1975年 Breakaway Interview Part III


スチュアート:スティーヴン・ビショップの話をしましょうか。2曲、彼の歌を歌ってますね。初めて目にする名前なんですが、前から活動していた人ですか?

アート:作曲は多くやってました。まだヒットはしてないですが、若いし、新人だし、それに・・・

スチュアート:非常に繊細な歌詞を書く人ですね。あなたにぴったりじゃないですか。"The Same Old Tears"なんて。

アート:うん、彼の作詞スタイルは、僕によく合います。彼の曲ならたくさん歌いたいですね。きれいな歌を書きますから。

スチュアート:それが重要なんですよね。あの、以前に話を伺った時に、話題に上りましたが、あなたは歌を解釈をして、自分のものとして歌う。だから作曲者の言葉は、あなたが感じることを代弁するものでなくてはならないんですよね。

アート:そうです!シンガーとして、自分の気持ちを表している歌詞の曲を探すのはとても面白いことです。非常に面白い。

スチュアート(スタジオから):リチャード・ペリーに、スティーヴン・ビショップのことを聞いてみました。彼の反応はどうだったでしょうか?

リチャード:ロサンジェルスの、すばらしい、才能溢れる若い新人ソングライターです。彼の曲をこれから多く耳にするようになると思います。スティーヴン・ビショップの曲は、特にアート・ガーファンクルにぴったり来ますね。ほんと、僕は、アートの計画の中に、全部スティーヴン・ビショップの曲ばっかりのアルバムをいつか作るっていうのがあるんじゃないか、と思います。全部とてもきれいで、ロマンティックなメロディーでね。

スチュアート(スタジオから):それでは、アルバムに収録されているスティーヴン・ビショップの曲から1曲、"Looking For The Right One"です。

<"Looking For The Right One"をかける>

スチュアート:去年、アーティーが、そして確か、ロイ・ハリーも言っていたのですが、二人でアルバムを作っていた時、例えば、Angel Clare を作っていた時に、アーティーは、「いやいや」ボーカルを足したそうです。

リチャード:アーティーらしいですね。(笑う)自分の歌唱力を軽んじがちなんですよ。彼なら言いそうですよ、この曲、すごくきれいじゃないか、僕の声を入れたくないよ、ってね。でも、ミュージシャンの性みたいなものですよ、「この美しい曲が、僕の声で台無しなっちゃうじゃないか」って言うのは。でも、実際は、ボーカルが最も美しい要素であることが多いのにね。

スチュアート(スタジオから):番組の最初の方でお届けしました"99 Miles From L.A."に戻りますが、(ええ、私はこの曲に関しては一言、あるんですよ!)、私はアーティーに、ジョビンぽく聞こえる、と言ったのです。

スチュアート:さて、この曲にはジョビン的な要素があると思う、と私が言ったら、あなたは「へえ。ええっと、このアルバムにジョビンの曲が入っていますよ。"Waters of March"です。」っておっしゃりましたよね。この曲、すごいですね!

アート:ありがとう。僕も気に入ってるんです。なんて言えばいいかな・・・、この曲では飾り気なく、歌詞を切れ目なく歌うことを目指しました。それが、言うなれば「売り」ですね。ごてごてとした、派手さから離れて、歌っている言葉に身を任せて聞いて欲しいです。名詞の羅列―物、鳥、石―がとても心地よいですから。カーソン・マッカラーズの「木・岩・雲」*という短編を読んだことがありますか?人を愛する方法を書いた、非常に短い話です。誰かを愛したければ、まずは名詞を愛さなくてはならないんです。

*A Tree. A Rock. A Could by Carson McCullers は1942年に発表された短編小説。
カーソン・マッカラーズ(1917-1967):アメリカ南部の女性作家。「木・岩・雲」は、『20世紀アメリカ短篇選(下)』(大津栄一郎訳・岩波文庫・1999年)などに収録。】

