1975年 Breakaway Interview Part I
このインタビューは、1975年、アルバム Breakaway の発表直前にイギリスのBBC ラジオで行われたものです。原文はThe Art Garfunkel Website こちらにありますので、ぜひ1度ご覧下さい。

Art が自身のアルバムについてこれほど語っているインタビューは他にないと思います。わたしはこのインタビューの音源を聞いたわけではないので、発言のニュアンスなどはわかりません。誤訳等ありましたらご指摘下さい。



「ステュアート・グランディの土曜の1時」
スチュアート・グランディ(スタジオから):こんにちは。8月24日土曜日の昼下がり、アート・ガーファンクルは彼のセカンド・アルバムを完成させて、ハリウッドのサンセット・ストリップを見下ろすシャトー・マーモットの一室に座っています。アルバムに関してはほとんど決まりました。でも全部決まったわけではないようです。

ステュアート・グランディ:アート、アルバムのタイトルは決まりましたか?

アート・ガーファンクル:いや、まだだよ、ステュアート。

ステュアート:早く決めなくっちゃ。

アート:大体…あと12時間ぐらい残ってるんですよ。何か思いつくでしょう。(二人とも笑う) ポールが昔僕らのレコードに、「かくも若く、かくも苦悩に満ちて」っていうタイトルを考え付いたことがあるんですよ。

ステュアート:結局はBreakaway 【訳注:分離、離脱という意味】とつけるかもしれない、って聞いたけど。

アート:ええ。

ステュアート:物議をかもしそうなタイトルですね。しかも真実を含んでいそうな。

アート:ええ、そのタイトルには真実が含まれてます。ある意味誤解をまねきそうな…Breakaway というタイトルは意味ありげですね…。サイモン&ガーファンクルのレコードを出しておいて、しかも僕のアルバムに Breakaway というタイトルをつけたら、混乱させそうですね。どうしようかな。いろいろ、考えてみます。もうちょっと考えてからだね、決定は。アルバムにタイトルをつける瞬間の僕をつかまえて、こうしていろいろとしゃべらせてそれを録音するというのは、面白い試みですね。

スチュアート(スタジオから):アート・ガーファンクルの"Break Away"です・・・<"Break Away"をかける>。

アート・ガーファンクルの新しいアルバムBreakaway から、タイトル曲をお届けしました。アートの新しいプロデューサー、リチャード・ぺリーが最近イギリスに行ったときに、たまたま見つけたギャラガー&ライルの曲です。特にこのトラックに関しては、注目すべきことがあります。クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングのメンバーの半分が参加しています。

ステュアート:この曲で、デイビット・クロスビーとグレアム・ナッシュが一緒に歌ってるんですよね。彼らのアルバムに参加したことがあるんですか?それとも、彼らがあなたのアルバム参加したことが以前にもあったんですか?

アート:いいえ。グレアムは、僕とポールと一緒に、車の中でよく歌ってたんですよ。よく一緒にいましてね。グラハムは歌うのがすごく好きで、面白いやつです。いろんな人と一緒に音楽を作るのが上手くて。デイビット、彼のことはグレアムほどよく知りませんでした。グレアムとは、The Hollies 【訳注:グラハム・ナッシュがクロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングの前から所属していたイギリスのバンド。1963年結成。】時代に彼がはじめてアメリカに来て、そのころに知り合いました。でも、一緒に仕事をしたことはありませんでした。何年もやりたいって思っていました。一緒にやるのは最高でしたよ。同じ職業の人たちと仲良くなって、仕事をするのは面白いですね、本当に。

ステュアート:このトラックを聞くわかりますけど、アルバムの他の曲もそうですが、今回はAngel Clare よりも、「コンテンポラリー」な音楽ですよね。

アート:ええ。

ステュアート:これはリチャード・ペリーのアイデアですか?それともあなたがやったこと?

