以前とのギャップを思い浮かべて、ついつい微笑が浮かぶ。
「キング?お口にあいませんか」
「……いや?そんなことはない。今日も良い出来だよ。特にロスティの焼加減はいいね」
「ありがとうございます」
心の底から嬉しそうに微笑まれる。
ああ、そうだ。
私は打算のない微笑を向けられるのは、初めてなのだ。
今は亡き義理の息子は、似たような感情を私に向けてきたが、私にそれを受け入れる余裕
がなかったから、笑顔を。
愛らしいと、思うことはなかった。
が、今はどうだろう?
自分の中に、こんな独占欲があるとは思わなかった。
父亡き後、絶対者である姉にですら、見せたくない。
独り占めしたいと、思ってしまうのだから、コマリモノ。
世界の浄化が叶った後は、マスタングと二人悠久の時を過ごすのもありか、とまで考える
始末。
私の手によって作り変えられてしまった、マスタングの身体は、ホムンクルスの肉体構造
とあまり変わりがない。
無体を強いなければ、長く持つだろう。
兄達が許すかどうかは微妙な所だが、自分達の最大の敵であった存在が、絶対的服従
に甘んじている状況は、どうしても排除したい憎悪の対象ではないと推察している。
「お仕事、大変なのですか?」
「いや、そんな事も無いよ」
「難しいお顔、してらっしゃるから……私に記憶があれば、もっとお役に立てたと思うの出
すけれど……」
マスタングには、事故で記憶の一部に弊害があると、説明してあった。
結婚する前は軍人で、役に立つ部下だったとも。
「もう、危険な場所には立たせたくないから、いいんだよ」
「でも……」
「君がこうして、美味な食事を作って、私を毎日労ってくれるから、仕事ができるんだ。他
の誰にもできないことなのだから」
「はい」
瞬時考えた瞳は、それでも納得して、穏やかに笑う。
釣られて、私の口元にも穏やかな微笑が浮かんだ。
「……キング?バスのしたくもできてますが、どうされますか」
「そうだね。食休みもすんだし、入ろうか」
「……はい」
瞬時の躊躇いは、羞恥の現われ。
今までバスルームでしてきた事のあれこれを思い出しているのだろう。
世間様から程遠いバスルームでの嗜みを教え込んである。
何も知らない、否、何もかもを忘れてしまったマスタングに、自分に都合の良い決まり事を躾
てゆくのは楽しいのだ。
私に従順ではあるのだが、羞恥が絡むと、愛らしい抵抗を見せたりもする。
結局私の言う事に従わなくてはならないとわかっていても、言わずにはいられない、その心
の鬩ぎあいこそに、惹かれてやまない。
「先に入っているから、仕度ができたら来なさい」
「はい、キング」
私の背中からガウンを滑り落としたマスタングは、いそいそと寝室へ消えて行った。
「失礼致します」
きっと小さくガラス戸がきしみを立てて、マスタングの登場を教える。
私はバスタブの中から、マスタングの方を見やった。
「ああ、入りなさい」
長い髪の毛を丁寧に上で纏め上げている項は、普段の幼い風情と相俟って何とも艶っぽい。
恥ずかしそうに私の目線を受けながら、マスタングは簡単にシャワーで汗を流す。
きゅっと蛇口を捻る音は、よく響くバスルームの中で驚くほど反響した。
「ロイ。入っておいで」
マスタングが入るスペースを自分の身体の前に空ける。
タイルを見つめたまま、バスタブを跨ごうとする、その太ももに目をやり、ん?と眉を顰めた。
「ちょっと、待ちなさい。そのままバスタブに座りなさい。足は湯の中に入れていいから」
言われた通りに、ちょこんとバスタブに座ったマスタングは、私が何を言うのか凡その予測は
ついているのだろう、伺う眼差しを向けてくる。
「足を開きなさい。大きく。太ももに手をあてながら」
真っ直ぐに瞳を覗き込むようにして命令すれば、シャワーの湯でゆるく温まった体が、更に
赤く染まる。
それでも逆らうなんて、選択肢にはマスタングの中に存在しない。
目線から逃れるようにして、太ももの付け根に掌を置いて、ぐっと大股を開いた。
「ふむ。少し生えているね。前に手入れをしてあげてから、何日経ったかね?」
知っている事をいちいち、マスタングの口から言わせるのも、より深い羞恥と愉悦を引き出す為。
「……三日前です」
「おやおや。それしか経っていないのに。もうこんなに生えてしまったのか。ロイは、私にここ
を見せてく無くて、陰毛を生やしたいのかな」
「いいえ!そんなことは、ありません。ロイは……ロイは何時でもキングに、全部見て欲しい
です……あの……ここも…」
開いた個所を自分で見つめてしまい、僅かに黒い毛が生えた状態に小さく首を振る。
「ですから!キングに……剃って欲しいです」
「何を」
「……ロイの……毛、を……下の毛を…つるつるにして下さい」
「ちゃんと、言えたから。ご褒美に綺麗にしてあげようかね。場所を移動しなさい」
こく、と小さく頷いたマスタングは、私が色々と遊びたいがために作った、壁とバスタブの隙間
にある40センチ弱ほどのタイルの上に座った。
言われなくとも、大股を開いた状態で、だ。
敏感肌用のシェービングクリームをたっぷりと掌に取り出して、よくよく泡立てる。
ふわふわと持ち上がった泡の部分を、マスタングに塗りつけた。
掌で擦りこむようにして、剃刀を手にする。
「動かないように」
太ももに唇を寄せた。
「はい。キング」
神妙に頷いたマスタングは、じっと私が作業する様を見詰めている。
さすがに慎重に剃刀の刃をあてると、微かに伸びた毛を剃り残しのないように、丁寧に刃を
動かす。
失敗されるとは思っていないマスタングの目線は、じっと私の手元を追っている。
「あ!」
一通り剃り終えて、僅かにも残っている毛がないか確認する時、わざとらしく、刃を滑らせて
みる。
驚いたマスタングの太ももが、小さく揺れた。
「つ!」
怪我をさせるつもりはなかったのだが、刃が微かにあたってしまったようだ。
私を銜え込む個所より少しだけ上の部分に残っていた、泡がじわじわと赤く染まる。