<"The Waters of March"をかける>

アート:「椅子」なんて呼ばれる物体があることを、当たり前だと思ってはだめです。すごいじゃないですか・・・「椅子」ですよ。つまり、一体この言葉はどこからきたんでしょうか?ほんの2・3年前にこの世界に生まれて、周りのものを見る・・・3歳の子どもにとっては・・・この文明を構成する「物体」すべてが目を見張るべき神秘です。実際、どれほど不思議で、素敵で、にぎやかなのか、実感としてつかめないくらいです。そういう驚きから、冷めてきてはいますが、完全に忘れてしまうことはない。まだまだ、3歳にとっては、毎日が、ものすごくわくわくする世界です。

この曲では、僕は全てを愛しみました。「夜更け」「点」「穀物」「蜂」「鷹」「罠」「銃」「死」、全てをです。最後で心地よいめまいがします。それを狙って作りました。僕にとっては、これはフェリーニ的な曲です。

スチュアート:私が気に入った点をお教えしましょうか。この曲の管楽器の音は最高ですよ。何を使ったのかは分かりませんが、でもすごいです。教えてください、何の楽器ですか?

アート:にぎやかな感じのところのことを言っているのなら、ビル・ペインがシンセサイザーを多重録音して、味のある音を作ってくれたんです。

スチュアート:大好きですよ。

アート:ビルのことはとても気に入っています。このアルバムでもたくさんの曲で弾いてくれました。彼とはとても気が合いましてね。

スチュアート(スタジオから):リトル・フィートのビル・ペインと、アルバムの"Waters of March"についてアーティーが語ってくれました。アーティーはレコーディングした1曲1曲を、このように深く味わって欲しいようですね。世間の賞賛は、彼にとってはどうでもよいことのようです。話題がシングルの好調な売れ行きの話になった時、私はこう言いました。

スチュアート:それには満足したでしょう?

アート:わくわくはしましたよ、でも実体のない興奮ですね。それで本当に喜べるようなことではないんですよ。捉えどころがない。ただの興奮です。気分が高揚するだけですね。

スチュアート:では、"The Sound of Silence"がチャートを上昇していった時の気持ちの再現はないんですか?

アート:同じ気持ちの、ミニ・バージョンですね。素敵な驚きで、有頂天になる感じ。「僕に?こんなに良くしてもらっていいの?ありがとう。」ってね。いい知らせにも同じようなよろこびを感じますよ、ちょっと規模は小さいけどね。

スチュアート:さて、このまもなく発売のアート・ガーファンクルのアルバムの紹介に、もう一曲付け加える時間はありそうですね。最初の方で話題に上った、ヒット曲のカバーはどうでしょうか?アーティー・・・

アート:これは僕が見つけた初期のビーチ・ボーイズのアルバムに入っている、非常に評価の高い1曲でした。すんなり僕のアルバムに収まりました。アルバム全体を貫くある種の感触、僕に言わせれば、「叙情的かつロマンティックかつ官能的」な感じなんですが、それによく合っています。ビーチ・ボーイズの曲の中で最も様式美のある曲ですね。この曲は、非直接的に、つまり様式的に受け止めて欲しいです。

<"Disney Girls"をかける>

スチュアート(スタジオから):ブルース・ジョンストンとトニー・テニールをバック・ボーカルに、アート・ガーファンクルの"Disney Girls"でした。さて、アルバムが完成して、仕事が終わりましたが、アーティーのご予定は?

アート:スティーヴンの、スティーヴン・ビショップのプロデュースをしようかと思っています。それから、小さなバンドとリハーサルをして、一緒にコンサートをしようかな、と。そろそろツアーにでてもいい頃でしょう。自分の曲を書くことも考えています。家にこもって、電話線を抜いて、キーボードの前で色々とやってみて、どうなるか見てみる―ちゃんと、やってみたことないんですよ。休暇を終えて、旅行から帰ってくるころには、落ち着いてこういうことが出来るでしょうね。でも、今は、都会を離れてカントリー・サイドに行きたくてしょうがないんです。とりあえず休暇と旅行を楽しみたいです。ほら、あの鳥、太った虫を捕まえたよ。おいしいランチだ!そこにもっと大きくて獰猛そうな鳥が来たぞ。前の鳥を追い出しちゃった。やつはきっと、フェンスにとまって、昼ご飯を・・・

<"Breakaway"の一部をかける―フェイド・アウト>

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