絶対そうに決まってる! -【3】-





「ね。何処行こっか?」

「そだな〜。オメーその格好から変えねーか?」

「ええっ?これじゃ駄目?」



青子は自分の体を見下ろして次いで快斗を見返した。

お気に入りの七分丈パンツに花とアルファベットを象ったロゴの入ったTシャツ。

白のレースのカーディガンだって、今日の格好には合ってる筈で、快斗が何故『変えろ』と言うのか理由が分からず青子は不思議そうに瞳を瞬かせた。

快斗は青子のTシャツの裾をくいっと指先で引っ張って笑う。



「罰ゲームの内容は化粧品売り場で口紅を買うだろ?だったら口紅が似合うちょっと大人っぽい格好が良いんじゃん?」

「口紅買うのは快斗だよ。」

「へーへー。分かってますって。でもオメーその間ぼぉっと待ってる訳?」

「うん。見物してる。」

「ま、そう言わねーでオメーも試してみたら?色々。似合うの一本買ってやっから。」



弾かれたように青子が顔を上げる。

驚き一色に染まったその表情をまともに見る事が出来なくて、快斗は業とらしくない程度に顔を反らした。

頬が赤くなっていないか、気が気じゃない。



「・・・び・・・っくりしたぁ・・・」

「んな驚く事かよ。」

「だって、買ってやる、だなんて。」

「ま、たまにゃ良いだろ。優しい快斗様ってのも。」

「優しいっていうか・・・それって下心?」



後ろ暗い所が多少有る快斗にはそれは劇的な一撃だった。

青子がそんな鋭い事を言うとは考えもしていなかった快斗は動揺して思わず絶句してしまう。

そんな態度を取ってしまえば認めているも同然だと言う事に、この時愚かにも快斗は気が付かなかった。



「・・・もしかして今日も青子に夕飯作らせるつもりなんでしょ?」



低くなった声で青子がじとっと快斗を眺めた。

動きを止めていた快斗の体に爆発的に血液が駆け巡り、快斗は再活動後の最初のリアクションでがっくりと肩を落とした。



そこはそうじゃないだろう?!



自分の立場も忘れて思わず叫びたくなるのをぐっと我慢して、快斗は引き攣り笑いを浮かべた。

青子はそれを誤魔化笑いだと思ったらしい。

やっぱりという顔をして、快斗の脇腹に肘鉄を入れた。



「そうそう都合良く青子が快斗の言いなりになると思ったら大間違いなんだからね!本当調子良いんだから。」

「・・・悪かったな。」



気付いていないならソレで良い。

快斗が青子のちょっと大人びた所を見てみたいと思い付いてしまった事とか。

彩られた唇というモノに大きな欲望と憧れなんぞを持っているだとか。

口紅を塗るという行為が、青子にちょっとした変化をもたらしてくれないかなどと期待しているだとか。

お子様鈍感青子が気が付いていないのなら、まぁそれで良い。



快斗は青子の勘違いに乗っかって、ようやく自然な動きを取り戻した。



「今日もお袋居ないんだよ。外食ってのもかったるいし。」

「・・・買ってくれるなら、まぁ良いか。しょうがない。青子が作ったげるわよ。」

「ラッキ♪」



ぱちんっと指を一つ鳴らして、棚ボタな幸運を素直に喜ぶ。

快斗は先ほどから気になっていた店の前で青子を強引に立ち止まらせた。

一瞬揺らぎかけた体は快斗に危な気なく支えられてバランスを取り戻した。



「何よ。」

「ここにしましょ。」



再び外見にそぐう声と口調に戻った快斗に、青子が何を言われてるか分からないというように首を傾げた。

そんな青子の様子にお構いなく、快斗は青子の腕に自分の腕を絡めて強引に店の中に入っていく。









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