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在宅仕事人への道のり編 <1>

■一生の仕事がしたい・・・

社員として働いていた日々。そこそこの実入りがあって、好きなこともできて、経済的には申し分ない状況だけれど、何か、一生関われるような仕事がしたい。できれば、好きな本やことばに関係のある仕事。職人技を駆使するような仕事……。そして、自分のライフスタイルに合わせて、自宅を仕事場に業務に取り組む「在宅ワーカー」への憧れ。
そのときはすでに30代半ばに突入し、後がない状態。今までの職歴は直接やりたい仕事と結びつく内容ではなかったし、この歳になれば再就職は厳しく、実務経験の有無が大きくものをいうこともわかっていた。始めるなら今しかない。今を逃したら一生後悔することになるのではないか……。
その焦りが、長年続けた会社勤めをきっぱりと辞め、新しい世界へと足を踏み入れる原動力となっていった。

 

■何を始めればいい?

実は、最初はいろいろな方面に興味を持った。会社員時代にいちばん楽しかった覚えのあるDTPの仕事がしたい。そう思って情報収集を始めたけれど、考えていたより大変であることがだんだんわかってくる。まず、マシンはMacintoshが必要。しかも最高スペックのもの。もちろん最近はWindowsDTPも増えてきているとは聞くけれど、各種参考書やDTPスクールで扱っているのはほぼ例外なくMacであった。OL時代にしばらくの間、Macをマイマシンとしていた経験はあるけれど、ビジネスソフトしか扱ったことがない。まあ操作については慣れで補えるけれど、初期投資に莫大な費用を掛けたとして、いったいそれをいつ回収できるのか、考えただけで非現実的な構想であることがわかった。しかも、Macを扱えるというだけでもてはやされていたのは少し前の話、今やDTP業界にも翳りが見えてきているという話も耳にした。

次に考えていたのが、文章校正テープ起こしだった。
テープ起こしという仕事があることはすこし前に知ったばかりだった。これも会社勤めのとき、社内の開発部門・営業部門の代表者が一堂に会する戦略会議などの運営に携わっていた頃、議事録の作成のためにその場で自分で録音したテープを後から起こすという作業を毎月行っていたため、「自分にもできるのではないか…?」という思いがあった。折りしも、主人の取引先でテープを文章化してくれる人材を探していたという話を聞いたばかりだった(残念ながら、その仕事を受注することはできなかったが)。
校正については、以前から知ってはいたが、よく雑誌などで「赤ペン一本で貴女も副収入を!」などと謳われていて、いかにも奥様の内職的なイメージがあった。 ところがものの本で、とても片手間にはできない、高度な技術と適性・探究心を要求される頭脳労働であるということがわかってきた(これはテープ起こしの仕事にもいえることだった)。その本にも「目が見える限り一生できる仕事」「好きな本を山ほど読める、しかも世に出る前の本を読者より先に読むことができる」などと、おいしそうな事柄が並べてあった。でも、果たして私にこの仕事をこなす適性と探究心があるのだろうか? 疑問と不安は消えなかったが、ともかくもこの仕事をやってみたいという気持ちが打ち勝った。

かくして、校正とテープ起こしのどちらかの勉強をはじめるべく、資料集めが始まった。
通信教育も各種揃っていたが、自分の性格上、通信で計画的に勉強を進めることは困難なように思われたため、できれば通学で学べるところを探した。
校正については、2校が候補に上がったが、いろいろと比較検討した結果、課程修了後に就職相談ができ、全国で唯一の校正資格である「校正技能検定」を実施している「日本エディタースクール」に通うことを決意した。
この「校正技能検定」というのは、たぶん後にも述べることになると思うが、校正者を目指すものにとっては自分のレベルをクライアントにアピールできる唯一の基準となっていて、四級・三級がある。国家資格などとは違い、これがないと絶対にこの仕事に就けないというものでもないが、歴史があるため出版業界では知名度が高い資格で「実務経験3年以上、あるいは校正検定三級所持のこと」などと採用の条件に加えているところもあるくらいだ。
四級の試験を受けるためには、エディタースクールで所定の課程を修了するか、他の教育機関で校正の実技訓練を修了すること、あるいは実務経験者となっていた。これならエディタースクールで学ぶのが最も近道だ。

