「僕が詐欺にあった理由」−その3


「あんたはペナン島に行くのかい?」
女が聞いてきた。僕はそうだと答えた。
女は、僕にチケットを出すようにうながし、チケットを受け取るとまた聞いてきた。
「マレーシアに行くのに、イミグレーション(入国審査所)で200マレーシアドル が必要だがマレーシアドルは持っているか?」
僕はこの旅行の2年前にマレーシアに行っていたが、その時そんな話はなかった。 だが、最近アジアは政情不安定で、マレーシアも通貨政策を大きく変えた。マレーシアの 金はドルに対する固定相場制になったという話も聞いていた。だから、この時、何か 2年前と違っていてもおかしくはないと思っていた。
それで、女に対し、いや、持ってないと言うと、
「それじゃ、ここで両替していかないといけない。」
「170USドル出しなさい」
と言われた。

・・・200MSドルが170USドル?2年前は確か40円が1MSドルだった筈。 ここで、寝ぼけた頭にも疑念がわいた。
「レートは正しいのか?」
僕が聞くと、女は正確だと自信たっぷりに答えた。僕はまだかなり怪しんで金を 出し渋っていた。すると、女は車の出る時間が迫っているから早くしろ、と僕を せかしてきた。 もしかして、この前の通貨政策の変動で、MSドルのレートが変わったのかもしれない。 愚かにもそんな考えが頭に浮かんできた瞬間、僕は金を出してしまっていた。 女は200MSドルを僕につかますと、追い立てるように僕を車に追いやった。

車は出発してからも、スラー・ターニーの街を動き回り、さらに数人の客を乗せて、 やっと高速道路に入ろうとしていた。と、ここで運転席の方に不審な動きが あった。最後部の僕の座席からではよく見えないが、運転手と助手席の誰かが 激しく口論し、車が停まった。そして、運転手が車を降り、助手席のドアに近づき、 助手席の誰か(女性らしい)に降りろ、と指示しているように見えた。そこで 女性の方が折れたのか、運転手は運転席に戻り、車は再出発した。どうも、女性は 泣いているように見えた。

僕は寝不足を解消するべく、寝よう寝ようとしていたのだが、どうしてもさっきの 一件が頭の中にちらついて眠れなかった。そこに、この出来事である。不審の念が 再燃し、どうしても疑問を解消するまでは眠れそうになかった。だが、しばらく すると眠っていたらしい。

そのうち、肩を叩かれ目を覚ました。時計を見ると車が出発してから2時間ほど 経っていた。どうやら休憩所に着いたらしい。起こしてくれたとなりの白人カップルが 車の外に出ていくと、僕が最後の一人だった。トイレに行こうとして車を降りると、 女の子二人が寄ってきた。日本人にも見えるが、英語でしゃべりかけてきたのを みると韓国人なのだろう。

彼女たちは僕に、あなたもさっきのツーリストオフィスで両替したのか?と聞いて きた。そうだ、と答えると突然女の子の一人が顔を押さえて泣き出した。よく見ると、 すでに泣きはらしたような目をしている。さっき泣いていたのはこの子だったらしい。

二人に詳しく話を聞くと、どうやら彼女たちと僕、マレーシア方面に向かう旅行者を 相手にした両替詐欺だということが解ってきた。彼女たちも追い立てられるように 両替をさせられたのだが、車で計算をしてみると、実際の4分の1ほどの低レートで 両替をさせられたということがわかり、運転手に引き返すように言ったところ、 運転手に俺は何も知らない、訳の分からないことを言うようだったら車を降りろ、と 言われて、しかたなくここまで黙っていたらしいのだ。僕の被害額は1万5000円 程度。アジア旅行においてはかなりの大金である。彼女たちの被害も相当なものの ようだった。

白人カップルにも事情を話して、協力を求め、さっそく運転手に交渉しようとしたが、 姿が見えない。仕方なく、軽い食事をとり、彼が戻るのを待っていた。

運転手は戻ってきて、座席に何か荷物を積んでいた。この時、僕は怒り心頭に達していて 冷静さというものがほとんどなかった。彼に近づき、肩を後ろから叩いた。 彼は悪びれた風もなく、何だ?という顔で向き直った。
僕はまっすぐ彼の目の真ん中を睨み付けながら、詐欺師の片割れめ、すぐに車を引き返せ、 と言うようなことを言った。彼は一瞬動揺したように見えたが、すぐに何のことだ? と言い返してきた。そのままにらみ合っていると、韓国人の女の子と白人カップルも 加勢にやってきた。そのまま運転手をやりこめようとしたのだが、そこに休憩所にいた タイ人達も集まってきて、周囲は大混乱になった。運転手はタイ語で周りのいかつい タイ人達に何事か叫び、そのうちの一人が近づいてこようとしていた。僕がそっちの方に 気を取られた瞬間、運転手がいきなり殴りかかってきた。


その4へ続く

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