それではいよいよ、リリス様が生を受けた後の事について記して行く事として、
話しを本題の方に戻させて頂く事に致します。
前章で述べた通り、アダムとリリス様の2人の間に生じていたギャップは、
人間としての本質に関わるものだけに、どうしても埋めきる事が出来なかったのです。
譬え・・・ アダムがどんなに必死な努力をしたとしても・・・・・
そして・・・ リリス様がとてつもなく寛容な心を持っていたとしても・・・・・
土台、不完全な存在であるアダムは、
完全な存在であるリリス様を、
満足させられる事など有り得ない訳ですので、
人間界におけるいわゆる、性格の不一致という事で、
ついには破局の時を迎えてしまう事になるのです。
現代ならば、2人はこの後それぞれの道に別れて進んでいくのでしょうが、
エデンという限定された世界が全てであった彼らにはそうした道を選択する事は出来ません。
特にアダムの方は完全なリリス様にすっかり満足しきっており、
到底2人が”別れる”という事など欠片も考えておりませんでした。
それに比べてリリス様は不完全なアダムに対して不満だらけであり、
何とかこの世界より逃れ出て、新しい世界へと旅立つ事を夢見ていたのですが、
”完全”とは言え、人の身である彼女の力ではそれがかなう筈も有りません。
所詮夢は夢、半ば諦めかけていたリリス様だったのですが、
ある日突然、そんな彼女に救いの手が差し伸べられる事となりました。
いったい誰が? 彼女をエデンという名の牢獄から救い出したというのでしょうか?
エデンという場所において、女性をたぶらかす存在と言えば、
それはもう”蛇”というふうに相場は決まっているのですが・・・ ここでちょっと考えてみてください。
知能も殆ど無い、単なる冷血動物のあの生き物に果たしてそんな事が可能なのでしょうか?
勿論! 不可能に決まっていますよね。
ではリリスと、そして後にアダムより生まれしエヴァも目にしたという蛇は、
単なる彼女達の錯覚だったのでしょうか?
いいえ、彼女達に新たなる道を開いた蛇は確かに存在したのです。
但し、その蛇は”普通の蛇”とは全く異なり、
背中にはまばゆいばかりに光り輝く、6対の羽根がついていたのです。
この6対の羽根を持った蛇の事につきましては、また後ほどお話しさせて頂く事として、
リリス様のその後にお話を戻させて貰いますと、エデンよりその蛇に導かれた彼女は、
この魔界へと到達し、以降この地において暮らしていく事となるのです。
そしてリリス様は、それ程時を置く事もなく、この魔界を統べる4人のサタンの中でも、
bPの位置に座している男に見そめられ、その正妻いや正妃として、
「全てのデモン達の母」 と呼ばれるようになるのですが、この事は結構有名な話しですので、
皆さんの中でも知っていらっしゃる方も多いのではないかと思います。
サタンの妻が”人間”だというのも何やら奇妙な感じはするものでございますが、
ともかく彼女は、これによってこの世界における自分のレーゾンデートルを、
確固たるものにする事が出来るのですが、やはり魔界におけるただ1人の人間という存在は、
どうしても周りに奇異の視線を抱かせる事となり、彼女を孤独へと追いやってしまうのです。
しかしリリス様の孤独は、彼女の存在と境遇に気づいた1人の 「魔」 が、
手を差し伸べる事によって癒される事となるのです。
果たしてその手を差し伸べた「魔」とはいったい誰なのか?
疑問を呈する迄も無く、もう皆さんおわかりですよね!
そう、その 「魔」 こそが恐怖公こと、お嬢様であったのです。
自らも孤独な存在であったお嬢様は、やはり同じように孤独の身であったリリス様に、
次第に親近感を抱くようになっていたのでしょう。
程なくしてお嬢様の方からリリス様に対して、ごく自然に声がかけられる事となったのです。
爾来2人は、まあ時には反発したりするような事もありましたが、大概の場合は仲が良く、
今日迄互いの存在を認め合ってきたのです。
ところが今回、リリス様が失踪なされた事によってその関係が破綻しかかっているのです。
まあリリス様が居ない訳ですから、破綻しかかっていると言うよりは、
とっくに破綻してしまっていると言ってしまった方が良いのかもしれませんが、
お互いにサタンを夫として持つ身として、孤独を抱える者同士として、
何かとリリス様の事を気にしていたお嬢様としては、
自分に一言の相談も無くリリス様が居なくなった事で、
その心中がどれ程激しく揺れ動いたのか、察するに余りある物があると思います。
殊に口さがない下々の者達の中には、
リリス様の失踪からそれ程時を経ずして旦那様も居なくなった事から、
「2人が駆け落ちした」 などという事を言い出す者迄も現れる始末で、
さぞお嬢様としても悔しい思いを味わっている事と思いますが、
悲しいかなこれ迄の旦那様の行動を知る者達からすれば、全然不自然な出来事では無い・・・
いや、逆にそうある事の方がごく当たり前のような気がしてしょうがないのです。
カラン♪
おや! そうこうしているうちにどうやらお嬢様がお戻りになられた様子ですね。
では、私はちょっとお出迎えに行ってまいりますので、
この章につきましても、この辺りで区切りを入れさせて貰う事にしたいと思います。
『こんな中途半端な状態では我慢出来ない』 と思われるかもしれませんが、
詳細につきましては、またこの後のページで語らせて頂きます。
それでは、ページを捲って下さい。