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 これは譲れません。
 こういった行為は、夜半に。
 ベッドの上でするものだと聞いているのですが、ここ最近、直江はまだ日が高い時分から、
寝室以外の場所でしたがるのです。
 今日もまだ、夜半には程遠く。
 夕方の穏やかな日の光が、窓から差し込んで、読書に人工の灯かりを必要としない時刻。
 そして、私が居るのは、人一人がゆったりと座れる揺り椅子の上。
 「私は、今。ここでお前を愛したいんだよ、晶」
 思わず見惚れてしまうほどに整った顔。
 つい、魅入られて。
 言葉に頷きかける自分を、慌てて叱咤しました。
 「駄目です。直江っつ。やあ、しないでっつ。なお、えっつ!」
 彼女の唇が、ちゅうと乳房の半ばほどに吸いついてきます。
 ちょうど、乳首の下辺りでしょうか。
 また、きつく吸い上げられてしまったので、赤い跡がついている気がします。
 それこそ直江以外が見ることはない場所ですが、恥ずかしいのには変わりありません。
 「な、お、えっつ!」
 「そんなに、嫌がるな。気持ち良いだろう?」
 「痛い、だけです」
 「そうか?」
 全く信じてくれない口調で、軽く私の言葉を流してしまう直江は、次に唇を乳首に押し当てて
きました。
 「やっつ」
 一番不思議な。
 直江が言うには、上半身で私が一番感じる場所だそうです。
 この、私には表現しきれない不可思議な感覚が、感じるということなのでしょうか。
 「なおっつ、んっつ」
 最初は舐められるだけです。
 丹念に、繰り返し、乳首の先端から根元、乳輪周辺までもが嘗め尽くされて、私の胸は何時
もべたべたにされてしまいます。

 散々嘗め尽くして、直江のすっきりとした涼しげな口元が唾液で濡れ光る頃。
 今度は、少しづつ。
 歯を立ててきます。
 「やっつ。つぅっつ」
 「痛い?」
 「いたい、です」
 本当は刺激的なだけで、痛みはほとんどありません。
 直江が本当の意味で、私を傷つけるような真似をすることはないのですから。
 最初の時ですら、出血しないように、と。
 それはそれは丁寧に。
 恥ずかしくて居た堪れなくて。
 早く終わりたいと願い、また終始口にしていたにも関わらず、長く行われました。
 以来、決して。
 私に、傷跡が残るような行為はありません。
 ああ、キスマークは、傷跡ではありませんよね?
 「嘘を付け。晶は痛くなると、ここが凹む」
 歯の先で極々軽く掠められたのは、乳首の先端。
 「ひ、うっつ」
 ぞくんと、胸の中心と下肢に走ったのは痛みというには甘すぎる衝撃。
 「今は、こんなに。勃起してるんだ。気持ち良くはなくとも、痛くはないだろうさ」
 微か噛まれるなど強い刺激の後で、直江は決まって優しい所作で宥めてくれます。
 いっそ同じ強い刺激を与えてくれたなら、慣れもすると思うのですが、次から次へと新しい
刺激を与えくれるので、その都度私は、反応をしてしまうのです。
 「直江っつ」
 「なんだ。くすぐったい、です」
 「ナニが?」
 「……乳首の先、舐められたり。息、吹きかけられたり、するの」
 「足りなくなってきたのか……なら」
 直江の指先が乳首に届こうとします。
 次にナニをされるか悟って、必死の抵抗をしたのですが、勿論それは無駄に終わってしまい
ました。
 「やああっつ」
 私を傷つけないようにと、丁寧にやすりがかけられた爪の先が、きゅうと私の乳首を摘み
上げたのです。
 「いたいっつ!いたいですっつ!」
 「本当に?晶の乳首は。そう言ってないがな。ほら、もっと触ってって」
 「やあっつ」
 根元に爪を立てられて、先端は舌に舐め上げられます。
 太股がびくびくと跳ね上がりました。
 必死に直江の髪の毛を引っ張れば、痛いよ、と指先を捉えられ、軽く歯を立てられました。
 何時もは怜悧なと称される瞳が、とろりと蕩けています。
 蜂蜜を滴らせたような甘い眼差しに、私は一瞬、酩酊感を覚えました。
 「どっちも、万遍なくしてるつもりなんだけど。やっぱり左の方が大きい気がするな」
 「そんなの、嘘ですっつ!」
 「本当だよ。ほら。見てみれば良い。左側の方が感度がいいからな。ついそっちばかりを
  可愛がる癖がついてる。用心しないと、左ばかり目に見えて大きく、なってしまいそうだ」
 恐る恐る見やれば、確かに左側の方が微妙に、肥大しているような気がします。
 私は気持ち悪さに、悲鳴を上げて、胸を覆い隠しました。
 「晶?」
 「やです!もぉ。見ないで、触らないで、何も。しないで下さいっつ」
 「こんなに、可愛いのに。どうして止めなければならないんだ」
 咎めるような声。
 恐ろしい強さで腕は開かれ、再び隠せないようにしっかりと固定されながら、また。
 両方の乳首が順番に吸い上げられました。
 「やああっつ!」
 どうして、直江は。
 私がこんなにも嫌がっている事を、したがるのでしょう?
 本当は、私が嫌いなのかもしれません。
 そう、思い至ったら。
 涙がぼろぼろぼろぼろと零れ落ちました。
 「……泣くな」
 「だって、私っつ。いやだって、やめて、くださいって…つ、く。なんども。申しあげましたっつ!」
 「……まだ、時間をかけるべきなんだろうけどな」
 ふう、と直江が深い溜息をついています。
 どうやら、呆れている風情に、私の涙腺は完全に決壊してしまいました。
 目を大きく見開いたままで、視界が全くききません。
 後から後から溢れ出る涙の、止め方などわかりませんでした。
 「止められないんだ……悪いな」
 この、陵辱、が。




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