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在宅仕事人への道のり編 <2>

■スクールの修了が近づいて・・・

無職であることへの迷いも振り払い、勉強に打ち込む毎日。
当初申し込んでいたエディタースクールの講義は基礎コース・中級コースでほぼ6ヶ月間の課程。上級クラスである実力養成コースというのも準備されているのだが、とりあえず6ヶ月を終えればスクールの「就職相談室」に登録ができ、校正技能検定四級の受験資格ができるのでこれを目標にしようと思っていた。
スクールの夜間コースのクラスメートたちも、みな検定四級受験ということを当面の目標に据えて取り組んでいるようだ。でも…。できれば三級も受けてみたいし、そのためには独学を続けるよりこのまま上級コースも継続して受講すべきなのか? そのためにはさらに学費がかかるし、就職活動も中途半端にしかできなくなる。いったいどうしたら……?
注:校正技能検定三級の受験資格は、四級に合格していることである。

そんなある日、例のテープ起こし関連のML「おこし太郎会」に、同じスクールに通っていた経験をもつ先輩校正者(現在はテープ起こしをされているが)の方からの発言があった。
これは何かの思し召しではないかしら?と勝手に思い込んだ私は、恐る恐るその方にダイレクトメールをお送りしてみた。あつかましくも、「校正技能検定三級に合格するには、エディタースクールの実力養成コースを受講したほうがよいか」とか「校正者として職を得るには、検定三級に受かることがぜひとも必要なのか」とか、藁にもすがる心持ちで質問を投げかけた。
たかが、メーリングリストを通じて数回オフィシャルなメールのやりとりをしただけのその方は、唐突なDMにも親切にもいろいろと教えてくださって、検定試験に向けての心構えまで諭してくださった。今でも本当に感謝しています。<m(__)m>

そういった有難いアドバイスもあって、四級合格を最大の目標に据えて、スクールは中級までを修了したらよしとし、合格したらすぐさま就職相談室への登録をし、実務を経験しながら必要があるようであれば三級受験を目指そう、という中期計画をようやく固めたのだった。

 

■校正技能検定四級を受験

7月半ばになり、スクールの修了日と受験日が近づいてきた。
四級受験に向けて、スクールでは2回の模擬試験が用意されており、もちろんこれを2回とも受けてみた。合格ラインすれすれである。
四級の課題は「縦組原稿6ページの初校校正(90分)」「横組原稿4ページの初校校正(60分)」「縦組原稿(フロッピーディスクで印刷所に入稿されたものと仮定)6ページの初校校正(素読みが中心⇒注/60分)」「学科問題(編集知識の基礎/漢字の読み・書き取り問題/一般知識問題/50分)」である。学科問題を除く3種の実技課題は100点満点として90点以上取ることが合格の目安となるらしいが、横組問題と縦組のFD入稿問題がやや怪しい。試験の制限時間も、1ページあたり15分でこなすというのは私の能力に照らしてみてギリギリの線なのだ。過去に講義でやった問題をすべてもう一度やりなおしてみて、いつも記号を入れ違ったり、つい誤植を見落としたりしている自分の弱点の部分を洗いざらい書き出して体に叩き込む。
学科問題は、漢字の知識が大きくものを言うので、漢字検定二級の問題集を買ってきて電車の中などでも繰り返し解くようにした。
注:素読み=校正刷り(ゲラ)を単独でよく読み、原稿そのものの書き間違い(ワープロの変換ミスなども含む)や表記の不統一、意味の通らない部分などを指摘する作業のこと。
執筆者がワープロ打ちした原稿のデータをそのまま印刷所での出力に利用するFD入稿の場合や再校の校正刷りを校正する場合は、この作業が中心になる。


こうして、運命の受験日がやってきた。
例の先輩のアドバイスもあって、かなり早い時間に会場入り。スクールの教科書や、漢字検定問題集にもう一度目を通してみたりして心を落ち着ける。エディタースクールには全日制課程や通信教育課程もあるし、別の教育機関で学んだり、いきなり実務から入っている現役校正者も多いだろうから、知らない顔の方が断然多い。会場が複数に分かれているから全部で何人受験者がいるのか定かではないが、おそらく300名近くはいたのではないか。そのひとりひとりがこれまでどういう歩みをし、今何を考えているのか……そんなことをふと思ってみたりする。

