「ちょっと待ってよ!快斗!」 昇降口で靴を履きかけていた快斗は、階段を危なっかしく駆け降りてくる幼馴染の姿を認めるとその場でその到着を待った。 「ね、ね、快斗がドラマに出るって本当?!」 快斗の目の前に立って閉口一番青子は快斗にそう言って詰め寄った。 思わず天井を睨みつけて誰だか知らないお喋りに呪いの言葉を吐く。 せめてもうちょっと内緒にしてたかったのに! 「快斗ってば!黙ってないで教えてよ〜。」 青子に肩を掴まれゆさゆさと揺らされて快斗は誤魔化すのを諦めた。 「・・・そうだよ。」 青子は頬に手を当てて「嘘ーっっ!!」と叫ぶ。 快斗は青子を置き去りに校門にすたすたと歩き出し、青子はその横に小走りで並んだ。 「どんなドラマなの?快斗なんて間抜けな人を出演させよーなんてするのは?」 「うるせーな。何だっていいだろ?!」 「えー、良くないよ。やっぱり幼馴染として知っておきたいもん。」 「なんだ、その理屈は・・・」 「もしかして凄く変なドラマなの?ゾンピが出てくるとか怪しげな変態が出てくるとか?」 快斗は発想力貧困な幼馴染をじろりと睨んだ。 「そんなドラマにこの快斗様が出る訳ねーだろがっ!」 「じゃあどんなの?」 「言いたくねー。」 「なんで?」 無邪気な顔で小首を傾げる青子にどこまで抵抗出来るか、快斗は自分に自信が無かった。 「・・・ねえ、やっぱり青子に言えないような役なんでしょ?」 疑わしそうな目で見られて快斗は冷や汗をかいた。 決して言えないような役ではないのだが、言ったら絶対何か言われる事は火を見るより明らかなのだ。 快斗とて諸手を挙げてこのドラマ出演に承諾した訳ではない。 たまたま父の古い友人で母子家庭となった黒羽親子を全面的に手助けしてくれた大恩人がテレビ制作の人間で、是非にと頭を下げられ断りきれなかった末の出演なのだ。 しかし実際の脚本を手渡された時は心底後悔したものを今は無理づくで納得したというのに、こいつは平気で人の傷口抉りやがるし・・・ 「快斗ってばっ!」 いつのまにか青子が詰問するかのような口調になっていて、快斗はとうとう白状する事となる。 ・・・言いたくなかったっ・・・! 「なんか・・・探偵役・・・」 「は?探偵?」 青子は開いた口が塞がらないといったぽけっとした顔でつい立ち止まって快斗をまじまじと見詰めた。 そして快斗が恐れていた台詞を零す。 「それって工藤君みたいな?」 「・・・そうだよっ!なんか奴をモデルにしたドラマなんだとよっ!」 不機嫌極まりない声で快斗が答える。 何が悲しゅうて天下の怪盗キッド様があの生意気な高校生探偵の役なんかやんなきゃならんのだっ! 自分で決めた事なのにやっぱりムカついて快斗は心中毒を吐きまくる。 そんな快斗の気持ちなどお構い無しに青子は工藤新一を誉め出した。 「うそーっ!工藤君がモデルなんだーっ!最近すっごく人気あるもんね。 だって格好良いし頭も良いし、この前の事件では犯人をあっさりやっつけちゃったもんね♪」 「俺だってあれくらい出来るぞ。」 自分が惚れている女が他の男を手放しで誉めるの程面白くない話はない。 快斗はそこら辺は普通の男同様、すかさず自分をアピールしてみる。 しかし青子は横目で快斗を眺めると胡乱げな目でちろりと見ると大袈裟に溜め息なんか吐いて首を振った。 「快斗と工藤君じゃ全然違うよ。」 内心ムッとするがあまり表に出すのも癪で快斗はそのまま青子をおいて家に帰ろうとする。 しかしすかさず延びてきた青子の腕に腕を取られてそのまま引き寄せられる。 耳元にくすぐったい感触。 「でも快斗の探偵、ちょっと青子楽しみだな。」 声には微かに恥ずかしそうな響きが有って快斗は俄然やる気を出した。 |