「もう、頭来んねんっ!」 ポニーテールを揺らして和葉がテーブルに拳を打ち付ける。 その振動でカップがぐらりと揺れるが、普段嗜め役の蘭でさえ怒った表情でうんうんと頷いている。 今日は久し振りに和葉が上京してきたので、あの面子で会おうという話になっていた。 集まったメンバーは蘭・和葉・園子・青子の4人である。 しかしせっかく4人で集まったというのに揃いも揃って不機嫌な顔をしているのには当然訳があった。 「青子も今回ばかりは本当に怒ってるの!バ快斗ってばちっとも分かってないんだもん!」 「新一も新一よ!いっつも事件事件って都合よく言い訳に使って!」 青子と蘭が手を取り合ってお互い幼馴染の事を詰っている横で、園子が京極から送られてきた写真を睨み付けている。 「真さんってば本当にデリカシーの欠片も無いんだから!!何よ!この女は!」 写真には胴着姿の京極とその両隣で微笑むワンピース姿の美人女性が写っている。 京極の写真は凄く嬉しい園子だが、こんな深読みしてくれと言わんばかりの写真では素直に喜べない。 「男って何でこんなに無神経なんや!」 「「「そうよねっ!」」」 和葉の意見に声を揃えて同意した面々は、カップの中身をぐっと飲み干した。 どうにも怒りの収まらない4人はそのままノリと勢いで園子が小耳に挟んだ人気のスポットに繰り出す事にした。 しかし、もしその場に彼女達が言う所の『無神経な男』達が居たら口を揃えてこういった事だろう。 「女だけで行く?!とんでもない!あそこだけは止めとけっ!!」 血相を変えて行くのを止める場所。 ――― そう、その場所はナンパのメッカであった。 綺麗に整えられた擬似的なヨーロッパ風の町並みに様々な商品が並べられる店が建ち並ぶ。 国内でも最大級のショッピングモールは、老若男女で賑わっていた。 「凄い人だね・・・」 蘭が余りの人の多さに目眩さえ起こして呟くと、和葉も「皆暇なんやね〜。」と呆れた口調で言う。 しかし金曜日の夕方となると、この人出も仕方ないと言えよう。 「ま、取り敢えず秋物の洋服でも見に行こ。」 園子が先陣を切って歩き出すと、他の3人も気を取り直してショッピングを楽しむ為に人の群れを掻き分け出した。 可愛らしいカーディガン、綺麗な色のブラウス、女性と言う者は不思議でそれらを見ているだけでうきうきとした気分になってくる。 この4人も例外ではなく、暫くすると先程までの怒りは何処へやら4人ともすっかりショッピングを楽しんでいた。 女子高生らしい溌剌とした笑顔と楽し気な笑い声は一際目立ち、4人は次第に注目を集め出していた。 「青子の奴。何処に行ったんだよ。」 昼間の事はやっぱ俺が悪いよなーと反省した快斗は、キチンと謝りたいが故に青子を探していた。 朝嬉しそうに「この前知り合った女友達とお茶するのー。」と言っていたが、場所までは聞いていない。 青子の良く出没するスポットに足を運んでみたが、見慣れた幼馴染の姿を見つける事は出来なかった。 謝るくらい明日でも良いか? チラッとそんな考えが頭を過ぎったが、別れる寸前の泣き出しそうな顔を思い出すと居ても立っても居られなくなる。 快斗は溜め息を吐くと、自慢の勘を頼りに再び青子を探し始めた。 高校生くらいの私服の男二人が駅に早足で向かいながら何やら言い争いをしている。 「工藤!お前ねーちゃんの行く所くらいしっかり聞いとけ!」 「なんで一々俺が蘭の行き先聞いておかなきゃなんねーんだよ!」 「聞いとったら今こんなに苦労しなくて済んだんじゃ!ボケ!」 「ボケはてめーだろーが!遠山さん怒らして焦ってるくらいなら始めから怒らせるような事するな!!」 「んだとーっ!工藤やってねーちゃん不機嫌にさせて逃げられたくせにようゆーわっ!」 「煩いっ!」 「そっちこそ少し黙れや!」 二人は無言で暫し睨み合っていたが、駅前の仕掛け時計が5時を知らせるとはっと状況に気がつく。 「こんな言い争いしてる場合じゃ無いな。」 「そうやった。何か手掛かりあらへんか?工藤。」 顎に手を当てて今日の蘭の行動や発言を思い起こす新一。 「・・・今日は確か園子の奴も一緒だったな?」 「おお、和葉とねーちゃんと園子っちゅう友達と、後一人女友達がおったと思うけど。」 「女4人で行く場所・・・そう言えば園子の奴最近オープンしたばっかの大型ショッピングモールの話をしてたな。」 「それって最近よく特集されてる『アルセ』の事か?」 「そうだ。あそこに行ってる可能性が高いな。」 「おい。あそこって・・・」 「ああ、そうだ・・・取り敢えず行くぞっ!」 「おうっ!」 二人は急に深刻な表情になると大きく頷き合い、問題の『アルセ』に向かった。 その頃外国の京極は電話の前で悩んでいた。 |