そうこうするうち、開始時間がやってきて、試験問題が配られた。まずは縦組の問題から。内容的には難しすぎるということはなく、講義内容の復習さえできていれば誰にでもできる問題だったと思う。でも、ひとつだけ心配の種が……。模擬試験などで取り組んでいた過去問題に必ずといってよいほど出ていた、1〜2行にわたる長文の抜けという誤植問題が出てこなかったのだ。出題されなかったのであればいいが、もしや見落としたのか? 試験時間はギリギリでもう詳細に見直す時間もなく、心残りながらそのまま提出した。

次は横組問題だったが、こちらは100%自信があるとは言えずとも、過去の実績に比べればまあまあのできかな?という感触だった。休憩をはさみ、FD入稿問題にうつる。ええ〜っ、なんじゃこりゃあ! 過去問題では出てこなかった、図版が組み込まれているではないか! 校正では原稿に入っているさまざまな指定(文字の大きさ、間隔や、タイトル・図版などの配置など)が印刷所から刷りあがってくる校正刷りにすべてきちんと反映されているかどうかをチェックすることも大切な作業。焦りつつ図版の指定を確認する。こんなんでいいのかしら……。

最後の学科問題はこれまでの勉強の成果あって満足のゆくできだった。ほぼ一日拘束され、細かい文字を額をこすりつけるようにして見つめつづけていたため、首も肩も目もボロボロ状態だった私は、制限時間を10分ほど残して、会場を出て、うだるような蒸し暑さの中、深呼吸をした。
これで、やっと一息つける……

 

■ホームページを立ち上げる…また違う道への模索

校正技能検定の合否発表は、なんと2ヶ月後だという。なんてこった。それでは、就職活動をしようにも箔がつかない。就職相談室への登録もできれば合格後(合格できれば)にしたい。ということで、思いがけず空白の2ヶ月間が訪れたのだった。

前述のML「テープ★おこし太郎会」のメンバーの方々が、次々と個人のwebサイトを開設していた。昨今の在宅ワークブームで、育児などで外には働きに出られない事情のある主婦を狙って(?)、テープ起こしの通信教育講座の宣伝文句で「修了すればお仕事を斡旋します」と謳うものが目につくようになり、実際に講座を修了してもその多くの人がまったく仕事が得られないという状況が蔓延しているという。そのような場合、営業活動の一環として、個人サイトを持つことが必要であると思えた。

私の場合、今のところ校正をメインにしたいのだが、同じような境遇の人でホームページ(HP)を持っている人にはあまりお目にかかったことがない。見つけられないだけの話かもしれないが……。「私も試しにHPを作ってみたいのだけれど」と高校時代からの友人のひとりに話すと、さっそく参考書一式をかかえて家に来てくれ、初心者でもわかるHTMLタグ講座を開いてくれた。

それからはタグとの取っ組み合い。まずは、練習も兼ねてプライベートな内容のサイトを作ってみよう。メモ帳に近いがタグを打ち込むのに適した機能を持つHTMLエディタを使って、参考書片手にいろいろなタグを打ち込んでみて、ブラウザ上で動作を確認。なかなか、思うように表示してくれない。基本的な命令はなんとかクリアしたのだが、プライベートサイトということでかえって思い入れが強くなってきて、デザインに懲りたくなってきた(そんなに大したデザインでもないのだけど……)。それで、CSSスタイルシートJavaScriptにも手を出してみる。とたんにやつらに噛みつかれる(?)始末。

どうにかこうにか全体の構想と、形ができあがってきて、ほっとひと安心。
そんな頃、前述とは違う、もうひとりの高校時代の友人にふとしたことで再会する。彼女は出産で会社勤めを辞めたあと、在宅で入力などの仕事をしているらしいというのは聞いていた。その後DTPデザイナーの仕事を経て、今はweb制作を中心に個人事業主として活動しているという。彼女から、将来的には自分の仕事を手伝わないかと誘いを持ちかけられた。心が揺れ動く。校正者としてもひとり立ちできるかどうか、それに私にはテープ起こしをしたいというもう一つの夢もある。もちろんweb制作も大いに魅力だけれど、まだ自分のサイトひとつも満足に作れていないのが現実……。

