絶対そうに決まってる! -【2】-





「ねぇねぇ青子!あそこのお店ニューオープンだって!行ってみよ?」

「1人で行ってくれば?」

「も〜友達甲斐の無い人ねぇ。青子の洋服も見立ててあげるからさぁ?」

「青子今欲しい洋服ないもん。」

「でも開店記念セール中だって♪あのディスプレイされてるカットソーきっと青子に似合うよ。」

「やだ。あれ凄く胸の部分開いちゃうもん。」

「青子お子様体型だからな〜。平気だって。あれ重ねて着れば問題無いって!」

「・・・」

「ほぉら?機嫌直してよ〜。」



青子は黙って聞き流す事も出来ずについに立ち止まってしまった。

休日のデパートは程良い人の入りで、あちこちにセールの赤札が目立っている。

人の流れに逆らうように立ち尽くす青子を人が不思議顔で眺めながら通り過ぎて行く。

連れの女性が小さく溜息を吐いて、親しげに青子の華奢な肩を抱いた。



「そんなに嫌?」

「・・・嫌に・・・決まってるでしょうぉぉぉ!!!!バ快斗っっっ!!!!」

「その名前で呼んじゃ嫌v」



80年代アイドルのようににこっと笑顔を浮かべて首を傾げた美少女、にしか見えない快斗に、青子はきっと睨みを利かせるとすたすたと歩き出した。

快斗は青子の後をちょこちょこと付いて行く。

どこからどう見ても、10代後半の美少女である。

真っ直ぐさらさらストレートは腰まで届くような長さ。

平均より大き目のバストのくせにウエストはきちんと絞られている。

青子が砂糖菓子のような甘めの容貌なのに対して、すっきりとしたきつめの容貌。

二人で並ぶと目立つ事この上なく、その注目を楽しんでいるかのように楽しげな様子の快斗。

青子は面白くなかった。











「何よぉ・・・コレじゃ罰ゲームになんないじゃない。」

「え〜。ちゃんと青子の言う通りにやってるわよ?これって立派に罰ゲームじゃない。」

「だって、誰も快斗だなんて思わないでしょ?これじゃ・・・」



つま先から頭のてっぺんまでじっくりと観察する。

完璧に女の子だ。

おかしな所など何処も無い。

これじゃ下着売り場に行こうが、プールで遊ぼうが、温泉に入ろうが、絶対にバレないだろう。

そもそも罰ゲームの内容は『化粧品売り場で口紅を色々試した後、母親へのプレゼントとして口紅を一本買う』というモノなのだ。

この青子からの指令が罰ゲームたる性質を持つのは、勿論男の快斗が実際色々な口紅を試すという一幕にある。



それなのにそれなのに。

女の子に変装してしまっては、その内容に罰ゲームたる性質が付加しないではないかっ?!

青子はちょっと悲しくなった。



「折角快斗が慌てたり恥ずかしがったりする所を見物してやろうと思ったのに。」

「青子ってば、悪趣味〜♪」

「煩いっっ!!!バ快斗は黙ってなさいっっ!!!」

「青子ちゃん怖〜い。」

「・・・ああもう、調子狂っちゃう。」



青子は何を言っても暖簾に腕押しの快斗に疲れを感じたのか、はぁっと大きく溜息を吐くと、今自分が何処を歩いているのかと改めて回りをきょろきょろと見回した。

怒りに任せてさして注意もせずに道なりに歩いていたので、現在位置がさっぱり分からなかったのだ。

その様子に隣の快斗がくすりと笑う気配がして、青子の機嫌が一段階段を下がった。



「ほら青子。あそこに地図がある。」



軽く腕を取られて指差された方を見ると、確かに館内地図があった。

青子は取られた腕を乱暴に外すと、その地図に向かって近付く。

快斗はやり過ぎたかなぁと頬を指先で掻くと、小走りに青子の傍に行った。



「んな機嫌損ねんなよ。」



ぼそりと耳元で囁く声は正真正銘快斗の生の声で。

青子は柔らかな耳たぶに掛かる吐息がくすぐったくて首を少し竦めながら、上に位置する快斗の変装した顔を見上げた。

瞳に映る色だけは確かに幼馴染のモノだと確信出来るから変な感じだと諦め混じりに考えた。



「分かったわよ・・・もう今日はそのままで良いよ。」

「そうこなくっちゃ♪」



悪戯を思い付いたような顔で快斗がにやりと笑う。

青子も釣られてにっこりと笑った。

途端曇天の切れ間から太陽が覗くような、劇的な雰囲気の変化が青子に起こる。

憂い顔も泣き顔も怒り顔も良いけど、やっぱり笑顔が一番だと快斗に印象付ける一瞬だった。







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