Wanted!【9】





「校舎の中だ!」

「捕まえたらマジックショーして貰おうっ!」

「何言ってんだよ!勉強見てもらおうぜ!」

「いやぁ!!デートしたい!」





雪崩を打って校舎内に突入する生徒達。

お祭り好きな江古田の学生達の気分は上昇気流にでも乗っているかのように天上知らずにヒートアップする。

こんな集団に追い掛けられたら誰だって命の危険を感じるだろう。

青子は呆然と走り出した生徒の後ろ姿を見送っていたが、はっと気が付いて追う様に走り出した。

エスカレートするように『鬼ごっこ』が危険な『狩猟』にいつ何時変わるか分からない。



その時には暴動を止められるように。

それが出来ないのならばせめて身を挺して庇えるように近くに居なくては!!



青子はそんな想いに駆られて一生懸命走った。











「前方に敵発見!」



唇を不敵に釣り上げて快斗が笑う。

履き違えた雄たけびを上げながら突っ込んでくるのはおそらくラグビー部の猛者達だろう。

速度を弛めずに快斗も突っ込んで行く。

あわや衝突っ!という場面で快斗は先頭の男の肩を支点に一気に3人越えをしてみせた。

鮮やか過ぎるその身のこなし。

唖然とするラグビー部員を残して風は吹き抜けていった。











「もうっ!快斗何処に行っちゃったのよ!!!」



青子が叫ぶ。

遠くで歓声とも怒声とも付かない声が響く。



「向こう?!」



方向転換して走り出す。











「んで?どいつが扇動者なんだ?」



口の中で小さく呟き走りながらも広い視野で追跡者の中から潰すべき人間を探しだす。

もともと江古田の生徒は乗り易いが、こんな暴動寸前の危険な遊びには発展しない雰囲気を持っていた。

それがこの騒動。



どこかに必ず危険分子が居る。



快斗はそう踏んでいた。

ふと一人の男の姿が目に留まる。

一人だけ目の色が違う男子生徒。

まるで親の敵でも目前にしているような険しい表情。

どこかサディスティックな危険な光。





「あいつだ。」





狩る者と狩られる者の逆転。

その瞬間に世紀の大怪盗はにっと不敵な笑みを浮かべた。

其れは既に勝利を確信した者の笑み。











「快斗っ!」



青子の視界の端に2階の踊り場から一気に飛び降りたキッドの姿が映った。

猫のような身のこなしで綺麗に爪先から着地するとすかさず白いスモークが投げ付けられ辺り一面白い幕に覆われる。

「えっ?!やだ!」

青子は慌てて駆け出すと果敢にその視界の効かない一帯に飛び込んだ。

この事態さえ面白がる生徒達の歓声が個人個人の場所の特定さえ難しい状況に陥らせていた。

『黒羽快斗』を特定して捕まえるのは不可能で、生徒達は次第にスモークが晴れるのをじっとその場で待つ様に静まり出した。

青子も闇雲に動く事を止めてその場にじっと立ち尽くす。

但し、大きなその瞳だけはきょろきょろと辺りを見回して愛しい幼馴染の姿を探していた。







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