問題無い・補足編 アスカ 降臨
 
 



第U章 − 死閻魔






 さて、『あの女性』 の名前ですが、もう皆さんも良くご存じの通り、リリス様です。
 

 本来人間であるリリス様の場合、人間界で生活していくのがごく当たり前の事で、

 この魔界に居るという事の方がイレギュラーな出来事であり、

 それを裏付けるかのように、魔界において彼女以外の人間の姿を見る事はまずあり得ません。

 時折自分の行方を見失った人間がこの世界に彷徨いこむ事もあるのですが、

 それらはいずれ、「魔」 に侵されて己の姿をも変化させて行ってしまいますし、

 自らがそうなる事を望んだ者達については、更に数倍早く、数倍強い 「魔」 へと昇華するのです。

 では何故、彼女にはそういった変化が起こらないのでしょうか?
 

 理由は簡単です。

 それは、最初の人間アダムは、人間として不完全な存在であったために、

 彼の子孫たる今の人類全ても、不完全な存在であるからなのです。

 いわば全ての人間は、今だ進化の途中に有る訳でして、

 そういった者達が魔界へと入り込む事によって、「魔」 の者へと”完全”な変体を遂げるのです。

 それに対して、2番目の人間たるリリスもう既に完全な存在であったため、

 それ以上の変化を起こしようが無かったのです。

 従って、この2人の間にはどうしても埋める事の出来ない大きくて深い亀裂が、

 最初から存在していたと言えるでしょう。
 

 遥か古(いにしえ)の昔、神は最初の人間としてアダムをこの世に送り出して程なくして後、

 彼が1人で居る事に哀れみを覚え、続くようにリリス様を生み出されたのだ。

 と、私は長い間思っていたのですが、

 それならば何故、神は前述のように2人の間に格差を設けるような処置を行ったのでしょうか?

 最初にアダムを生み出した後で、その存在が不完全な者であった事に気づき、

 リリス様を生み出される際にそれを修正したという事なのでしょうか?

 しかし、もしこの考えが合っていたとして、その場合アダムとリリス様の2人の関係が、

 いとも簡単に崩壊するのは、私のような者でも容易く予想出来る事で、

 その可能性はかなり低いと言えるでしょう。

 むしろこの場合は、アダムが不完全であるという事で、リリス様も彼とバランスを取って、

 不完全な状態とした方が、パートナーとして良い関係を育んで行けたものと推察されるですが、

 現実の2人は皆さんが良くご存じのような状態となってしまった訳です。
 

 それにしても解せないのは、何故アダムは不完全な状態として生を受けたのか? という事です。

 アダムとリリス様との関係もそうですが、およそ神らしからぬミスで有り、

 到底理解しかねる出来事であった事から私は、

『恐らく神には最初から何らかの意図が有って、アダムとリリス様の間に格差を施したのだ』

 と、この事についても長い間そう思って、いや、そう思う事で自分を納得させようとしておりました。

 その考えが覆されたのは、かつての玉座に最も近い位置に座していた旦那様から、

 人類(正確にはアダムですが)誕生にまつわる衝撃の秘話を聞かされたからなのです。
 

 ・・・・この事を当の人間である皆さんに話して良いものかどうか?

 最後迄悩んだ私ですが、逆にアダムの子孫たるあなた方全ての人々には、

 真実を知る権利が有ると思いましたので、お話しする事に致しましょう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 実は最初の人間アダムは神によってでは無く、

”死の天使”、『アズライール』 よって生み出されたのです。

 とは申しましても、突然こんな話しをされた皆さんも面食らっている事でしょうから、

 そこら辺の経緯につきまして、もう少し詳しく説明させて頂きます。
 

 神は初めの人間アダムを生み出す際、己自らの手では無く、ミカエル・ガブリエル・イスラフェル、

 そしてアズライールの4人の天使達にその任を命じたのです。

 ところが最初の3人は悉く失敗してしまい、唯一アズライール1人だけが、

”人間” アダムを生み出す事に成功するのです。 

 何故最初の3人は失敗し、アズライールだけが成功したのでしょうか?

 それは、”死の天使”たる彼だけが、”魂”と”肉体”とを分離する術を知っていたからなのです。

 しかし、残念な事に天使より生み出されたアダムは、人間としては不完全な存在でした。

 その事によって失望を覚えたのかどうか、全能なる神の考えは、

 私などでは図り知る事は出来ませんが、ともかく神は2人目の人間たるリリス様を、

 今度は自分の手で生み出す事とし、実に簡単にそれをやってのけるのですが、

 神により生を得た彼女は、当然の如く完全な存在であったのです。
 
 
 
 
 

 ええ・・・・・・・・・・・・・              皆さん大丈夫でしょうか?

 さぞや驚かれた事とは思いますが、これが純然たる事実であり、

 もう少しだけそこら辺の事につきましても、語らせて貰う事に致しましょう。
 

 アズライールは”死の天使”と呼ばれている訳ですが、彼は同時に”生の天使”でもあるのです。

 彼の手元にある分厚い書物、わかりやすい表現で言えば”閻魔帳”では、

 新しい命が灯されるとその名が書き込まれ、逆に燃え尽きるとその名が抹消される。

 という作業が今も続いているのですが、

 もし最初の人間アダムが、神によって生み出された完全な存在であったならば、

 アズライールの閻魔帳には、アダムただ1人だけがその名を永遠に刻み込む事となり、

 それ以外の人間の名が記される事は無く、天使としての彼の役目も無くなってしまっていたでしょう。

 その意味でアダムは不完全なる存在である事が正解であり、彼にとって本来対となる存在・・・

 いや、追い求めるべき存在としてリリスは完全なる存在である必要があったのです。

 しかしこれ迄何度も述べてきた通り、リリスはアダムにとって結局は手の届かない存在であり、

 この2人の関係は、その後急速に破局への道を転がり始めるのですが、

 その辺の経緯につきましてはまたこの次のページで語らせて貰う事として、

 この章もここら辺で区切りを入れる事に致しましょう。

 それではまた、ページを捲って下さい。
 
 



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