問題無い・補足編 アスカ 降臨
 
 



第W章 − 驕高鰐






「お帰りなさいませ」

「ただいま。ペネム」

 帰ってこられたお嬢様は、怒りを抑えながら外出された時とは比較にならない程平静、

 と言うよりもむしろ嬉しそうな様子で、私は多少違和感を感じ取ってしまいました。

 ベーゼ様とのお話し合いの中で、何か気の晴れる話題でも出たのでしょうか?

 気にかかった私が、率直にその事について質問致しますと、

 お嬢様は実にあっさりと、話しの内容をこの私めに打ち明けてくれるのでした。
 
 

「珍しいわね、アンタがアタシを呼び出すなんて。いったい何の用事?」

「察しの良い君の事だ、薄々感づいているんだろ?」

「まあね! で、どこで見つかったの?」

「話しが早くて助かるよ。リリスは人間界に居るそうだ」
 
 

 魔界随一の名門貴族であるお嬢様を呼び出す事が出来るベーゼ様。

 彼もまた4人のサタンの中の1人であり、リリス様のである魔界bPのあの方についで、

 この世界におけるbQの座に君臨しており、ライナーサタン(第2の魔王)と呼ばれております。

 尤も実際の所bPは、魔界を治むるという事に関して全く役にたっておらず、

 bQにあたるベーゼ様がかなりの部分を負担する事となっているのです。

 そのため、表向きはあのお方が魔界のbPなのですが、

 魔界の中枢・万魔殿の内部においては、bQであるベーゼ様に全く頭が上がらない状態なのです。
 
 

「で? もったいぶってないで続けなさいよ、まだ先があるんでしょう」

「・・さすがだな! リリスだけじゃなく君の旦那も今、人間界に居る事が確認されたんだ。
 しかも 「魔」 としてではなく、人間転生して」

「やっぱりね! そんな事だと思ったわ」

「そこで提案があるんだが・・・
 彼が居なくなった途端に魔界が騒がしくなったのは君も知っているだろう?」

「レヴィアね!?」

「そうだ! 魔界広しといえどアイツを抑え込む事が出来るのは君の旦那しか居ない。
 従ってアイツも人間界に行かせようと思うんだが・・・ どうだろう?」
 
 

 魔界のbS、スクエアサタン(第4の魔王)たるレヴィア様は、

 4人のサタン達の中でも最大の攻撃力と破壊力を有しており、その凄まじさは、

「まともに正面から闘って勝てる者は存在しない」

 と、bRたるお嬢様の旦那様に言わしめる程なのです。

 ただ、その凄まじい迄の力を本人はどうにも持て余しおりまして、

 恐らく悪意は無いものと思われるのですが、いつも魔界内部において暴れまくっているのです。

 本当であればこのような場合、bPが諫めにかかるのが当然なのでしょうが、

 前述にも有ります通り、あのお方はこういった事に関して全くの役立たずでして、

 1番最初にレヴィア様が暴れて、それを制止にかかった際には逆にやられてしまったくらいなのです。

 となると次はbQたるベーゼ様の出番、となる筈だったのですが、

 位的にはbQであっても、実質的に魔界を治めているベーゼ様に迄万一の事があっては大変と、

 bRで、遊び人と目されていた旦那様にそのお鉢が廻ってくる事になったのです。

 周囲の者はそれ程期待をする事もなく、2人の動きを見守っていたのですが、

 大方の予想に反し、旦那様はレヴィア様にストップを掛ける事に成功したのです。
 

 魔界のbPをもあっさり退けたレヴィア様に、旦那様はどうやってストップを掛けたのでしょうか?

 その秘密を解く鍵は旦那様の前述の言葉の中に隠されているのです。

 ”正面から闘って勝てる者が居ない”程レヴィア様は強力なのですが、

 その反面、様々な駆け引きを要したり、サイドを突かれるような闘いは苦手だったのです。

 旦那様はそういった、”奸智”あるいは”権謀”と呼ばれるようなものに長けていたため、

 見事! レヴィア様を抑え込む事に成功したのですが、

 以来、その役割はずうっと旦那様が負わされる事となったのでした。
 
 

「ちょっと待ちなさいよ! 抑え役が居なくなったからって、まるで追放するような形を取るなんて、
 いくらなんでも大げさすぎるんじゃないの?」

「確かにそうかもしれん。しかしリリスが居なくなり、お宅の旦那も居ないという状況において、
 この上レヴィアに暴れられたんじゃあ、魔界の秩序はあっという間に崩壊してしまう」

「ったく。情けないわね〜、元はと言えばあのスカ王がしっかりしていないのが原因じゃないの。
 魔界のbPが女房に逃げられるなんて笑い話にもならないわ」

「おいおい、いくら何でもそれはあんまりだぞ、”仮”にも”一応”彼が魔界のbPなんだから」

「”仮”にも”一応” ね!」
 
 

 あきれた口調であのお方の事を揶揄されるお嬢様。

 bPのふがいなさをわざわざ念押しするようなその言葉に対し、

 ベーゼ様は苦笑いを浮かべてそれをやり過ごす事しか出来ません。

 まあ確かにそう言われても仕方の無い状態な訳でして、

 不遜ではあるのですが、実際の所私自身も何故あのお方が魔界のbPでいられるのか?

 今もって理解に苦しんでいるのですが、生き馬、どころかペガサスの目すら貫くこの魔界において、

 他の3人のサタン達からしっかりと認められている所をみると、

 やはりそれなりに凄いお方ではいらっしゃるのでしょう。
 
 

「そう言うな、それが奴らしいと言えばらしいんだから・・・
 とにかく、魔界の秩序を保つためにはレヴィアをこのままここに置いておく訳にいかないんだ」

「確かにその通りなのかもしれないけど、だからってレヴィアを犠牲にする事は無いでしょう!
 元々はあのスカが原因なんだから、今度は死ぬ気でレヴィアを抑えさせないよ」

「それは・・・ 無理だ・・」

「どうしてよ? アンタさっき言ったでしょう、アイツがbPだって! だったら・」

「アイツは嫁さんに逃げられたショックで寝込んじまった」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 
 

 開いた口が塞がらない。といった感じのお嬢様。

 どこの世界に女房に逃げられたからといって寝込んでしまう魔王がいるのでしょうか。

 いや、でも、しかし、あのお方ならば仕方無いのかもしれません。

 あのお方は天界におった時分から純粋すぎる程純粋で、

 魔界に降りてきてからも、デモン達と情を交わす事が出来ず、

 本来旦那様が自分のために連れてきたリリス様を、たまたまあのお方に引き合わせた所、

 人間である彼女に、魔王であるあの方の方が虜となってしまった位なのです。

 そんなあの方と、全く対極の位置にいるのが旦那さまなのですが、

 そこら辺の事はまたこの次の章にて語らせて貰う事と致しましょう。

 それでは、ページを捲って下さい。
 
 

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