厄介なもんなんだなーと、しみじみする。

 まぁ、俺の場合は大佐に受け入れて貰えたから、それだけで報われてるって奴なんだろう
けどさ。
 『好きだ』
 なんて、言えずに。
 『犯したいんだけど?』
 と、暴言を吐いた俺に。
 大佐は屈託なく笑って。
 『若いねー。』
 と、唇への軽いキスと共に返事をくれた。

 しかも告白は、執務室で仕事の真っ最中。
 報告書を読む大佐の、眦のすっきりさ加減に釣られて近寄って。
 『ん?何だね』
 と、上目遣いに見られたら、もう駄目だった。
 『ちょっ!大佐』
 ふんふんと鼻歌交じりに、服を脱ぎだした大佐を慌てて制する。
 『するつもりなんだろう?』
 『や、ここではさすがに!何時、誰が来るかわからんし』
 第一心の準備が出来ていない。
 女の子じゃないし、経験が全くないって訳でもなかったけど。
 やっぱり惚れた相手とは、ゆっくり抱き合いたいって思ったんだ。
 『ふうん?こんなに硬くなってるのに。我慢できるとは、凄いね』
 指先で、ズボンの上から膨れ上がっちまったアレをつつついっと撫ぜられただけで、危うく
イクとこだった。
 惚れた相手にされてるんだってより、愛欲スキルがありすぎだよ、大佐っつ!ってーのが、
本音。
 『大佐、上手い?』
 『君よりは経験値があると思うよ、さすがに』
 『もしかして、男ともあるんだ』
 『仕官学校時代はそれなりに。以降は数える程度かねぇ……ナニ?もしかして君は処女
  性にこだわる方なのかな』
 『は!まさか。年上のおねー様に手取り足取り、揚げ足は取られないで堪能させて頂き
 たいってーのが、本音デス』
 基本的には、そう。
 でも、大佐の初めてが俺だったら、すごおおく嬉しいとは思う。
 初めてじゃなくても、勿論嬉しいけれど。
 『揚げ足、取ったら御免ね?』
 『んじゃ、俺は暴走しちまったら、悪りぃな?』
 『ははは……言うなぁ。鋼の。そういうのは、嫌いじゃないけどね』
 ちゅっと、今度は額に口付け。
 俺が鎧のアルにしてやるような、肉の匂いがしないキス。
 『タイミング良く、というか。今日は早番で。頑張れば定時には上がれるけど?』
 『頑張りやがって下さい』
 『はいはい。せいぜい頑張るよ。じゃあ、これ』
 ちゃりっと、手渡されたのは火蜥蜴のメダルが下がっている鍵。
 『くれるんかよ?』
 『……少し気が早いんじゃないかね?私は合鍵を作らない主義だ』
 おや、意外。
 『んじゃあ、借りとく』
 『車は?』
 『時間あるから、歩くよ。後、アルんとこ行って泊まるって言わないとだし』
 何て言い訳しようかなー。
 アルは俺の嘘をたやすく見抜くから、嘘はつかずに、肝心な所を言わない方向で……。
 『ナニ、笑ってるんだよ』
 思案する俺を、面白そうな目で見る口元は、にんまりと言った形容が似合いそうな微笑
を刻んでいる。
 『いやね。親に黙って初めてのお泊りを計画する女の子、ってそんな感じなんだろうな、
 と思って』
 『…あんたなぁ』
 『初々しくて新鮮なだけなんだ。気を悪くしないで欲しい』
 すんなりと言われてしまえば、更に反論するのも子供っぽいかと思って口を噤む。
 『七時には着けると思う』
 『わあった、待っていてやるよ』
 なんて、不遜な物言いをしながらも頭の中は、どピンク一色だった。
 好きな人に、思いが通じるってーのは。
 人を異様にハイテンションにさせるもんだ、としみじみしつつ、俺は背中越しに手を振る
大佐の姿を確認してから、部屋を出たもんだ。

 『おーそーいーっつ!!』
 アルと二人で幾度も訪れた事があったので、唸るほどある蔵書を読んでいれば時間が経つ
のは早いと知っていたから。
 例えば大佐が残業で、遅くなっても余り気にならんだろうと高を括っていた。
 暇は、潰れたが。
 腹が減って仕方なくて、待ちの後半戦は、空腹との攻防だった。
 だって、冷蔵庫の中。
 ペリエしか入ってないんだもんよ!
 『ああ、すまなかったね。ほら、これでも食べてなさい』
 こんな時間に空いている店があったのか、前もって作らせて置いたのか、出来立てのクラ
ブハウスサンドとクラムチャウダーの入ったカップが、コートも脱がない大佐の手から渡され
る。
 『アンタは?』
 良い匂いを嗅いだ途端、ぎゅるぎゅるんと凄まじい音で腹が鳴ったが、もし大佐がまだ食
べてないってんなら、待たねばなるまいて。
 



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