絶対そうに決まってる! -【9】-
食事が運ばれて来て、二人で食事を開始する頃には、青子の機嫌はすっかり直っていて、楽しそうに快斗に父親の事を喋る。
鬼警部の家での寛ぎっぷりが窺えるちょっとドジなエピソードに、快斗は中森警部の意外な一面を知って驚いてみたり。
青子が悪戦苦闘している物理の問題をこんな所で持ち出され、お勉強熱心な青子に呆れつつ快斗が紙ナプキンに解を書きながら解説したり。
気になっているというような素振りを見せる青子に、快斗は自分の皿を青子の方に押しやって、食べればと促してやる。
高校生にもなって、と思う反面、こいつのこういう所が無邪気で可愛いなんて思ってでれでれする自分もいる。
見抜かれていた事にちょっと照れて笑った後、青子は頓着した様子も無く快斗の皿にフォークを伸ばして、控えめな量を切り分けて自分の口元へと運んだ。
美味しい料理を食べる時に見せる幸せそうな表情を、快斗は眺める。
「美味しいね♪ココ。」
「そうね。」
「また来よう?」
「そだな。」
今度はちゃんと『黒羽快斗』の格好で。
そう注釈を付けたいけど、青子はきっとそんな事構いやしないのだろう。
それを証明するかのごとく、青子が面白そうに身を乗り出した。
「ね。今度は白馬君とか恵子とか紅子ちゃんとかと一緒に来よっか?きっと快斗のその格好に驚くと思うよぉ!」
「・・・青子は私の格好気に入ってる訳?」
「気に入ってるっていうか・・・」
言葉を切って快斗の全身をじっくりと眺める青子。
「・・・快斗と切り離して考えちゃえば、すっごく見せびらかしたいような芸術品、かな?」
「へ?」
快斗を唖然とさせた事が余程嬉しかったのか、青子はアイスミルクティーをストローで飲み干した。
『みせびらかしたい』とはどんな感情から起因する発想なのか。
快斗は複雑な表情で考え込んでしまった。
「ねぇ彼女達。ご飯終わった?」
軽そうな声が頭上から聞こえてくる。
快斗は自分達の座るテーブルに落ちる長身の影に、来たかと大して感慨も持たずに頭上を見上げた。
声から予想される通りの茶パツにジーパン、バッシュにシルバーアクセをジャラリと付けた二人組の男。
典型的なナンパだ。
「俺達これから隣のテーマパーク行こうと思ってんだけど、男二人じゃ格好付かなくってさ。」
「ど〜しよっか、なんて頭抱えてたら目の前に可愛い女の子2人組が居るじゃん?こりゃ神様の采配だねなんて言ってた訳。」
快斗の視線がひやりと冷気を伴うものに変化した。
テーマパークに行こうという気があるならば、そもそも男二人でなど約束はしない。
口実まで芸がないと快斗はうんざりする。
こんな奴らが世間に多いから、自分が要らぬ苦労をするのだ、と隣で見知らぬ男達にさえにこにこと笑顔を振り撒いている青子を快斗は盗み見た。
「ね?どうかな?勿論奢るけど。」
どちらもそこそこ顔は悪くなかった。
きっとどこぞの大学生だろう。
大金持ちって程ではないが、小金持ちという雰囲気は滲んでいる。
悩みなど無く、青春は恋の大輪を咲かせてこそ有意義だと思い込んでいるタイプだと、快斗は分析して対策を練る。
そんなのものの2秒で済んでしまうが。
「夜はさ〜。トロピカルランドの花火が見えたりするんだよ?あそこ。良い場所があるんだ。」
「ねぇ?どうかな?」
左に居た男が慣れ慣れしく青子の肩に手を置いた。
その光景を目にして、快斗の頭に光速の勢いで血が昇った。
青子の華奢な肩は薄汚い男の手を置く為に有るのではないのだ。
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