校正はスクールに通いながら学び、余裕が出てきたらテープ起こしの勉強も始めよう、そんな安易な気持ちでスタートした在宅ワーカーへの道であった。

 

■スクールに通いながら、情報収集を続ける

こうして晴れて日本エディタースクールの門を叩き、学生の身分に戻った私だった。週2回、夜間部に通う日々。同じ校正コースのクラスの受講生は、出版社・編集プロダクション・印刷会社など、どうやらこの業界で働く人が多いようであった。私などずぶの素人、しかも今はタダの主婦……。でも、講義が始まればほぼ全員同じこころざし(検定合格)を持つ仲間だ。出版業界の基礎知識から縦組・横組書籍の校正実技まで手取り足取り教えてもらう。毎回新しいことの連続で、ノートを取ったり、課題をこなしたりするのが楽しかった。

とはいえ、やはり課程が進めば、宿題は増えるし、内容は高度になっていく。始める前に「慣れてきたらテープ起こしの勉強も」などと軽く考えていた自分の甘さを思い知る。このまま終わるのも悔しいので、インターネットでテープ起こし関連のサイトを検索しまくり、最終的におこし太郎さんが主宰する「テープ★おこし太郎会」というメーリングリスト(以下ML)を知って入会することになった。ここでテープ起こしのキャリアをすでにスタートされている方や、私と同じようにこの仕事に憧れている方、通信講座受講中の方など、たくさんの方々の話を聞くことによって、テープ起こし業界の実態(魅力・落とし穴などなど……)を知ることができた。メンバーの発言を聞いたり、HPを訪れたりすることは、業界の実態を知るためのみならず、日本語の言い回しについての是非や、仕事に取り組む姿勢など、日々新鮮な刺激を与えてくれている。
このような調子で、情報収集をしつつ、少しずつ在宅ワーカーとしての今後の方向性を修正していったのであった。

 

■仕事をしなければ・・・という焦り

今は充電期間、と割り切っていたつもりだった。こういう時期も必要だとはわかっていたが、なにせ定収入があることに慣れきっていた私である。やはり、いつまでも無収入であることに対しての負い目は付きまとった。いつしか、不眠の日々が続くようになっていた。

そこで、またもやネット上で検索しまくり、いくつかの在宅ワーカー登録会社に登録してみた。そのような会社が主催する勉強会に出席してみたり、オンライン研修を受けてみたりもした。しかし、仕事の依頼は一向に来ない。やはり、経験がなくてはだめということなのか。また落ち込んだ。
そんなとき、とある登録会社から一本の電話が。「名刺データの入力なんですが、できますか?」。願ってもないチャンス。おそるおそる内容を聞くと、超・短納期で莫大な量のデータを入力しなくてはならないということだった(少なくとも、そのときの私にはそう思えた)。しかも折悪しく、その週末には親類の告別式があり、フルに仕事に充てることができる時間はいつもより少なかった。
泣く泣く断るハメに。「なぜ、こういうときに限って?!」と悔しい思いで一杯になった。案の定、それ以来その会社からの仕事は二度と来なかった。

しばらく落ち込んでいたのだが、あるときふいにこういう考えが浮かんできた。
「無理して受けていたらどうなっていたの? スクールの課題もいい加減にしかできないし、もしも運良くその会社からリピートで仕事をもらえるようになったとしても、スクールとの両立でまた悩むことになったんじゃない? 本当にやりたかったことはなんだったのか」と。
やはり、今はその時期じゃない。もう迷いはなくなった。とにかく目前の課題をこなし、まずは検定合格の目標に向かって進もう、そう心を決めたのだった。

 

まだまだ続くのでした・・・

 

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