真昼の星 5

 

 お父さんもお母さんも大嫌いだ。可奈はおふとんの中でぐずぐずと考えています。お母さんとは話もしたくない。ちゃんと可奈が眠っているかどうか、お母さんが見に来てくれたときも、可奈は起きているのにしらんぷりをしました。まだ早い時間なので、いつもならお話をしたり、本を読んでもらったりするのですけれど。
 お父さんもお母さんも大嫌い。何回目かわからない言葉を可奈はつぶやきました。

  お母さんが可奈を迎えにきてくれたときのことです。こんなお母さんは可奈は見たことがありませんでした。習い事での「三者面談」や、授業参観のときには、お家と違ってまじめそうな顔をお母さんはしています。その顔でこっちがふきだしそうなしゃべり方で話をするのです。でも、今日はそれともまた違うのです。別人みたいとこう言えば一番近いような気がします。
  お母さんは可奈を見ると、さっさとお兄ちゃんにあいさつをして可奈を連れて帰ろうとしました。このときに可奈はお兄ちゃんの苗字が「佐々木」さんということをはじめて知ったのです。「お兄ちゃん」ではない、「佐々木さん」も別人のようでした。可奈に見せた笑顔はどこにいったのでしょう?
  可奈はお兄ちゃんにきちんとあいさつをする時間もなく、お兄ちゃんのアパートから出ることになりました。まだ雨は降り続いています。
「かさ、使ってください」
  お兄ちゃんが言いました。
 お母さんが車を停めているところにたどりつくまでに、二人ともずぶぬれになりそうです。お母さんは可奈を見下ろすと、礼を言ってかさを受け取りました。
「お父さまのところにお返しすればいいですか?」
「使っていないものです。処分してください」
  可奈にはまたよく分かりませんでした。可愛い花模様のかさ。明らかにお兄ちゃんのものではなさそうです。それを勝手に捨ててもいいものなのでしょうか。それにどこに返しに行くというのでしょう。それでも、お母さんと可奈はそのかさの下に二人で入って歩き始めました。可奈もお母さんも一言もしゃべりませんでした。

 その夜、可奈の見た夢の中で、井戸の中の星は色を失い、黒くくすんで見えました。