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 神操師という、とんでもない業を持つ直江は、攻撃系術者としては、不確定要素が高い
ため称号こそ持たないが、超ハイランクに属している。
 ぶっちゃけ、例外事項扱いと言ってもいい。
 「くさ、なぎっつ!」
 ゆっくりと頭を振って、現状を見極めたのか、ベッドの隅に投げ打たれた体が、スローモ
ーションのように不思議な動きで起こされて。
 気の弱いものなら、それだけで昏倒しそうな、憎悪の眼差しが向けられる。
 「何時も言ってるだろうが!晶を、壊すなとっつ!」
 「私が晶を壊す訳がないだろうっつ。こんなにっつ……こんなにも、愛して、いるのにっつ!」

「度が過ぎるんだよっつ!だいたい相愛でもない癖に。協力者ってだけで無理無茶しやがって」
 高城学園の中になる不可思議な制度の一つ。
 そして絶対不変の真理とも言うべき誓約でもあった。
 協力者と書いて、パートナーと読ませる。
 基本的に高城学園で、協力者は必須だ。
 俺も閃子(ゆりこ)という協力者を持っていた。
 世間様的に言えば共生関係とでもいえばいいのだろうか。
 能力が高ければ高いほど、数多の力なきものに理解されない故、能力者の魂は孤独だ。
 力があっても尚、壊れてゆく人間が多いのは、心が挫けるから。
 何時からの制度なんだかは知らない。
 ただ、能力者の孤独を埋める為から、制度は始まったのだという。
 まずは、精神、心、魂の補完を。
 それが安定してから、能力そのものを補う関係が普通になっていった。
 例えば、俺。
 攻撃系で癒しの技を持ちえていたので、協力者の閃子は、未来を読み定める予見者だ。
 予見斎は、未来を謳う者。
 レアな能力の上、一番綻びも激しい能力と言われていた。
 更には、大半が己の力を護る能力を持たない。
 己の死を予言しても、抗う術がないといえば、心が壊れる理由もわかるというもの。
 閃子のように多少なりとも、己を護れる力があれば良いが、晶は身を守る術を何一つ持たな
かった。
 俺のような例外中の例外はさておき。
 特殊能力が高ければ高いほど、他の力は減退してしまうのだ。
 最高峰の予知能力者とも呼ばれる晶に、称号こそ持たないとはいえ、人伝えにしか聴けない
という、唯一の神操師である直江が協力者として選ばれたのは、無難だったといえる。
 直江の攻撃は、高城学園においても三本指にはいるのだから。

 しかし。

 ぎいいんっつ。
 驚くなかれ、直江に振り下ろしたはずの千薙が、その身体に触れる事無く弾かれた。
 今まで一度たりともなかった、現象だ。
 「お前が、ナニを言う?私が、晶を愛してる…晶は私を受け入れてくれた。身体、だけでも受け
 入れってくれたんだ!……その事実だけが、全てなんだよ」
 ぼう、と青白く直江の周りに纏いついていた気体が、だんだんと人の目にもわかるように像を結
び始める。
 これ、はっつ!!
 「誰にも、晶を私と違った風に慈しむ、貴様でも、許すわけにはいかぬ。渡すわけにはいか
  ぬっつ」
 下ろした神が、その身体に宿ったような古風な口調。
 「何て者を、呼び出すんだ…直江」
 神といえども、名ばかりの神もうんざりするほど居る。
 古来日本には八百万の神々の思想があった。
 便所の神ですら、崇める日本国において、呼び出せる神は無限に存在するのだ。
 その、神の中でもやはりハイランクに置かれる神は無論居る。
 高城の外ならばいざ知らず。
 高城学園内だけに伝えられる神々列伝。
 必須読書だといわれている、その書物の。
 ご丁寧にもフルカラーページに、その神は存在していた。
 全ての日本刀を支配下に置く神として。
 攻撃性の高さは星五つの最高レベル。
 人間への憎悪も同じレベル。
 まかり間違っても、人に屈する神ではない。
 ない、はずなのに。
 直江は、その神を操るというのか。
 神の名は、オトロシノオオムチヌシといった。

 ぎらりと、有り得ぬ光が走って、俺は飛びのいてそれを避ける。
 段々と実体化し始めている神の腕が、俺に切りかかってきたのだ。
 そのぎらつく刃は、俺の千薙を易々と上回る切れ味だろう。
 完全に避けたと思ったが、俺のワイシャツは切り裂かれて見事な七部袖になってしまった。
 霊であれ、人であれ。
 切れぬモノなしと言われ続けた、破霊刀も相手が悪い。
 何せ相手は神様で、しかも刀を司る神なのだ。
 「どうしょ、千薙?」
 話しかければ、俺の迷いが伝わったのか、刀がじんわりと熱を帯びた。
 負ける訳がないだろう、と言っているようだった。
 「ちょ!待てっつ!おいっつ」
 熱と緊張からくる汗に、柄を握り直そうとしたら何と!
 千薙は神に向かって一人で、切りかかってしまった。
 「おーい。待てってば!」
 引きずり戻そうとしても、ぶんぶんと振り回って、俺の手の中に収まろうとしない。
 そんな千薙を見て、神も標的を俺ではなく、屈しない刀に定めたようだ。
 「貴様の相手は、私だよ。草薙」
 人外の動きで、直江が距離を縮める。
 参った。
 肉弾戦では、俺の方が部が悪い。
 直江は、狼の血を受け継ぐ貴種だ。
 俺とて、狂って爛れた血を一身に受け継いだ身だが、直接対峙するには向かない血だった
りもする。

 「……ま、やってやれない訳ではないんだがな」
 血を、流す羽目になるわ。
 戦闘の結果の流血ではない。
 俺が直江に対等に戦う最低限の条件が、血を使う事なのだ。
 直江が狼の血を受ける者ならば、俺は毒操師数百年の血を受け継いできた者だ。
 それも始祖すら上回ると言われた、歴代最高の毒を体内に孕む。
 近親婚を繰り返した弊害故か、正気を持たない毒操師が続いた中。
 俺の両親、意を決して生めるだけの子供を生んだ。
 普通は能力者が現われた時点で、子供を生む事を禁じられるのだが、良い子供を生める
だろう適性が誰よりもずば抜けていたから、その我侭が許されたのだ。

                                  


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