「蘭!おっはよう!」 朝から教室内に園子の元気な声が響き渡った。 今まさに自分の席に座ろうとしていた蘭は、この何か楽しい事を見つけてワクワクしている事を隠し切れない親友に爽やかな笑顔を向けた。 「おはよう。何か良い事があったの?」 「良い事というより面白い事かな?蘭も絶対気になる事だと思うよ〜?」 何やらにんまりと笑みを浮かべて蘭の前の席に腰を落ち着けると早速園子はぐっと身を乗り出してきた。 蘭もつられて園子に身を近づける。 園子は周りに聞かれないように小さな声でとっておきの情報を蘭にリークした。 「あのね。今新一君って何かと話題性あるじゃない? そこに目を付けたプロデューサーがいてね、新一君主演でテレビドラマをやりたいっっ!って話が出てるんだって!」 「えぇっ!嘘!」 考えても見なかった夢のような話に蘭は状況も忘れて大声を上げる。 クラスメートが何事かと二人に注目したので、慌てて誤魔化し笑いを浮かべる蘭と園子だった。 新一がテレビドラマ? 蘭はついブラウン管で活躍する幼馴染を想像しぽや〜んとしかけたが、はっと有る事に気が付いた。 ただでさえ若い女性に人気のある名探偵がテレビドラマなんかに出たらますます有名且つ人気者になってしまう。 なんだか遠くに行ってしまうようでヤダな… いきなり目の前に園子の手がひらひらと振られる。 「らーん?ちょっと帰ってきてよ?まだ話し途中なんだけど。」 「あっ、ごめん。それでその話の続きは?」 「でもね、その話スポンサーとかも乗り気になってたんだけど、新一君断っちゃったらしいのよね。 『私はそんな風に名前をメディアに出す気は有りません。』ってさ。」 「え?そうだったの。」 そっか、新一断ったのか・・・ちょっと残念なような気もするけど・・・ でも、新一そんな話がきてる事全然教えてくれなかったな。 いや、別に私に報告する義務も義理も無いんだけど、なんか寂しい・・・ 「でもね、その話まだプロデューサーが諦めてなくってさ、なんと工藤新一をモデルにしたドラマをやるらしいのよ!」 「モデルぅ?!」 「そ!だから高校生で名探偵!っていう格好良い人が主人公で殺人事件とかバンバン起きちゃって、怪しげな容疑者が出てきてついでに悲劇の美青年とか出てきて最後は華麗な推理ショーってな感じのドラマになるみたいよ〜。」 蘭は驚愕にしばらく言葉が出なかった。 園子はどうだっと言わんばかりの表情で蘭のおでこを突ついた。 「ど?気になるでしょ?」 「う・・ん。」 「なーによ、その生返事は?」 「だってなんかどう対処して良いのか分かんなくて…新一が出るわけじゃないけど新一がモデルになってるドラマなんて…」 園子は戸惑うばかりの蘭をしばらく見ていたが、やがて教室の扉を指差し蘭に囁いた。 「旦那が来たから直接聞いてみなさいよ?」 園子にああ言われたものの蘭は結局放課後までタイミングが掴めず、新一にドラマの事を聞けずにいた。 新一の中では既に決着の着いている話を今更話を蒸し返すのはなんだか気が引け躊躇されたからだ。 今も一緒に下校しながらもこの前読んだ推理小説なんかの話をしていて肝心な事は何一つ聞けないままだった。 ああもう。私ったら何やってんのよ。 蘭が人知れず自分を叱咤していると、新一が不意に蘭の肩に手を掛けて苦笑した。 「何か俺に言いたい事が有るんだろ?遠慮してないで言えよ?」 「え?なんで分かったの?」 新一はふふんっと鼻で笑い胸を反らした。 「探偵の観察眼を舐めんなよ。ま、そうじゃなくてもオメーの場合は分かり易すぎるけどな。」 「うーん。それって素直って事だよね?」 「単純ってことだよ、ばーか。」 「何よそれーっ!!」 蘭は持っていた鞄を新一の後頭部目掛けて振りかぶったが軽いステップで避けられる。 新一は蘭より半歩前に出ると勢いを付けて振り返り軽やかに笑った。 夕日をバックにした新一のシルエットは何だか謎めいていて蘭の目に焼き付いて離れなかった。 「それで?」 新一が話を元に戻しようやく蘭は聞きたかった事を口にした。 「新一にドラマの話が来たって本当?」 蘭の口から出た話題は、新一にとって蘭の耳に出来れば入れたくなかった話で、新一は思わず唸り声を上げた。 誰だ?蘭によけーな事を吹き込んだ奴は・・・ ちらりと蘭を見遣ると、興味津々といった表情で新一の言葉を待っている。 こんな顔されたら話さない訳にはいかない。 新一は渋々と話を始めた。 「そんな大層な話じゃねーよ。たまたま母さんの知り合いの人がちょっと変わったドラマを作りたいなんて思って、それじゃあ探偵モノでもやってみるかって話になって、それで俺のところに流れてきただけの事だぞ。こっちもそんなに暇じゃねーし断っちまったよ。」 「そうなの。なんか勿体無いんじゃない?何事も経験って言うし、もう2度と無いかもよ?」 「2度もこんな話来なくていーぜ。ったく、それに結局『じゃぁモデルにするくらいは良いよね?』なんて押し切られちまうし。」 蘭はくすくすと楽しそうに新一の話を聞いている。 「ね?そのドラマってもう台本とか出来てるのかな?どんな話なんだろ?」 新一はちょっとした下心から蘭に話を持ち掛ける。 「実は家にもう脚本があったりするんだが、見に来るか?」 「え?見たい見たい!」 「俺、夕飯は温かーいシチューが食いたいな。」 「作るから見せてね?」 大好きな笑顔で可愛くお願いされて、新一は内心の溢れんばかりの喜びを奇麗に押し隠して頷いた。 |