アート:リチャード・ペリーです。それはリチャードのアイデア。僕はこういうタイプなんです。「このプロデューサーのところに行って、彼にやらせよう。指揮権は彼に持たせよう。」つまり、彼に決めさせて、どうなるか見よう、と。彼に好きなようにやらせてみて、アイデアを形にして僕に売り込ませる。リチャードはこう来るわけですね。「ボーカルをもっと前に押し出そう。」という感じ。出来上がったアルバムを聞いてみて、面白いアルバムになったと思います。気に入っています。

スチュアート(スタジオから):ふむ、明らかにAngel Clare とは違うアルバムであり、その理由はリチャード・ペリーにあるようですね。ペリーの最初の成功はタイニー・ティムのプロデュースでした。その後、ハリー・ニルセン、リンゴ・スター、カーリー・サイモン、バーブラ・ストライサンドのヒット・アルバムをプロデュース、最近ではマンハッタン・トランスファーも手がけました。これらの成功から自信を得たリチャード・ペリーは、10年以上、ロイ・ハリーと仕事をしていたアーティーからのオファーを喜んで承諾しました。思い切った変化ですね。

リチャード・ペリー:斬新なアプローチとアイデア、そして多少の主観的な見方はプラスに働くと言うのが僕の持論です。アーティーはこれをかぎつけて、僕のところに来たわけですね。二人で最初は実験として初めて、そこから取り掛かりました。彼も僕と同じようにたくさんアイデアを持っていまして、初期段階のアイデアを全部出した後、5つくらいはすぐ決まったんですが、残りを決めるのにしばらくかかりました。最初にレコーディングしたのが、スティービー・ワンダーの"I Believe (When I Fall In Love You It Will Be Forever)"でした。次が"I Only Have Eyes For You"で、これがファースト・シングルになりました。

ステュアート:その2曲を最初に録音したなんて、面白いですね。アルバムの中で最もよく知られているナンバーですよね。有名な曲の、全く異なるニューバージョンを作る時、プロデューサーやミュージシャンにプレッシャーはかかりますか?

リチャード:ええ。僕は有名な曲をやるときは、必ずなにか新しいものを持ち込まなきゃいけないと思うんです。で、有名な曲をやる時はちょっと複雑な気分がするんですよ。まあ、いつもはあまり知られていないものをやる方が好きなんです。全く新しい解釈を盛り込める時だけですね、有名な曲を取り上げるのは。非常に効果的です。よく知られている曲だと、すぐに耳について、苦労の成果をすばやく聞き取ってもらえますからね。

<"I Believe (When I Fall In Love With You It Will Be Forever)"をかける>

スチュアート(スタジオから):アート・ガーファンクルの新譜に収録されている3つのヒット曲のカバー作品の内の1曲、スティーヴィー・ワンダーの曲で、"I Believe (When I Fall In Love...)"でした。アート・ガーファンクルがデュオ時代の名残であるロイ・ハリーを使うのをやめようと決意した時、どんなプロデューサーでも選ぶことが出来たでしょうに、どうしてリチャード・ペリーを選んだのでしょうか?

アート:リチャードが手がけたレコードのいくつかに非常にひかれていたんです。ドラムのバック・ビートに彼特有のドラム・サウンドというのがあって、AMラジオでかかると映えるような・・・そういうドラムの音が好きでした。リチャードのスタイルには、僕のスタイルに非常に良く合う要素があると思いました。リチャードのレコードを聞くと、リチャードのプロデュース・スタイルは、僕のよりも骨太で、写実的で、少ないけれど大きな要素から作られている事がわかります。その点に興味がありました。スタジオでは、新しいものを産み出すパワーを尊重したいと思っていました。「君が思うことを言ってくれ、やってみるから。」と言う役になりたかったのです。ですから、わざと、決定権を譲ってどうなるか見てみたい、と思っていました。

僕は何度か、映画に出たことがあるんだけど、役者はそうやるでしょう。監督に言われたことをやる・・・役者は労働力を提供し、役に特徴を与える。これが僕の求めていたことです。とても満足しています。指示はどれも的確でした。いい具合にアルバムが成長しました。

ステュアート:ロイとはフィフティ・フィフティの関係だったんでしょうね。

アート:そうだね、でも僕、数字にはうるさいんだ。(笑う)・・・ということは、今回は、大体、62対38の関係かな。(笑う) うん、リチャード・ペリーのおかげで、僕は、プロデューサーとミュージシャンの新しい関係というものを見つけました。

先程の曲、"I Believe"にもかなり味のあるストリングを入れてくれましたし。ストリングスはリチャードがロンドンでレコーディングしました。アメリカで、弦楽器用の編曲をすると、ごてごてしがちなんです。一方、特にジョージ・マーティンにかかると、控えめにすることがどんなに効果的か分かります。それでイギリスのストリングスのサウンドやプレイヤーには定評があるわけです。

