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 私の持つ、予見(さき)読み・一般的には予知能力と呼ばれる能力は、どうやらかなり
異端らしいのです。
 自分以外の能力者を知らなかった頃は、それが普通なのだと思っておりました。
 過去、現在、未来の全てを見通せるものなのだと。
 この能力を持つ者は、決して少なくないのですが、私と同じに三つ全てのブロックを、
均等に読める人間は他にありません。
 ほとんどの能力者は、どれか一つしか読めず、三つ全て読めたとしても、得意不得意
がでるという話なのです。
 私の親友で、十六夜(いざよい)という称号を持つ、予見斎(よけんし)がおりますが、
彼女の得意は過去見。
 それ以外は、苦手で、ほとんど読めないのだと溜息をついています。
 彼女彼達は、全てが見えてしまう私には、大よそ理解できない修行や鍛錬に励むのです。
 それでも同じ能力者と色々と語らいたい心持ではあるのですが、直江が許してくれません。
 曰く。
 私が傷付くのが嫌だという事なのですが、全く意味がわからないのも、寂しい事です。
 「晶?ナニを考えているんだ」
 直江は、私が一人思考に沈むのを嫌います。
 そのまま、こちら側へ帰ってこないのではないかと不安になるようです。

 「たまには、授業に出たいです」
 言葉は、慎重に選びます。
 直江以外の誰かと、語り合いたいのだと告げれば、どんな無体を強いられるか、経験上わかっ
てはおりますから。
 「必要ないだろう?」
 「でも、これ以上、非常識な人間になりたくありません」
 私を嫌う方々の一部は、よく私を非常識な人間だと称します。
 実際その通りなので仕方ない話なのですが、私の非常識が私の周りの人間までを巻き込んで、
それらごと否定されるのは、とても悲しいことです。
 「晶みたいなのは、非常識って言わない。天然っていうんだ」
 「ですが!」
 「お前は、そのままで良いよ?」
 笑った形のままの唇が、私の唇を塞ぎます。
 ひんやりと冷たくて、薄い直江の唇。
 唇を触れ合わせるだけの、キスならば、まだ。
 いえ。
 どちらかといえば、好きかもしれません、けれど。
 「ん、んっつ」
 角度を変えられて、幾度も唇を噛まれ、舐められるのは、苦手です。
 更には。
 「やあっつ」
 直江の指先が素早くブラウスのボタンにかかれば、尚更です。
 「直江っつ、脱がせないで下さいっつ」
 「脱がさないと、晶が食べられない。綺麗な服を纏うお前もイイけど。こうして服を脱がせて、
 何も纏わないお前が一番綺麗で、美味しいし、な」
 抵抗などしても無駄といわんばかりの、スピードと強引さで、気がつけばボタンは上から
三個外されてしまいました。
 すかさず、ブラジャーの上。
 胸の上部に直江の唇が移動します。
 「んっつんっつ」
 以前は触れられても、くすぐったいだけだったのですが、最近はどうにも違うのです。
 身体の奥底で、ざわざわと何かが騒ぎ立て落ち着きません。
 私と違ってどんな場面に置いても器用な直江の指先が、するっとブラウスの中に入って
きたと思ったら、もう、ブラジャーのホックが外されてしまいました。
 「にゃおっつ!」
 直江、と呼ぼうとしたのに、まるで猫のような鳴き声です。
 気が動転するとよくなってしまうのですが、何故か直江を含む近しい人間は楽しそうに
しています。
 何故なんでしょう?
 と、呑気に思考がずれている内に、直江の鼻先がブラジャーを押し上げて、今度は胸
の下部に触れてきます。
 ちゅう、と吸われる音に慌てて見やれば、既に赤い跡がついておりました。
 「また、跡がっつ」
 「前のがちょうど消えた所だったからな。つけたかったんだ」
 止める気など全くないらしく、赤い烙印は幾つもつけられてゆきます。
 直江以外の誰も見ることはない場所ではありますが、やはり恥ずかしいのです。
 「跡、つけないで下さい」
 「何故?」
 「恥ずかしいです」
 「こんなに綺麗なのに。何も恥ずかしがる必要はないだろう」
 「必要ないとか、そういう問題ではありません。ん、あっつ」
 鼻から抜けるような、不思議な声です。
 身体のあちこちを暴かれるようになって、時折、こういった声が出るようになりました。

 「本当。いい声だな。晶。お前のそういう声ばかり、聞いていたいよ」
 うっとりと、囁く直江の声は、それはもう艶っぽいのですが、どうにもその。
 女性が持つ艶っぽさとは違うようなのです。
 見目形こそ、女性に近い直江ですが、彼女は男性器と女性器の両方を持っているのです。
 世間では両性具有というのでしょうか。
 故に基本的には、中性的といわれる雰囲気を纏っています。
 他の女性に、それはもう好意を寄せられるのです。
 女性に好意を寄せられるのならば、男性的なのではないかと思うのですが、それは違うと、
なぎが言っていました。
 曰く。
 絶対に届かない物に憧れる、偶像崇拝に近いものだ、ということですが、あまりよくわから
ない説明でした。
 ただ、直江が女性であるが故に、女性が憧れるのだという点は、何となくですがわかるよう
な気がします。
 純粋に、格好良いのです。
 「晶?」
 「……やっぱりしますか」
 「ああ」
 「では、せめてベッドへ」
 「いや。ここがいい。ここで一度晶をイかせたら、ベッドへ連れてゆくよ」
 「直江!」
 そんなに、何度もするのですか!という言葉が喉から出かけましたが、愚問でしょう。
 また明日も、授業に出られない気がしてきました。
 しかし。
 「するなら、ベットの上でなければ嫌です!」




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