「・・・どうしよう・・・」 青子は夢見るような瞳で呟いた。 一瞬でも目を逸らすのが勿体無くて、瞬きすら出来なかった。 普段の快斗と全然違う。 その仕種も物腰も雰囲気さえも・・・ 知らない一面を垣間見る事が出来て何だかとても得をした気分になる。 ますます快斗にのめり込む自分を幸福に感じながら、当分夢に見そうなその姿をしっかりと心に刻み込んだ。 「しんいち・・・」 蘭は知らぬ間にきつく握り締めた指先が甘く痺れていくのを遠くで感じながら目の前の幼馴染から目が離せなかった。 圧倒的な存在感とストイックなその姿が、新一の奥深さを物語っていた。 普段着る事の無い純白のスーツを嫌みなく着こなし軽やかに宙を舞うその姿に心がぐらぐら揺れる。 熱に浮かされたように新一に溺れていく自分をはっきりと自覚して蘭は幸せそうに微笑んだ。 「なに二人して落ち込んでるの?」 不思議そうな顔をして江神は床の上にしゃがみこんだ即席役者二人を見下ろした。 のろのろと顔を上げて快斗が力無く笑った。 「あまりにも、息が合い過ぎてて嫌だ・・・」 顔を腕の中に伏せたまま新一も呻く。 「なんで打合せ無しでああも上手く行っちまうんだよ。」 「なんかスタント使うよりも迫力のアクションシーン撮れたってカメラさんも監督さんも大喜びだったけど。 あれ、打合せ無しでやったの?」 驚愕の中にも、何処か呆れた口調の漂う江神の声が二人を奈落の底へ突き落とす。 二人はアクションシーンについては「適当にやろう」と言い交わしただけだった。 それが、何故ああもテンポ良く息も付かせぬベテランスタントマン顔負けの超一流映画並みのシーンが出来上がってしまうのだ?! それはすなわち――― 「君たち阿吽の呼吸のベストコンビじゃない。」 二人が薄々と感じながらも全力を持って否定してきた事柄をあっさりと江神は口にする。 二人を取り巻く空気が1〜2℃下がったかのような冷たい沈黙が流れた。 「・・・工藤。おまえ本気で蹴り入れただろ?」 「それはこっちの台詞だ。手加減無しで投げやがって。怪我でもしたらどうすんだっ!」 「へーっ!手加減して欲しかったんだ?」 「冗談じゃねーよっ!」 「・・・ったく、工藤探偵は体術も得意と来たか。今まで隠してやがったな。」 「警察と行動共にしてる探偵が体術なんか披露する機会がある訳ねーだろ?危ねー事は率先して刑事が突っ込んでっちまうし。 オメーこそ妙に実戦慣れした体術じゃねーか。」 真実を知っているからこその嫌みな物言いに快斗は江神を気にしてごにょごにょと口篭もる。 新一はこんな所での言い合いにウンザリして重い腰をようやく上げた。 「ここで不毛な事言い争ってても時間の無駄だ。行こうぜ。」 「そうだな。あいつら待ってるし・・・」 ドアへと向かった二人に背後から江神の楽しそうな声。 「ねぇ?見学に来てた美少女二人は君たちの彼女?」 「「違います!」」 否定する声は見事に息が合っていた。 頬を微かに染める所まで。 後日放映されたそのドラマを彼らが幼馴染みと見たかどうかはまた別の話・・・ |