真昼の星 3

 

 可奈が星のことを教えてくれたお兄ちゃんに初めて会ってから、一ヶ月が過ぎました。
 帰り道に気をつけてはいるのですが、可奈はあのお兄ちゃんにまだ会えないでいました。どこに住んでいるのかも分からないですので、会いに行くこともできません。
 今日もよい天気でした。空を見上げるには絶好の日和です。こんな日には、あのお兄ちゃんにまた会えるような気がしました。
 でも、時間帯が早いせいか、近所のおじさんやおばさんたちもいませんでした。水田を左右に見ながら、可奈はもうすぐ家についてしまうと思います。帰ったら友達のうちに遊びに行こうかな。宿題を一緒にすると言えば、お母さんも許してくれると思うし……。
 可奈はぼんやりと考えていたせいで、車が近づいてきたのに気がつくのが遅くなりました。
 狭い道を歩いていた可奈は出来るだけ右側に寄りました。小さな車ですので、十分に通り過ぎることができるはずです。
 でもその車は、可奈のほうへすうっと寄ってきます。そして、可奈の隣でピタリととまりました。ウインドウが下りて、中から男の人が顔をのぞかせました。お父さんよりも若いけれど、お兄ちゃんよりは年上のようです。
「どうしたんですか。道に迷ったんですか?」
 可奈は先にききました。たまに道を聞かれることがあったのです。
「うん、そうなんだ。市内方面へ抜ける道ってどっちに行けばいいの?」
 可奈の家の周りは、田んぼに囲まれた田舎道が続いています。説明するのはなかなか難しかったのですが、可奈は一生懸命伝えようとしました。でも、やはり伝わらなかったようです。
「途中まで君がいっしょに来てくれるかなあ」
 困っている人を助けられるのはよいことですが、知らない人の車には絶対に乗ってはいけないとお父さんからもお母さんからも言われています。可奈は携帯電話を取り出して、お母さんに道を説明してもらおうと思いました。 学校に行くときには、いつも持たされていたのです。
 ところが、道をきいてきた男の人は慌てた様子で首をふり、「もういいよ」と言って車を運転して行ってしまったのでした。

 可奈が夕ご飯のときに、道をきかれた話をするとお父さんもお母さんもびっくりしたようでした。
 二人とも顔を見合わせて、小声で話しています。しばらくして、お父さんが可奈のほうを向いて言いました。
「可奈が道を教えてあげようと思ったのはいいことだ。でも、周りにだれもいないときに知らない人に話しかけられたら、気をつけなさい。子どもを誘拐しようとする大人だっているからね」
「私が誘拐?」
 可奈は噴出しそうになりました。お父さんが冗談を言うのは、とてもめずらしいのです。
「そして、電話がかかってくるんだ。お宅の娘さんを誘拐した。身代金をよこさないと、命はないぞ!ってね……」
 そんなテレビドラマが最近あったので、可奈はすらすらと思いつきました。
「可奈ちゃん、お父さんは本当に心配して言っているのよ」
 横からお母さんが、真剣な顔で口をはさみました。お父さんの顔を見ても、やはり冗談ではなさそうです。
「最近、このあたりでもあまりよくない感じの人たちが増えているって聞いているわ。昼間も仕事をしないで、ぶらぶらしている人も多いし……やっぱり可奈を迎えに行こうかしら?」
 最後の言葉はお父さんに向けてです。
「昼間明るい間は問題ないだろう。夕方遅くなりそうなときにだけ、迎えに行くといい」
「でも、しばらくは気をつけたほうがいいと思うわ。佐々木さんのところもありますし……」
「そうだな……。昔からちょっと変わっていたな」
 可奈には、まだお父さんたちの話していることがよく分かりませんでした。