絶対そうに決まってる! -【5】-





「えっと・・・洋子?」

呼び慣れない言葉に舌を噛みそうになって、顔を歪める。

「似合うかなぁ・・・コレ。青子があんまり持ってない類のお洋服なんだけど・・・」

「そうね。今まで着てないタイプよね。だって貴方妙にお子様ちっくな洋服が好きだったじゃない。」

今思うとアレは青子の趣味にプラスして、どうやら女の子のファッションに疎い鬼警部中森の趣味だったんじゃないかと思う。

小学生の時分にはお似合いだったそれらの服装も、高校生となった青子にはちょっと子供っぽいのではないかと、快斗はそれとなく伝えてみる。

「う。そうだけど・・・」

「だから少しずつこういう服も揃えてみたら良いじゃない。」

「・・・お値段どれくらいかなぁ?」



青子の気持ちが買う方に傾いたのを感じて、快斗は単純に嬉しくなる。

青子は背中の上の方のファスナーの部分についている値札を見ようと腕を伸ばすが、それはなかなか指先に捕まってくれない。

ん〜と唸っている青子に、快斗は苦笑した。



「私が見てあげるわよ。ほら、髪の毛持って。」

背中にふわんと掛かった天然パーマの髪の毛を軽く手で押さえると、青子の日に焼けていない首筋が露になった。



思わず口笛を吹きそうになって、慌てて唇を引き結ぶ快斗。

同性同士でも口笛は、幾らなんでもマズイだろう。



「見える?」



両手で髪の毛を持ち上げて、青子はさらに快斗を悩殺する。

軽く持ち上がった白い腕はなだらかで綺麗なもち肌で、すっきりと伸びた首筋は噛み付きたくなるような眩しさだ。

タグを探る際に触ったチャックと背中の一部は、気を緩めれば一気に暴走しそうな心臓の命運を握っていると言っても過言ではない魔力を持っている。

深呼吸をしながら、タグについている値札を引っ張り上げた。





「あったわ。SALE品で30%OFF。9800円が6860円だけど。」

瞳でどうする?と問い掛けると、肩越しに振り返った青子の瞳の奥が迷いで揺れる。

高校生にとってはやはり高額だ。

快斗は「俺が買ってやる」と言いたくてしょうがなかった。

理性が必死になって押し留めているその言葉に、振り回されそうな予感がする。

その考えが結局は我侭だと分かってはいるのだが、こんなに必死になって我慢して悶々と思い悩む程の事でもないような気がする。

メトロノームのように左右に揺れる考えに、快斗は溜息を吐きたくなった。



「ど〜しよ〜。」

鏡を見て、青子が購入を決めかねている。

その姿を見て、快斗も言うか言うまいか決めかねていた。







「お安くなってますし、お買い得だと思いますよ?今年十分着れますし、何より手洗い出来るので楽です。」

「手洗い出来るんですね!」



青子の声が弾む。

家事を一切引き受けている青子にとって、それは経済的にもプラス効果だ。

快斗はその声を聞きながら、はっとある出来事に思い当たった。

自分の優秀な記憶力を絶賛してやりたい気分だ。

快斗は内面では意気揚揚と、しかし外見では仕方ねーなーという雰囲気を纏って、青子に内緒話を持ち掛けた。



「んだよ?買わねーの?」

潜められた声は、店員に耳には届かない。

「だって。あんまり無駄遣いも出来ないし。でも可愛いんだよね。コレ。」

ひらひらと風に遊ぶスカートのたっぷりとした裾を指先で持ち上げて、青子が快斗を途方に暮れた表情で眺める。

もし快斗の携帯がカメラ付きだったらすかさずシャッターを切りたくなるような、愛らしい表情だった。

しかし快斗の携帯はカメラ付きなどではないし、そしてそんな事をすれば青子が別方向に勘繰ってくだらない喧嘩に発展しかねない。



「半分出してやろーか?」

「はぁ?!」

「声、でけーよ。」



耳元で素っ頓狂な声を出されて、快斗は顔を歪めた。

勿論上品なおねー様スタイルは崩れていない。

ただ、青子の耳に近付いた快斗の唇が吐き出した言葉は彼の地の声と口調だったが、青子はそんな事お構い無しのようだった。

本日2回目の快斗の申し出。

当然、青子は素直には受け入れなかった。









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