絶対そうに決まってる! -【8】-





快斗が酷くご機嫌なのに対して、青子はぐったりと疲れていた。

力無い歩みに、不思議そうに快斗が青子の顔を覗き込んだ。

「貴方これから先ああいった事多くなるのに。そんなに疲れてどうするのよ?」

快斗が未だオネーサマ言葉なのは、二人がオープンテラスのカフェに入ろうとしているからだ。

青子は逆に信じられないといった表情で快斗を見詰め返す。

「か・・・じゃなくて、洋子こそ青子と同じで経験なんて無さそうなのに、なんであんなに慣れてるの?・・・まさか。経験有り、とか?」

「ほほほ。どうかしらねぇ?」

煙に巻くように快斗が視線を逸らすと、青子が驚愕に瞳を見開くのが分かる。

ただでさえ大きな瞳が今やまん丸だ。

それを眺めて、快斗はだから青子をからかうのは止められないと、内心ご満悦だった。



「快斗。青子は快斗が別に変な趣味があっても今まで通り付き合ってあげるけど、世間様から後ろ指指されるような事は控えなさいね。おばさんが可哀想だよ。でも、快斗に普通に女装趣味があったなんて、青子知らなかったなぁ。あ、もしかして女の子の更衣室覗くのも女装の勉強の為だったりするの?」

がくり、と快斗の肩が落ちた。

思わず頭を抱えて、顰めた顔で地面を睨み付ける。

「なんでそっちにいくんだよ。」

「快斗っ!言葉っ!」

後ろに並んでいた女性3人組の奇異の視線に気が付いて、青子が慌てて快斗の洋服の裾を引っ張る。

律儀に快斗は言い直した。

「貴方の思考は何故そっちに即座に走るのかしら?普通に考えてそれは無いでしょ?」

「だって快、じゃなくて、洋子ってば、何でもアリじゃない?」

青子の視線は、今まさに完璧な女装を披露している快斗の姿に注がれている。



無名だが、実の父親と同等、もしくはそれ以上の実力を隠し持っているマジシャンで、IQ400なんて馬鹿げた数字を誇る超天才。

付き合いが長い分、青子は快斗の事を正当に評価している。

それは有り難い事であるが、玉に頭の痛くなるような青子の誤解を引き起こす種にもなっている。



「何でもアリってなぁ・・・俺は化け物かいっ!」

青子にだけ聞こえるように華奢な体を引っ張り寄せて耳朶に小声で吹き込むと、青子は擽ったそうに小さく身を捩った後背伸びをして快斗の耳元に囁いた。

「『化け物』じゃなくて、『魔法使い』かなって時々思う。」

その言葉の持つ不思議な響きに、快斗の琴線が揺れた。

思わず破顔して、抱き締めたくなる衝動を無理やり指先から押し出して逃がす。

可愛い事を何でも無い顔で言う青子をどうしてやろうかと、痺れの取れぬ指先を持て余しながら、快斗は考えた。



「どしたの?快・・・じゃなくて洋子?」

「・・・ん〜ん。何でも無い。」

「本当、変な快・・・じゃなくて、洋子。」

「・・・いい加減慣れたら?」

何時まで経ってもスマートに偽名を呼べない青子に苦笑しながら頭をくしゃりと撫でると、青子が嫌がって頭を振った。

少し乱れた髪の毛を指先で整えながら、むすっと怒り顔を浮かべる。

「何するのよっ!バ快・・・」

「『バカイ』って何?」

「知らないっ!!」

つんっとそっぽを向く青子の注意を引こうと、快斗が指先に柔らかな青子の髪の毛を摘んで軽く引っ張る。

頬がぴくりと動いたが、青子は頑なに快斗を無視し続ける。

そうこうしている内に、二人が席に案内される番になった。

風がそよりと吹き抜けスカートの裾を掴んでひらひらと弄ぶ。

天気が良く紫外線が気になる所だが、二人は若さ故かあまりそういった事を気にせずオープンテラスのスペースの中をてくてくと歩き、空いた席へと座った。

荷物を空いた椅子の上に置き、青子がメニューを広げる。

背があまり高くない青子は立てたメニューの影にすっぽりと隠れてしまった。

快斗は時が青子の機嫌の特効薬とばかりしばし静観を決め込んで、マイペースにメニューを吟味しだした。

二人は未だ昼食を食べておらず、お腹は良い具合に空いているのだ。

「青?決まった?」

問い掛けると微かに頷く頭のてっぺん。

こりゃ相当時間が必要かもと快斗は頬杖を突くと、通りかかった店員に軽くてを上げて合図をした。









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