リチャード:イングランドでのストリングスの作曲は、一般的に、アメリカよりもメロディ・ラインにそったアプローチを取ると思います。だからこそ、ガーファンクルのアルバムのストリングスのためにはロンドンに行かなければならなかったのです。エアー・スタジオとマーキー・スタジオでレコーディングしました。結果には非常に満足でしたし、実際、あれ以来、高い評価をもらってます。デル・ニューマンとリチャード・ユーゾン(?)【Richard Uson、日本語表記が不明】が編曲を担当して、大掛かりで、ごてごてしていて、手が込んでいる、そんなストリングスではなく、とてもシンプルで控えめ、それでいてとてもきれいなストリングスを書いてくれました。僕はいつも、一つの全音符を適切な場所に配置して、きちんと歌うほうが、16個の16分音符よりも効果的だと思っていました。

ステュアート:プロデュースを他の人にしっかりと託してしまうと、アーティーは、ほとんどボーカルだけに集中できたんでしょうね。アルバムのなかで特にお気に入りの曲はあるんでしょうか?うーん、そうですね、どうやら彼はひそかに"Rag Doll"と言う曲がお気に入りみたいですよ。

アート:他の曲よりも、楽にボーカルをのせられた曲と言えます。

スチュアート:報われない恋の歌、ですよね?

アート:ええ、でも歌詞の持つメッセージよりも曲全体の耽美な感じにひかれるんですよ。曲のテイストというか、ボーカルや雰囲気がいいんです。例えば"Scarborough Fair"も、別に何らかのメッセージのある曲じゃなく、歌詞の筋を追うというよりも、メロディーの流れを味わう曲です。この曲を聞く時は、雰囲気や美的な感覚に注目して欲しいですね。この曲が一番自信のある曲です。この曲をかけている時は、とても安心して気持ちよく聞ける、それがこのアルバムでは"Rag Doll"なんです。

リチャード・ペリーはどう思う?

リチャード:これはアーティーが持ってきた曲で、ジミー・ウェッブに教えてもらったそうです。スティーヴ・イートンという名前の男が作曲者なんですが、僕達3人とも会ったことはありません。彼については何も知らなくて、この曲だけ知ってるんですが、二人とも、とてもチャーミングな曲だと思いました。僕はすぐ気に入りましたね。

<"Rag Doll"をかける>

スチュアート(スタジオから):このアルバムでの、アーティーの知られざるお気に入りの曲―もう秘密じゃなくなりましたけどね、"Rag Doll"でした。それでは、このアルバムの全体的な流れ、スタイルがあるんでしょうか?

アート:僕がスタイルです。僕の現在、僕の今興味のあることは、ほとんど個人的なことなのです。シンガーとして、自分自身を解放し、深く掘り下げ、さらしだし、そして、歌詞を歌いこむことによって、僕と言う人間が何者であるかをより深く示そうと努力しています。ある種の形式的な歌唱技術も、歌手としてのテクニックも身に付けてきました。今は、少しずつ自分をさらそうとしています―マイクの前で歌のストーリーを探り、マイクの前で3分45秒間、歌を歌うことによって僕自身を経験したい。自分をより深く、さらけ出すという経験にしたいのです。

自分をさらけ出すにはどうすればよいのか?咳をすればいいのでしょうか?くしゃみをすればいいのでしょうか?僕は、なんとかして、自分の「スイッチ」を切らなければならない、と思います。自分を解き放つ、もしくはより単純に、より「誠実」にならなければならないのです。どんなことでもいいから、歌詞と自分とが強く関連していることを見つけます。見つけたら、とにかく、自然体になります。こういう過程を踏むのは、僕は自分のアルバムを、シンガーのアルバムにしたいからです。アート・ガーファンクルというシンガーがこれらの曲を歌い、どうそれを解釈するか、それが僕のアルバムです。バックの音楽も、以前よりすこし、僕のこの希望を支えてくれるものになりました。ロイとやっていたときは、もっと、レコーディングに重点をおいた、レコード人間でした。今の僕は、それよりも前にシンガーであり、サウンドなのです。

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