彼女の仕事に対する真剣さに背中を押され、励まされるようにして、とりあえずは今作りかけているサイトをなんとか形にしようと決意を新たにした。そして、彼女のアドバイスにより、Netscape Navigatorというブラウザを導入し、今まで作ってきたHPの動作チェックをしてみて愕然とした。表示が崩れてしまって、まともに読むことすらできない。基本的なタグのみで作っている分にはwindows標準のInternet Explorerでも、このNetscapeでもそれほど表示に変わりはないが、スタイルシートを多用したのがまずかったらしい。また、振り出しに戻って作り直すか……。
試しに、彼女が仕事用に使ってほしいという、DreamweaverFireworksの試用版を手に入れて作り直してみる。早い早い! 一ヶ月もかかってこつこつタグ打ちしてきたのがウソのように、たった2日ほどで同じ内容のHPが、しかも上記の二大ブラウザのどちらでもほぼ同様な仕上がりで、目の前に現れたのだった。DreamweaverではHTMLタグレベルで修正した方が早いときもあるので、今まで培ってきたタグの知識もムダにはなっていない。さっそく製品版を購入。

「3歩進んで2歩下がる〜♪」状態だった私の初めてのwebサイトは、こうして2000年10月16日、ようやく公開の運びとなったのだった。

 

■検定合格! …と同時に、初仕事が!!

季節はいつの間にか長かった夏から、ようやく秋へと移り変わろうとしていた。私なりに充実した、楽しいオフの2ヶ月間が過ぎていった。校正技能検定四級の合否発表の日が、いつの間にか近づいていたことも忘れかけていたくらいだ。せっかく勉強したのだからと、試験づいていた私は続いて漢字検定二級にも受験の申し込みをしていた。

四年に一度のオリンピックが開幕し、私もテレビ画面にくぎ付けになっていた。バルセロナ・アトランタと二度の大会で惜しくも金メダルを逃した、ヤワラちゃんこと田村亮子選手を私は他の誰よりも応援していた。非常に不純な話だが、彼女の金メダル奪取に、私の検定合格を密かに願かけしていたのだ。神頼みならぬヤワラちゃん頼み。果たして彼女は会心の投げで、みごと12年越しのメダルを手にしてくれた。

その翌日だった。見覚えのある、手書きの封筒が届いた。
これは、受験当日、受験者全員が書いたものだ。そう、結果郵送のために、自分の住所・氏名を書いた封筒だった。それはつまり……
手が震えるというのはこういう状況をいうのだと思った。なかなか封を切る決心がつかない。明かりに透かして見てみたりして。思い切って開けてみると、「合格」の文字があった。
あんなに大声をあげて喜んだのは久々だった(いや田村選手のメダル以来1日ぶりかも)。これでスタートラインに立てた、それが正直な気持ちだったと思う。

そんな興奮も冷めやらぬうち、次の転機はやってきた。
主人の知人で、出版社に勤めているという方に少し前にコンタクトを取り、履歴書を送ってあった。合格通知を手にした翌日、社に足を運んでほしいとの電話を受けた。面接かもしれないと思い、身を正して翌日その出版社へ。校正に対しての心構えや、その編集部における基本的な決め事の説明を受けたあと、「では、この原稿の引き合わせ(注:原稿と校正刷りを見比べてチェックすること=校正作業の基本)をお願いします」と書類封筒にぎっしりと入った原稿とゲラ(校正刷り)を渡されたのだ。えっ?! いきなり仕事ですか? これが初仕事?!

実は、別の知り合いの方がいろいろと根回ししてくれていたのだが、こうして本人の心配をよそに、あっという間に校正者のタマゴとしての第一歩を踏み出すことになったのだった。その後、無事に漢字検定二級にも合格し、おかげさまでその出版社から、継続してお仕事をいただけるようになった。

 

【作業環境整備編】につづく…

 

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