薄暗い映画館の中。 人の入りは良くほぼ満席の場内は、アクション映画に夢中になっている若いカップルが多かった。 人から見たら充分俺達もその範疇だよなぁ。 新一は一度見た事の有る映画を真剣には見ていなかった。 蘭に連れられて並んだ映画は先週何の偶然か服部と見た映画と同じだった。 甘いマスクの男優が恋人であるヒロインを助け出すべく敵の本拠地に乗り込むのだが、敵の女幹部に惚れられたり、親友が裏切ったり、上司が殺されたりとお涙頂戴シーンが多すぎるのがちょっと気に入らなかった。 しかも、舞台は後半部分は不気味な仕掛けが満載の敵の秘密アジト。 ちょっぴりホラーチックな演出がされていてそれがまた中途半端で頂けない。 新一的にはこの映画は余り面白くなかったのだが、蘭が見たいというならしょうがない。 当の蘭は涙脆い彼女らしくハンカチを片手にぽろぽろと泣いている。 ちらちらと盗み見ては、その泣き顔を目に焼き付ける。 映画に出て来るヒロインなんかよりもよっぽど可愛くて魅力的だよなぁと思ってしまう。 気がつけばスクリーンにちっとも目を向けていない事に気がついて、慌てて左右を確認してしまった。 誰も見てないよな? 映画そっちのけで隣の彼女に見惚れる男の図はかなり恥ずかしい物がある・・・ 「きゃ!」 突然バネの様に体を跳ねさせて蘭がぎゅうっと肘掛を掴んだ。 画面に目をやると問題のエセホラーちっくな演出が繰り広げられているシーン。 まさかこんな所で出会うとは思っていなかっただろう蘭が身を縮ませて人一倍恐がっている。 なんでこんなのが恐いのか新一には毛程も理解できなかったが、指先が白くなる程力一杯肘掛を掴んで恐怖に耐えている蘭を見るのは忍びなかった。 しょうがないから手を目の前に出してやる。 蘭がこちらを窺がう様に見る。 その瞳には涙が滲んでいて暗闇のなかきらきらと光っていた。 「ほら、恐いんだろ?掴まって良いぞ。」 「でも・・・」 蘭は戸惑って周りをちらちらと見ている。 「どうせ暗いから見えやしねーよ。」 周りの映画に夢中になっている人間を考慮して囁くほどの小さな声でからかうように言うと蘭が押し黙ってしまった。 恐いくせに意地っ張りだから素直にうんってなかなか言わね―んだよな。 しょうがない。 ここは俺が折れてやるかな? 「ほら『蘭ねーちゃん』?」 吃驚してまん丸になった黒目がちな瞳が思ってた以上に心臓を直撃してちょっと困ったが、蘭は俺の思惑通りに苦笑しながら俺の手を掴んだ。 そのまま力を入れてきゅっと握ってやると安心したような吐息が漏れる。 蘭はスタッフロールが流れるまで新一の手を握っていた。 離すタイミングを掴み損ねていた為だが、場内が明るくなりだして慌てて振りほどいたのには、新一が少し傷ついたような顔をした。 気持ちは分かるけど、それはないだろう?! 拗ねた新一に誤魔化し笑いを浮かべつつ席を立つ蘭。 ちょっと考える素振りを見せると新一の耳に口を寄せて早口で囁いた。 「『弟』も結構頼りになるね?」 ひねくれたお礼の言葉に、新一の機嫌がたちどころに直ったのは言うまでもない。 |