絶対そうに決まってる! -【6】-
ぷぅっと頬を風船みたいに膨らませて、快斗を軽く睨み付ける。
「今度は何の下心が有って、そんな事言うのよぉ?」
青子の警戒心は正しい。
正しいが、方向が間違っている。
取り敢えず快斗は1回目の時で学習していたので、無駄に慌てたり焦ったりしなかった。
考えていた口実をそっと青子の耳に吹き込む。
「タイミング悪くこの前の事思い出しちまったんだよ。」
「え?思い出すって何を?」
「学校の家庭科で青子達がジャージャー麺作った時の。ほら。」
「あ。あれかぁ。別に良いのに。あんなの。」
「でも洗っても完璧には落ちなかっただろ?」
家庭科で青子が作ったジャージャー麺を、快斗は試食させてもらったのだ。
勿論それは幼馴染特権を振り翳して勝ち得たモノだったのだが、その時の他のクラスメートとの攻防戦の最中に、快斗が避けた拳が運悪く背後に居た一男子生徒にぶつかり、さらにドミノ倒しのようにその背後に居た青子がよろけて、エプロンにジャージャー麺のソースを付けてしまったのだ。
エプロンは去年中森警部が娘の誕生日に買ってやったプレゼントの一つで、青子は家でも大事に使っていた。
だからちょっと気が咎めていたのだ。
「ちゃんとは落ちなかったけど、元々アレエプロンなんだよ?洋服汚さない為に着けるモノなんだもん。汚れて当然じゃない?」
「でもアレ気に入ってんだろ?」
「だってお父さんが買ってっくれたんだもん。大事にするのは当然だけど。だからって・・・」
「ったく口が減らねー奴。俺が良いって言ってんだから素直にうんって言っとけよ。」
「でも悪いもん。良いよ。気にしなくて。」
快斗としては本当は全額出してやりたいのだ。
それを半分と言ったのは、青子がこうやって一度は辞退するのを見越しての事。
快斗は予想通りの青子の反応に、既にシミュレート済みの答えを返した。
「あのなぁ。俺だってアレが全部俺の所為だとは思ってねー訳。あんなどたばたしてる所で非難もせずぽけっと突っ立ってたオメーだって悪いんだぜ?」
「何よぉ!!」
「だから、半分。」
「・・・」
「折角のエプロン汚しちまったのは、贈った警部にも悪いかんな。オメーの為だけじゃねーよ。」
「そうかなぁ・・・」
「俺は俺の信念でそう言ってる訳。別にオメーが必要以上に遠慮するような事してるつもりもねーし。」
「・・・でもぉ。」
「警部にゃちゃんと俺が謝ってたって言っておけよ?」
釘を刺された青子はふぅっと止めていた呼吸を再開させて、降参したというように快斗を見上げた。
青子の無言は納得した印と受け取った快斗が、傍に控えていた店員に会計を頼む。
「じゃ青子着替えてくる。」
そのまま更衣室に戻ろうとした青子の腕を快斗が不意に取った。
「何?」
「今日はそのままソレ着てなさいよ。」
「え?」
「口紅買いに行くのに今日の青子のお子様スタイルじゃ格好が付かないでしょ?」
「お子様お子様って煩いっ!」
妙にちくちくと棘があるような言い回しの快斗に青子が悪態を吐く。
大して効いた風もない快斗はそのまま青子をずるずると引き摺ってレジに向かおうとした。
青子が慌てて更衣室の方に手を伸ばして叫ぶ。
「ちょっとぉ!青子の荷物未だ更衣室の中だよっ!」
「ヤベ。」
すっかり失念していた快斗が思わず漏らした言葉に、二人の前を歩いていた店員がぎょっとして振り返る。
変装後のお上品な声ではなく男性そのものの声だったからだ。
快斗は慌ててオホホホホホなんて業とらしく口元を手で隠しながら誤魔化す様に声を立てながら笑った。
青子がぷっと吹き出したのが背後から聞こえて、快斗はバツが悪い思いをする事となる。
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