Wanted!【10】





「え?!」



誰かの驚き声。

皆息を呑んで目の前に現れた状況を必死に理解しようとしていた。

青子も黒く愛らしい瞳が零れ落ちてしまいそうなほど目を見開いて、呆然とキッドを見ていた。











「誰も動くな。動くとこの男の命は無いぞ♪」

こめかみに寸分の狂い無く突き付けられたトランプ銃に、身動きも取れずに体を拘束されたそのターゲットは硬直していた。

背後からその男に銃を突き付けていた快斗は余裕の表情で、自分の周りを取り囲むように立ち尽くす集団に愛想を振り撒いている。

「さぁってと、通してもらおうかな?」

快斗が男ごと一歩前に出ると、ざざっと人波が割れて道が出来る。

快斗は油断無く周りを威圧しながら、何処までも人を食った笑みを浮かべたまま歩き出した。

「これから俺は生徒会と交渉してくるから、変な気は起こさない方が身の為だぜ?」

生徒達の異常に昂ぶった気を静めるように、落ち着いたゆったりとした声が快斗から発せられる。

自分を捕まえようと躍起になっていた生徒達から降参の雰囲気を感じ取ると、快斗は改めて腕の中の男に小さく呟いた。

「逃げようなんて思うな。俺を敵に回すと恐いぜ?」

「・・・そんな事知ってるよ・・・」

吐き捨てるような小さな声。

どうやら観念したようだ。

その気配を敏感に感じ取って快斗は少し腕の力を弛める。

今や遠巻きにしか二人を伺ってこない江古田生徒に二人の会話は聞こえる筈も無く、快斗は安心して少し砕けた口調で話す。

「何が目的なんだ?俺に恨みが有るようだけど、何がしたかったんだ?」

「『当然』って顔して与えられた『幸せ』に浸ってるてめぇが許せねーんだよ。」

翳ったその表情に快斗は思い当たる節が有って、うんざりと溜め息を吐いた。





何度目だっけ?これ?





思わず脱力の余りトランプ銃を取り落としそうになって、慌ててグリップを握り直す。

生徒会室まで後僅か。

「あのな。勘違いしてるようだからばしっと言っておくが、俺は青子を手に入れる為に多大なる努力をそれこそ幼少の砌から今まで誰よりも必死にやってきたんだぜ!」

男に言い聞かせるように力説する快斗。





――― そう・・・今回の一幕は結局青子に恋慕を抱いていた男の最後の悪あがきだった。





快斗が青子の『恋人宣言』をしてから早1ヶ月。



まだこんな輩が潜んでいようとはさすがのキッドも思い及ばなかった。

先月だけで9件。



まだまだ増えそうな気配である。





「はっ・・・幼馴染ってだけでスタートダッシュ掛けてるひきょうモンが何言ったって鼻につくんだよ!」

精一杯の勇気でギロッと快斗を睨み付けるその男に血も凍るような一瞥を返す快斗。

容赦無いのは青子への未練をすっぱりと断ちきらせる為。

後々の騒動の種は刈り取っておくに限る。

「今回の事はこれで水に流してやる。」



すっと冷える空気。

「青子には金輪際近付くな。犯罪すれすれの騒動を起こした我が身を反省するんだな。」



とんっと軽く背中を突き放して快斗は目の前の生徒会室へと入って行った。

残された男は悔しそうに唇を噛んで、でも『黒羽快斗』という未知数の人間を正面切って敵に回してまで立ち回る度胸も掴み取れず、そのまま肩を落として去って行った。







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